# 第二十一話 立場の逆転(レクシア視点)
センセイを宿に連れ帰った夜から、私は、看病というものを、生まれて初めて経験することになった。
殴られた痕は、思っていたより深く、センセイは、しばらくの間、まともに起き上がることもできなかった。私は、水を汲み、傷に布を当て、粥を作り(生まれてこの方、まともに料理などしたことはなかったが)、それを、匙で、センセイの口元まで運んだ。
「一人で、食える」
センセイは、そう言って、渋い顔をしたが、震える手で匙を持たせても、案の定、うまく口元まで運べていなかった。
「無理しなくていい。私がやる」
私がそう言うと、センセイは、しばらく抵抗していたが、やがて、諦めたように、大人しく口を開けるようになった。その姿を見ていると、不思議と、胸の奥が温かくなった。これまで、ずっと世話をされる側だった自分が、今、初めて、センセイの世話をしている。その事実が、どういうわけか、嬉しくてたまらなかった。
傷が癒えていく間、私は、ギルドから正式な通達を受け取った。あの森での討伐の功績が認められ、等級が、二段階、まとめて引き上げられたという知らせだった。
「等級、上がった」
私が報告すると、センセイは、寝台の上で、少し驚いたような顔をした。
「大したもんだな」
「センセイのおかげ」
「俺は何もしてない。お前が戦ったんだろう」
「センセイが、あの理屈を教えてくれなかったら、私は、あの魔獣にすら、まともに立ち向かえなかった」
センセイは、少し困ったような顔で、視線を逸らした。褒められることに、いつまでも慣れない人だった。
マレアもまた、事件から数日後、同じ宿に戻ってきた。あの鍛冶ギルドとは、正式に縁を切ったという。宿の主人は、二つ返事で、マレアを再び迎え入れた。
マレアは、戻ってきてすぐ、宿の裏手の作業場に立ち、また槌を振るい始めた。センセイの看病をしながら、私は、その音を聞くたびに、少しだけ、安堵の息を漏らしていた。
センセイは、傷が癒えるにつれ、少しずつ、いつもの調子を取り戻していった。だが、私の中では、この数日の看病を通じて、何かが、確実に変わっていた。
これまで、私はずっと、センセイに守られる側だった。だが、あの牢の中で、動けない身体のまま、それでも私たちのために叫び続けたセンセイの姿を見て以来、私は、今度こそ、自分がセンセイを守る番なのだと、強く思うようになっていた。




