# 第二十話 弱い男の言葉
裏口の扉は、レクシアの一撃で、あっけなく蹴破られた。
中にいた見張りの男たちが、何事かと駆けつけてきたが、レクシアの放つ魔法の前では、まともな抵抗にすらならなかった。悲鳴と怒号が、店の中に飛び交った。
地下の牢の中、その物音を聞きながら、私は、マレアと顔を見合わせた。
「今の、レクシアか」
「多分な」
私が答えると、マレアは、涙の跡が残る顔で、それでも小さく頷いた。
やがて、階段を駆け下りてくる足音がして、鉄格子の向こうに、レクシアの姿が現れた。その表情には、これまで見たことのない、冷たい怒りが浮かんでいた。
「センセイ」
短く名を呼ぶと、レクシアは、鉄格子に手をかけた。鍵などお構いなしに、力任せにねじ切ろうとするその姿に、私は、慌てて声をかけた。
「待て、外にも見張りがいるはずだ」
その言葉が終わるより早く、店の奥から、複数の足音が近づいてきた。先ほど私を痛めつけた男たちだった。先頭に立つ、恰幅の良い、この店の主人らしき男が、忌々しげにレクシアを睨みつけた。
「たかが小娘一人に、好き放題されてたまるか」
男の合図で、周囲の男たちが、一斉にレクシアへと襲いかかった。数はまだ、こちらより多い。だが、レクシアの動きは、これまで見てきたどの戦いよりも、鋭さを増していた。
それでも、多勢に無勢だった。次第に、レクシアの息が上がっていくのが、牢の中からでも見て取れた。
私は、鉄格子を握りしめた。何もできない自分が、ただ、もどかしかった。剣も使えず、魔法も使えず、こうして牢に囚われたまま、大切な者たちが傷つく様を、見ていることしかできない。
それでも、私は、叫ばずにはいられなかった。
「その子らに、これ以上、手を出すな!」
声が、掠れていた。それでも、腹の底から、言葉が溢れ出てくるのを、止められなかった。
「マレアは、震える手で、それでも、自分の腕を磨きたいと願った。レクシアは、文字を読めない身で、それでも、誰も辿り着けない魔法の理屈を、自分の力で掴み取った。お前らが、金と力ずくで奪おうとしているのは、この子たちが、自分の意志で選び取った、これからの人生そのものだ!」
男たちの何人かが、一瞬、手を止めた。
「人には、誰にでも、尊厳がある。学びたいと願う心を、金で縛りつけていい理由には、絶対にならない。この子たちの人生を、これ以上、お前らの都合で汚すな!」
叫びながら、私は、いつの間にか、涙を流していることに気づいた。情けなさなのか、怒りなのか、自分でも判別がつかなかった。ただ、言葉が、止まらなかった。
その叫びが届いたのかどうかは、わからない。だが、束の間、男たちの動きに生まれた迷いを、レクシアは見逃さなかった。
その隙をついて、レクシアの放った一撃が、主人らしき男を吹き飛ばした。統率を失った男たちは、たちまち浮き足立ち、我先にと逃げ出し始めた。
辺りが、静まり返った。
レクシアは、荒い息をつきながら、鉄格子へと駆け寄り、今度こそ、その格子を、力任せにねじ曲げた。
牢から出た私を、レクシアは、強く、強く、抱きしめた。
「無事で、良かった」
その声は、震えていた。私は、痛む身体で、どうにか、その背をそっと叩いた。
「お前こそ、よく、来てくれた」
マレアもまた、震える足で牢を出ながら、涙に濡れた顔で、小さく笑った。
「センセイもレクシアも、揃いも揃って、無茶ばっかりだ」
その軽口に、私たちは、痛みも忘れて、少しだけ、笑い合った。




