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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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【閑話】双子のお披露目会 4

「ケルトさん、その子を楽にしてあげられます。私に抱っこさせてください」

「ブリエンデリケルト、奈津は癒し手だよ」

「なんと」

 ケルトさんとネルさんはとても驚いた様子だったけど、ネルさんが素早くケルトさんから女の子を抱き上げて私の膝の上に乗せてくれた。

 女の子は左の膝が一番青白く光っていて、体全体はほんのりと発光している程度。それほど重い症状ではなかったけど、この症状が長引いていたのなら子供の身で辛かっただろう。

「大丈夫だよ。楽になるからね」

 潤んだ瞳でジッと見上げてくる女の子と目線を合わせながら、私はゆっくりと左膝を中心に体全体を撫でていく。胸部の光は弱いけど、呼吸が苦しそうなんだよね。体の負担を除いて身体機能の回復を図るべく、上半身の淀んでいる魔素も吸い取る様に手当をしていく。女の子の呼吸は楽になったようで、荒い口呼吸から落ち着いた鼻呼吸に変わった。女の子の様子を見てネルさんが涙ぐんでいた。

「なんとありがたい事か。黄金蓮華を託すことができ、しかもその相手が癒し手を連れてきてくれるとは。これもアーウェンの導きか」

 アーウェンは既にこの世界の大気に溶けて還ってしまっているのだけど、セイはその事は黙っていた。

「魔障熱を出している人は他に居ませんか?」

「今はこの子だけだ。私の子孫で、黒髪黒目の子供が必ずこの状態になるのだ。生き延びられるのは半数もいるかと言う所だ。生き延びた子は力のある魔術士となり、この地を守る力となるのだが」

 ひょっとして、ケルトさんが魔国に居た時代には魔障熱という物がまだ認知されていなかったのかもしれない。

「ケルトさん。この子の状態は魔障熱といいます。魔力量が多い子供が掛かりやすいんです」

「・・・そうなのか」

 ケルトさんの言葉が少なくなる。

 これまで命を落とした子供達は魔力量が多い、大きな可能性を秘めた子供達だったのだろうから。

 私の腕の中で呼吸が楽になった女の子は寝入ってしまった。ネルさんがお礼を言いながら私から女の子を受け取った。

「あ、そうだ!」

 私はある事を思い出して、寝そべっている小虎ちゃんの所まで走り、台座に積まれていた荷物を漁った。荷物の中から衛生用品のポーチを取り出す。その中にはヘアゴムの代わりにしていた白いコイルが5個入っている。これは疑似魔力回路なのだ。

 錬金術部門で今では様々な疑似魔力回路が作り出されていて、軍部の皆さんはもちろん一般国民の皆さんも事故や怪我でその後の人生を諦める事無く生きていけるようになっている。

 その回路の形は義手や義足はもちろん、アクセサリーやショールなど多様な形が作られている。このコイル型の疑似魔力回路は、日本にあったヘアゴムの丸パクリなのである。コイル型になっているので、長い回路をコンパクトにまとめる事が出来て、なんなら女性はヘアゴムにも使えるという一石二鳥のアイデア商品だ。使用方法は髪を結んだり、手足に嵌めるだけでOKだ。

 この開発に錬金術部門の皆さんも私も自信があったのだけど、人気はイマイチ。やはり女性は実用一辺倒のヘアゴムをつけるよりも綺麗なアクセサリーの方がお好きだよね。でも私はヘアゴムとしての使い勝手が良いので、ほぼ完成形の試作品を何個かもらってきていた。

 今は全く魔素を吸っていない真っ白なコイルをそっと女の子の左足首に嵌めると、柔らかく足首に嵌まったと同時に淡い水色に発光しながらコイルは明滅を繰り返し始めた。

「こ、これは、なんでございますか」

「この子の体をもっと楽にしてくれる物ですよ。光が明滅しているのは、この子の体に収まり切れない魔力をこのコイルが吸い取っているんです。光が明滅せずに光りっぱなしになったら魔力が満タンになった合図です。そうなったら別のコイルに取り換えてください。体に負担になる程魔力を吸い取ったりしないので安心してくださいね。満タンのコイルは体から外して放っておけば一週間ほどでまた魔力が空の状態になるので、何度でも使えます」

