# 第十二話 手が震える鍛冶屋志望
王都でも、街の清掃という仕事は、変わらず私に回ってくる仕事の一つだった。
規模の大きい街だけあって、水路の数も、以前の街とは比較にならなかった。私は、以前と同じように熊手を担ぎ、割り当てられた区画を、黙々とさらっていった。身体が、この作業の呼吸を覚えているのが、自分でもわかった。
ある日、いつもの区画に向かうと、先客がいた。小柄な体格に、少し赤みがかかった肌の色。耳の形と、特徴的な肌の色で、それがドワーフの子供だとわかった。歳の頃は、十かそこらに見えた。
子供は、熊手を握ってはいたが、その動きは、どこかぎこちなかった。汚泥をすくおうとするたびに、手元が揺れ、狙った場所に熊手の先が入らない。何度も同じ場所を掻いては、失敗を繰り返していた。
「見ない顔だな」
私が声をかけると、子供は、びくりと肩を震わせて振り返った。警戒するような目だった。
「新入りか」
「……うん」
短い返事だった。子供は、また熊手に向き直り、作業を再開しようとした。だが、やはり手元は震え、狙った位置からずれてしまう。舌打ちに似た、小さな苛立ちの声が漏れた。
「手伝おうか」
「いらない」
即座に、強い口調で断られた。だが、その後も作業は一向に捗らず、子供は、悔しそうに唇を噛んでいた。
私は、それ以上は何も言わず、自分の担当区画に移り、いつも通りに作業を始めた。ただ、視界の端では、その子供の様子を、無意識に観察し続けていた。
手先の震えは、疲れによるものではなさそうだった。力を入れれば入れるほど、かえって狙いが定まらなくなる。集中しようとするほど、動きがぎこちなくなる。教員時代、似たような特性を持つ生徒を、何人か見てきた覚えがあった。力の入れ方や、動作の順序を、身体が思うように処理しきれない。本人の努力や根性の問題ではない、それは、そういう特性なのだと、当時、専門の研修で聞いたことがあった。
数日後、また同じ区画で、その子供と顔を合わせた。今日もまた、震える手で、悪戦苦闘しているところだった。
「一つ、聞いていいか」
私が声をかけると、子供は、うんざりしたような顔を向けた。
「なんだよ」
「熊手を、狙った場所に、正確に入れたいのか。それとも、力任せに搔き出したいのか」
子供は、一瞬、きょとんとした顔をした。
「……前者、だけど」
「なら、力を抜け。狙う場所を見て、そこに向かって、腕を振り子のように動かす。力を込めるのは、当てる瞬間だけでいい」
半信半疑の様子だったが、子供は、言われた通りにやってみた。最初は、やはりうまくいかなかった。だが、何度か繰り返すうちに、少しずつ、熊手の先が、狙った位置に近づいていくようになった。
子供は、驚いたように、自分の手元と、私の顔とを、何度も見比べていた。
「なんで、わかるんだ」
「見てただけだ。お前の失敗が、いつも同じ癖から来ているのが、なんとなくわかった」
子供は、しばらく黙り込んでいたが、やがて、ぽつりと言った。
「私、鍛冶屋になれなかったんだ」
その一言に、私はすぐには何も答えなかった。ドワーフという種族にとって、鍛冶とは、ほとんど誇りそのものだと、王都に来てから何度か耳にしていた。
「でも、無理だって、皆に言われる。手が、こんなだから」
子供は、自分の両手を、恨めしそうに見つめていた。
私は、その手を、しばらく黙って見ていた。それから、ゆっくりと言った。
「無理かどうかは、まだわからないだろう」




