# 第十五話 地下牢
その日の仕事を早々に切り上げ、私は、あの鍛冶ギルドへと向かった。
正面から名乗り出たところで、まともに取り合ってもらえるはずがない。私は、それとなく事情を探るつもりで、受付の男に声をかけた。
「腕のいい職人が、欲しいんだが」
男は、私の身なりを一瞥し、それから、少し声を潜めて言った。
「ああ……そちら側の御用でしたか。少々お待ちを」
妙な間があった。話が噛み合っていない気配を感じつつも、私は、下手に問い質して警戒されるよりはと、黙って頷いた。男は、こちらの身なりや、金の匂いのしない佇まいに、どこか腑に落ちない様子を見せながらも、それでも「上客を無下にはできない」とでも言いたげに、疑いを飲み込んで、私を店の奥へと案内し始めた。
「腕は保証します。多少、素行に難ありでしたが、うちでしっかり躾け直しましたので」
その言葉の意味を、私はまだ、正確には掴めていなかった。だが、通された先で、その意味を、嫌というほど思い知らされることになった。
薄暗く、埃っぽい奥の作業場。そこに、痩せ細り、目の下に濃い隈を作ったマレアの姿があった。頬には、殴られた痕らしい、青黒い痣があった。震える手に、無理やり槌を握らされ、監視役らしき男に、怒鳴りつけられている最中だった。
「マレア!」
私は、案内の男を突き飛ばし、駆け寄った。マレアの腕を掴み、そのまま連れ出そうとした。
だが、抵抗する間もなかった。周囲にいた男たちが、あっという間に群がり、私は、あっけなく地面に組み伏せられた。
「客のふりして、何のつもりだ」
案内の男が、忌々しげに、私の懐から冒険者タグを引き抜いた。タグに刻まれた等級を確かめた男は、下卑た笑いを浮かべた。
「なんだ、最底辺じゃねえか。ちょうどいい」
「王都にゃ、お前みたいな最底辺の冒険者が、腐るほどいる。一人や二人、消えたところで、誰も気づきゃしない」
男の言葉に、周囲の男たちが、下品な笑い声を上げた。私は、そのまま、奴隷市場に売り飛ばす算段をされていることを、朦朧とする意識の中で理解した。
私が暴れたことで、店の中は、にわかに慌ただしくなった。マレアの引き渡しの予定も、この騒ぎのせいで、急遽早められることになったらしい。男たちの怒声が、そう告げていた。
なおも暴れる私に、男たちは容赦なく拳と蹴りを浴びせた。視界が霞み、耳鳴りがした。抵抗する力も、次第に奪われていった。
気づいたときには、私は、マレアと共に、地下へと引きずられていくところだった。
連れて行かれた先は、地下へと続く、狭い階段だった。突き飛ばされるようにして、私たちは、鉄格子の嵌まった小部屋に、まとめて放り込まれた。
扉が閉まる、重い音がした。
薄暗い牢の中、私は、痛む身体を引きずるようにして、身を起こした。すぐ傍には、隅で膝を抱えるようにして座り込む、マレアの姿があった。
「マレア、大丈夫か?」
私は、痛む身体を引きずるようにして、彼女の傍に近づいた。動かない足に苛立ちながら、それでも、なんとか手を伸ばそうとする私を見て、マレアは、ふっと、力の抜けたような笑いを漏らした。
「なんだよ、それ。自分だって、ろくに動けないくせに」
その声は、笑いながらも、明らかに震えていた。
「センセイの言った通りだった」
マレアは、俯いたまま、そう呟いた。
「震える手でも、無理さえなければ、ちゃんと打てる。でも、無理をさせられたら、簡単に崩れる。あんたは、そう言ってた。あたしは、それでも、自分の力を試したかった。あの人たちなら、認めてくれると思った」
声が、次第に、湿り気を帯びていった。
「馬鹿みたいだ。あたし」
抑えきれなくなったように、マレアは、両手で顔を覆った。指の隙間から、堪えきれない嗚咽が漏れ始めた。
私は、何も言わず、ただ、その震える背中に、そっと手を置いた。