 本当に、錬金術部門はすごい疑似魔力回路を作り出したものだ。しかも状態保存の魔法をかけているので、故意に壊したりしない限り半永久的に使える優れモノだ。

 泣きながらお礼をいうネルさんに、足首に付けた物の他に4つのコイルを渡す。ネルさんは何度も頭を下げながら女の子を連れて家の中に入っていった。

「癒し手よ。礼を言う。これで生き延びられる子供も増えるだろう」

「こちらこそ。黄金蓮華のせめてものお礼なので」

「私の寿命が尽きる前に、この地の力を強くせねばならないからな。子供を救い、戦士を増やさねば」

 どんどん数を減らす黄金蓮華といい、地上の楽園の戦力増強計画といい、何だか不安になる事ばっかりケルトさんが言うんだけれど・・・。

「ケルトはあと何年生きられるの?」

 聞きにくい事をズバッとセイが聞いていくれた。

「あと1000年程は生き永らえようがな」

 ケルトさんはここに来て3000年以上経つんだよね。寿命があと1000年しかない、という感覚なのかもしれない。

「戦力を増やす必要があるの?」

「いずれ人族の手は、この崖下の楽園に届くだろうからな」

 人族の争いにより怪我を負った奥さんとケルトさんはこの地に逃げ延びて、その後はケルトさんを頼る亜人達がどんどんと集まり、人族の目を逃れて亜人達が安心して暮らせる集落が出来上がった。

 住み分けをし、なるべく人族に関わらずに過ごしてきたケルトさんと亜人達だけど、好奇心旺盛な子供や若者が崖上の草原まで行ってしまい、不幸にも人族に攫われる事が数十年に一度の割合であった。それは事故のような物であり、よっぽど運が悪い者が攫われるという亜人側の認識だったのだけど、ここ数年、草原に遊びに行った子供が帰らない事が度々起こるようになった。人族が亜人の出没場所を認識し、定期的に草原を探すようになってきたのだ。

 ミーアキャットと遊びに来ていた子供達は大変な危険を冒していた訳で、その後集落の大人達にこっぴどく叱られたらしい。

「今はまだ我らの力は足りない。だからこの地で力をつけなければならない」

 この話はなんとも、心が重くなる。

 前に一度ディアス帝国の軍勢を見たことがある。いくら人族よりも身体能力が優れた亜人達でも、数百の人数で万を超える軍勢を相手には出来ないだろう。

 頑張って下さいなんて、気軽に言えない。

「癒し手は優しいな」

 私の不安と心配はまたも思い切り顔に出ていたらしい。

「我らも好んで戦うつもりはない。だが、無抵抗のまま人族に蹂躙されるつもりもない。いずれこの地が暴かれる時、人族が我らを好きに出来ない程に武力を持っていれば、そこで初めて対等な関係も築けよう。癒し手よ。我らが今と変らぬ平穏を望んでいる事は信じて欲しい」

「はい」

 この地に住む者ではない私達がどうこう言える問題ではないのだ。

「この地の平穏が続く事、子供達が元気に大きくなる事を祈っています」

「私も我が故郷の永久なる平和を願おう」

 なんだか最後は、私が一方的にしんみりしてしまった。

「ブリエンデリケルト。亜人が絶滅の憂き目に遭いそうになったら、躊躇しないでみんなで魔国に来てね」

「・・・もしもの時は頼む」

 絶滅の憂き目に遭いそうになるまで人族と徹底抗戦しなくて良いので、早い判断をケルトさんにはお願いしたいです!

 でもセイの申し出をケルトさんが受けてくれた事に私はやっと安心できた。

 はあーっとため息をついた私をケルトさんは不思議そうに見つめていた。

「初めて来た地の、初めて会う者達だろうに。癒し手とは慈悲深いものだな」

「奈津は目の前の困っている人、みんなを救おうとする。相手に共感して心身を削って一喜一憂するから、夫としても気が気じゃない。だから、ブリエンデリケルトは奈津が心配しなくて済むようにちゃんと頑張ってね」

「ははは!」

 セイは何を言い出すのかと思ったら、自分の妻に手を焼いていますなんて事を初対面のケルトさんに言わなくていいから!

