# 第十六話 大盾のパーティ(レクシア視点)
その日の依頼票を見たとき、私は、少しだけ気合が入るのを感じていた。
中堅の冒険者パーティ「大盾」からの、臨時雇いの依頼。王都から徒歩で三、四日ほどかかる森での、魔獣討伐。等級だけで見れば、私一人で受けるにはまだ早いとされる規模の仕事だったが、パーティへの臨時加入という形であれば、話は別だった。
依頼を受けると決めた朝、私は、水路の仕事に出かけるセンセイを、宿の前まで見送った。
「数日、留守にするから」
「気をつけてな」
センセイは、いつも通りの、素っ気ない調子でそう言った。心配しているのかいないのか、その顔からは、いつも読み取りにくかった。だが、私は、この一年半ほどの付き合いで、その素っ気なさの奥に、ちゃんと別のものがあることを知っていた。
「行ってきます」
そう言うと、センセイは、少しだけ、口の端を緩めた。
「行ってこい」
その一言だけで、十分だった。私は、集合場所である冒険者ギルドの前へと向かった。
「大盾」のリーダーは、ガランという名の、恰幅の良い戦士だった。盾役の彼を中心に、剣士が二人、回復役の神官が一人、そして、パーティお抱えの魔術師が一人という編成だった。
「臨時とはいえ、期待してるぞ。噂は聞いてる」
ガランは、そう言って、私の肩を軽く叩いた。噂、というのが具体的に何を指しているのか、私にはあまりぴんと来ていなかった。ただ、自分の力を試せる場が増えることには、素直に胸が高鳴った。
王都を出て、街道を進むこと、まる一日。パーティの面々とは、最初こそ距離があったが、野営を重ねるうちに、少しずつ打ち解けていった。
二日目の昼過ぎ、街道を外れ、森の入り口に差し掛かったところで、最初の魔物との遭遇があった。
牙を剥き出しにした、狼型の魔物の群れだった。パーティお抱えの魔術師が、すぐさま前に出て、腰に提げた魔術書を引き抜いた。頁を素早く繰り、目当ての術式を開くと、それを目で追いながら、詠唱を始めた。
「業火よ、我が意に従え──」
流れるような詠唱だった。この世界で、正規の教育を受けた魔術師の詠唱というものを、私はこのとき、初めてまともに目にした。魔術書に記された文字を、寸分違わず心象に変換する。長年の修練でしか得られない、洗練された技術であることは、素人の私にも見て取れた。
魔術師の呪文が完成し、狼の一体に、炎の塊が命中した。狼は怯み、動きを止めた。だが、それだけだった。致命傷には至らず、狼は、すぐに体勢を立て直した。
私は、その光景を見ながら、頭の中で、センセイの言葉を思い出していた。
――粒が、手をつなぎ直す。つなぎ直すとき、余った力が、熱と光になって溢れ出す。
目の前の狼の毛皮は、湿っていた。森の湿気を、たっぷりと吸い込んでいる。水分を多く含んだものに、ただ炎の塊をぶつけるだけでは、余分な力の多くが、蒸発する水分に奪われてしまう。威力が伝わりきらないのは、当然のことだった。
私は、詠唱を必要としなかった。文字も、決まった呪文も、私の中にはない。ただ、目の前の現象を、頭の中で、ありありと思い描くだけだった。
狼の毛皮の中に染み込んだ水分。その水分の粒が、急激な熱を受けて、内側から沸き立ち、毛皮の表面を突き破るように、炎となって噴き出す様を。
手のひらに、熱が集まった。それを、思い描いた通りの形で、解き放った。




