# 第十一話 受け取らない金
レクシアの活躍は、思っていたよりずっと早く形になった。
最初の依頼は、街道沿いに出る小型の魔物の討伐だった。等級の低い者に回される、危険度も報酬も控えめな仕事のはずだった。だが、レクシアが戻ってきたとき、依頼票に記された討伐数は、想定されていた数を大きく上回っていた。
「多く見つけたから、全部倒した」
本人は、事も無げにそう言った。ギルドの受付は、依頼票を二度見していた。
その日を境に、レクシアの評判は、じわじわとギルドの中に広まっていった。討伐にせよ、採取にせよ、彼女がこなす依頼は、いつも規定の水準をはるかに超えていた。等級は、通常であれば何ヶ月もかけて上がっていくものだと聞いていたが、レクシアの場合は、数週間のうちに、周囲が困惑するほどの速さで数字を更新していった。
依頼をこなすたびに、レクシアの懐には、それなりの額の金が溜まっていった。ある晩、彼女は、稼いだ金の入った袋を、私の前に差し出した。
「これ、使って」
「いらん」
私は即座に断った。レクシアは、不満そうに眉を寄せた。
「なんで。私が稼いだお金だよ」
「だからこそだ。お前が命を張って稼いだ金を、俺が使う理由がない」
レクシアは、しばらく黙って私を見つめていたが、やがて、諦めたようにため息をついて、袋を引っ込めた。だが、その表情には、納得しきれない色が、はっきりと残っていた。
この押し問答は、それから何度も繰り返された。レクシアは金を差し出し、私は断る。時には、宿代や食費を、こっそりレクシアが多めに払おうとしていることに、後から気づくこともあった。そのたびに、私は差額を突き返し、レクシアは、口を尖らせながらそれを受け取った。
私自身は、以前の街と変わらず、薬草採取や、荷運び、街の清掃といった、体力よりも根気を求められる仕事を続けていた。日当は、レクシアの稼ぎに比べれば、話にならないほど僅かなものだった。それでも、その金で自分の食い扶持を賄うことに、私はこだわり続けた。
ギルドの中では、当然のように、私を見る目は冷ややかだった。
「あの女の連れ、いつまで底辺の依頼をやってるんだ」
「稼がせてるだけならまだしも、自分は雑用かよ」
聞こえよがしの陰口は、日常茶飯事だった。だが、私はそれを、特に気にはしていなかった。冒険者としての実力で評価される場所で、私に評価される点など、最初から何一つないことは、自分が一番よくわかっていた。他人の評価に振り回されるくらいなら、目の前の仕事を、丁寧にこなすことの方が、よほど性に合っていた。
レクシアは、そうした陰口を聞くたびに、明らかに苛立った様子を見せた。何度か、言い返そうとする彼女を、私は目で制した。
「気にするな。俺は、それでいい」
「私は、気になる」
レクシアは、そう言って、唇を尖らせた。それでも、私が本気で止めないとわかると、渋々ながら、矛を収めるのが常だった。
夜、宿の部屋で、レクシアはよく、その日の依頼の話をした。どんな魔物と戦ったか、どんな景色を見たか。私はそれを、いつも興味深く聞いていた。彼女の話す言葉は、日を追うごとに、豊かになっていった。かつて、奴隷市場で俯いていた少女の面影は、もう、ほとんど残っていなかった。
腹立たしいはずの、金を受け取らない同居人との生活を、それでもレクシアは、どこか楽しんでいるようだった。文句を言いながらも、彼女が私のもとを離れようとする気配は、微塵もなかった。