 ケルトさんは心の底から大笑いしていた。お恥ずかしい。

「200年位経ったら、ブリエンデリケルトがちゃんと頑張っているか様子を見に来る」

 ケルトさんはお腹を抱えて笑い続けているけど、私は分かった。これ、セイは大真面目に言っている。

「・・・セイ、絶対にまた、ケルトさんに会いに来ようね。セイのお友達だもんね」

 セイは私の言葉を認める様にしっかりコックリ頷いた。

「は・・・」

 ケルトさんはびっくりしたように、私の友人発言を首肯したセイを見つめていた。

 セイは私とノエイデス家、クルム君とヴィントさん近辺以外には、基本人に対して非常に関心が薄い。友人と呼べるのはカイトお兄ちゃんしかいないしね。けれども魔王として生きてきたら仕方がない部分もある。周囲の人全員が王の臣下だから、立ち位置としても周囲の人が友人となる事は難しかった。

 けれどケルトさんに対してセイは、明らかに興味を持っているんだよね。セイの感情は分かりづらいけど、どうでも良いと思っている相手には「もう一度会いに来る」なんて絶対言わないからね。セイが社交辞令を言う事もない。

 分かりにくいけど、分かりにくいけど、セイは友人認定する位に好感を持ったみたいなんですよ、ケルトさん!

「・・・そうか、友と呼んでくれるか。魔族の友が出来るのは、これまた久方ぶりだな」

 真顔で頷くセイの前で、ケルトさんは嬉しそうに笑っている。

「それでは友よ。その妻と双翼、神獣も。また私達に会いに来い。この地は今以上に賑やかになっていると約束しよう。必ず会いに来いよ」

 ケルトさんはセイと握手した。

 魔国ではセイと握手する相手も限られているので、握手できる相手が増えるって、セイにとってはやっぱり大きい事だったと思う。


 ケルトさんと楽園の人々と別れの挨拶を交わし、帰路は一瞬で魔国の神域に戻って来た。

「セイ、お友達出来て良かったね!」

 黄金蓮華をゲット出来た事は良かったんだけど、人との出会いは物やお金以上の価値があると思うんだよね。単純にセイに友達が出来て私はとても嬉しかった。とっても実り多き旅でした。

「200年後に備えて、コイル型の回路をもっとたくさん集めておかなきゃ!」

 こういう所が、私はどうしようもなく根本が庶民なのだった。

 疑似魔力回路集めにやる気を漲らせていた私は、笑顔のセイにしばらく頭を撫でられ続けた。その後セイは錬金術部門に飛んであっという間にコイル型疑似魔力回路を200個もらって来たのだった。

 これが権力の使い方かー。

 セイは物凄い笑顔で疑似魔力回路を持ち帰ったんだけど、爆笑の一歩手前の笑顔だったよね。

「奈津は可愛いねえ。集めるって、試作品貰ったり地道に回路を収集しようとしたの?それか市場に出回っている物を買い集めるつもりだったのかな?疑似魔力回路の発案者は奈津なんだから、錬金術部門に言えば何個でもタダで疑似回路もらえるんだよ?」

「そんな事、全然思いつかなかったよ」

 とうとうセイは爆笑した。セイは最近よく笑うようになったよね。私が笑われているだけの事も多々あるけれどね。私の前だけじゃなくてノエイデス家の家族の前でも笑うようになってきているし、セイの感情が豊かになってきているようでこれも嬉しい変化だなあと、日々の生活の中でしみじみ思います。

 そしてセイは200年待たずに疑似魔力回路をすぐケルトさんに届けた。そうだよね、200年待つ必要なかったよねー!

 ちなみに200個のコイル型疑似魔力回路を渡されたケルトさんも大笑いしていた。

「これは更にこの楽園を繁栄させねばな!私も人任せにせず、しばらくぶりに子を成してみるか」

「大爺様、その際は3部族から最低でも1人ずつ娘を娶って下さいませ。喧嘩になりますから」

 ケルトさんの隣でネルさんもそんな事を言う。

 うわー。そんな意図は無かったんだけど!でも子供をたくさん作ってくださいと同義だったかも。

 頬に熱が集まる私の横でセイが真顔で「しっかり励め」とかケルトさんに言うもんだから、私はますます赤面し、ケルトさんは楽しそうに笑っていた。

 会う度に笑い合える友達って、いいよね。

 200年後と言わず、ちょくちょくこの楽園に遊びに来る事になるんじゃないかなーと思える、セイとケルトさんの雰囲気の良さでした。

 

