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# 第二十三話 もっと教えて(レクシア視点)

 センセイの傷が、すっかり癒えた頃、私は、一つの決意を固めていた。


 このまま、宿暮らしを続けさせるわけにはいかない。あの牢の中で、動けない身体のまま、それでも私たちを守ろうとしたセンセイの姿が、頭から離れなかった。センセイは、これからも、誰かのために、危険を顧みず飛び込んでいくに違いなかった。ならば、せめて、帰ってこられる場所を、私が用意しなければならない。


 私は、まず、「大盾」のガランに相談を持ちかけた。


「拠点を探してる。できれば、静かな場所がいい」


「珍しいな、お前がそんなことを言い出すとは」


 ガランは、そう言いながらも、心当たりを幾つか教えてくれた。それだけでは飽き足らず、私は、これまで一緒に依頼をこなしてきた冒険者たちにも、片っ端から声をかけて回った。冒険者ギルドの受付にも、良い物件があれば教えてほしいと頼み込んだ。


 情報が集まる中で、一つの候補が浮かび上がった。王都の外れ、郊外にある、古い廃教会だった。長らく使われておらず、荒れ果ててはいたが、敷地は広く、増築すれば、多くの人間を住まわせることもできそうだった。何より、値段が、驚くほど安かった。


 値段交渉には、冒険者ギルドの顔役が、間に立ってくれた。これまでの依頼の実績と、あの魔獣討伐の噂が、思わぬところで役に立った。


 購入の手続きを済ませたのは、それから一週間も経たないうちのことだった。


 私は、その報告を、センセイにする際、あらかじめ、反対されることを見越していた。案の定、話を聞いたセンセイは、眉をひそめた。


「待て。お前が稼いだ金だろう。俺のために使う必要は」


「ない、とは言わせない」


 私は、あらかじめ用意していた言葉を、一息に並べ立てた。


「まず、宿暮らしは、いつまでも続けられるものじゃない。毎日の宿代だって、馬鹿にならない。次に、センセイは、剣も魔法も使えない。この間みたいなことが、また起きないとは限らない。拠点があれば、少なくとも、寝床の心配だけはしなくて済む。それに」


 私は、そこで一度、言葉を切った。


「これから先も、センセイは、きっと、また誰かを拾ってくる。私やマレアみたいに。困っている子供を、見捨てられない性分だってことくらい、私にはもう、わかってる。だったら、その子たちを迎えられる場所を、今のうちに用意しておくべきでしょ」


 センセイは、何か言い返そうとしたが、言葉に詰まったように、口を閉ざした。この数日の看病の間に、いつの間にか、言い負かされる側は、すっかり逆転していた。


「わかった。……ありがとう」


 センセイが、そう言って頭を下げたのを見て、私は、胸の奥に、温かいものが広がるのを感じた。


 修繕には、マレアも加わってくれた。鍛冶ギルドの仕事の合間を縫って、蝶番や、金具の修理を、一手に引き受けてくれた。ガランたち「大盾」の面々も、力仕事だけならと、休みの日に何度か手伝いに来てくれた。


 埃を払い、割れた窓を直し、崩れかけた壁を修復していく中で、廃教会は、少しずつ、人の住める場所へと姿を変えていった。


 ある夜、作業を終え、埃だらけになったセンセイの顔を見ながら、私は、ふと、ずっと考えていたことを口にした。


「センセイ」


「なんだ」


「ここで、私に、もっといろんなことを教えて」


 センセイは、驚いたように、私を見た。


「マレアにしたみたいに、魔法のことだけじゃなくて、色々。この世界のことも、まだ知らないことだらけだから、もっと」


 私がそう言うと、センセイは、しばらく黙っていたが、やがて、いつもの、素っ気ない調子で、それでも、どこか嬉しそうに、頷いた。


「わかった。付き合ってやる」

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