 そんなこんなで、私達黄金蓮華採取チームの旅(という名の新婚旅行)は1カ月と少しで終了した。ブランパパはお金に物を言わせて紅大宝貝を現在も捜索中なので、ずっとノエイデス家で普段と変わらずに過ごしていた。お兄ちゃんはまだ深淵の森から戻っていないそうだけど、時々トランお爺ちゃんがノエイデス家に食材調達に訪れているそう。

 そして株分けしてもらった黄金蓮華を根付かせてみようという事になった。

 まずは神域の清川家のすぐ近くに池を作って、黄金蓮華を持ち帰った半分ほど浮かべてみた。

 残りの半分はノエイデス家に専用の池を作って、同じように黄金蓮華を浮かべてみる。

 黄金蓮華の株分けは、ドッドお爺ちゃんがザブンと池に入っていって、ブチブチと睡蓮の根っこを引き千切ると言うワイルドなものだった。

 そんな乱暴な!と私は焦ったんだけど、ケルトさん曰く、手入れを全くしなくても増えもしないし減りもしないのだそうだ。環境さえ合えば、勝手に繁殖してくれるものらしい。

 急遽作られた池の半分ほどに黄金蓮華が浮かんだ。

「根付いてくれたら良いね」

「そうだね」

 そんな私達の心配は全くの杞憂に終わった。

 神域の黄金蓮華もノエイデス家の黄金蓮華も、あっという間に池全体を程よく覆う程の繁殖力を見せ、見応えのある睡蓮池が出来上がったのだった。


 お兄ちゃん達とその部隊の皆さんは出発からキッチリ3か月後に王都に帰って来た。

 無事にドラゴンの翠玉も手に入った。

 翠玉の入手については虎母さんが手伝い過ぎてしまい、フォレストドラゴンがどうぞと5つほど巣の中から翠玉を差し出して来たのだそうだ。戦闘は一切ない、友好的な譲渡だったそうだ。それが深淵の森に着いて3日目の出来事だった。

「せっかくじゃから、稽古でもつけてやろうかの?」

 あまりにもあっけなく目的を達成してしまい、手持ち無沙汰になったノエイデス隊にトランお爺ちゃんがそう提案したのだそうだ。

 双翼の稽古。

 これは凄い。伝説の双翼の稽古なんて受けたくても受けられる物じゃない。

 お兄ちゃんと隊員の皆さんが期待に胸を膨らませていると、ニコニコしているトランお爺ちゃんの後ろに虎母さんが立った。その虎の隣には快く翠玉を提供してくれたフォレストドラゴンが立った。

「これは凄いぞ、坊主達。神獣とフォレストドラゴンがお前達に付き合ってくれるそうだ」

 え?とお兄ちゃん以下、ノエイデス隊の皆さん全員が思ったけど、深淵の森のヒエラルキーの頂点に立つトランお爺ちゃんと神獣、フォレストドラゴンを止められる者は居なかった。そしてノエイデス隊のそんなつもりじゃなかったブートキャンプの幕が上がった。

 建前であった筈の訓練遠征が本物の物となり、ノエイデス隊は2カ月みっちりと訓練に励んだ。ちなみに、一日の訓練の終わりにはトランお爺ちゃんが隊員全員に清浄魔法をかけ、たっぷりと食事を取らせ、フォレストドラゴンと神獣が見守る中眠りにつく。夜の見張り当番もなし。至れり尽くせりの野営だったそうだ。そして帰りはトランお爺ちゃんが一瞬の転移で全員を連れて戻って来た。

「えーと、盛沢山の遠征だったね」

「ああ、思わぬ部隊の底上げになった」

 そして私は今フォレストドラゴンの翠玉の魔力を抜いている最中だ。一応セイがお兄ちゃんに翠玉を収めるための魔封箱を持たせていたんだけど、私がその箱を見た時は箱全体が強く光り輝いていた。ドラゴンから取れた魔石みたいなもんだからね。

 そのままでも価値がある魔石だと思うけど、子供への贈り物であれば触っても害がないほど魔力を抜いておこうという事になりました。

 最終的には濃い緑色だった石は、透明感ある薄いキラキラした緑色に。濃い緑色の時は何だかドラゴンの圧が物凄くあったので、見た目も奇麗になったし良かったんじゃないかな。

 5個の翠玉から吸い取った魔力はいつもの如く動力部に寄付しました。動力部の皆さんの喜び様はヒャッハーレベルでした。

 そんなこんなで、黄金蓮華、翠玉、紅大宝貝は双子のお披露目会の前に無事にそろえる事が出来たのだった。



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