【閑話】双子のお披露目会 3
見た目は全員、地球で言えば10歳前後かな。
子供達はとっても可愛いのだけど、見た目が人族の特徴とは異なっていた。1人は耳が長くて金髪に緑の瞳。エルフっぽい。もう一人はモフモフの三角の茶色い耳が付いている赤毛の子。ふさふさの尻尾もついている何かの獣人といった感じ。もう一人は背中にキラキラしたトンボみたいな透明の羽根が生えてる。妖精?顔立ちは皆整っていて男の子か女の子か分からない。
「降ろすけど、逃げるな」
セイの言葉に子供達は一生懸命首を縦に振っている。
セイの腕から解放された子供達はへなへなと草の上にへたり込んでしまった。
「どうしてこちらを窺っていた?」
「・・・スリカータが虐められないか心配だった」
へたり込んでいる子供達にミーアキャットが何匹か飛び付いている。子供達にとても懐いているようだ。
「この子達がスリカータなの?」
「うん、さっきは助けられなかった」
「私達、人族に見つかりそうだった。スリカータが助けてくれた」
「そうか」
私はこの子達の事情が良く分からないんだけど、セイは1つ頷いた。
「俺達は人族を追い払ってスリカータを助けた。俺達は人族じゃないからお前達を攫わないし、スリカータも虐めない。わかった?」
セイのこの説明で子供達は心底安心したように、大きく息を吐き出したのだった。
「子供達。黄金蓮華の番人は元気?」
「番人?銀の戦士はケルトを知ってる?」
セイが自然と銀の戦士と呼ばれ始めている。セイはその辺はスルーして子供達と会話を続ける。
「番人には会った事は無いけど、仲間だよ。俺達は番人に会いに来たんだけど、案内してくれる?」
ここで子供達が一応会議らしきものを始める。いいと思う?いいかな?どうかな。いい!いいよね!位の、心配になるほどの思慮の浅さ。なんせ子供だもんね。
「いいよ!」
筒抜けの会議結果を元気よく子供はセイに伝える。
「俺達だからいいけど、悪い人間には気を付けるんだよ」
「悪い人族は馬に乗ってる」
「黒い服着てる」
子供達が主に警戒しているのは、セイが追い払ったディアス帝国の軍人達のようだった。
「奈津、ウォーエンドッド。俺が目指しているのはこの亜人の子供達の住む所。亜人は黄金蓮華の番人の庇護下に入っている筈なんだ。じゃあ子供達、小虎に乗って」
セイが小虎の鼻面を軽く叩くと、小虎は完全に伏せの体制になった。子供達は最初から小虎ちゃんを全く警戒しておらず、伏せる小虎ちゃんに3人とも目を輝かせている。子供達はドッドお爺ちゃんと一緒に台座の方に乗ってもらう。ドッドお爺ちゃんは魔人フォームになってしまったので、まずはお爺ちゃんが台座に胡坐座となり、その膝の上に子供達3人が収まるようにする。子供達はドッドお爺ちゃんにも無警戒で、リラックスして膝の上に座っています。うん、子供達、何をしていても可愛いですな。
ミーアキャットの家族にはリンゴを更に2個ほどあげてお別れをする。
それから子供達の案内の元、私達はセイが目指す場所へ一路向かった。1度食事休憩を取り、その日の夕方には子供達が暮らす集落へと私達は辿り着いたのだった。
「この下だよ!」
「!!!」
そう言うなり子供達は突然草原の切れ間に現れた断崖絶壁目掛け、次々と小虎ちゃんの上から飛び降りて行ったのだ。
止める間もない出来事に思わず両手で顔を覆ったが、その後子供達が私達を呼ぶ声が下方からする。崖下に子供達は無事に飛び降りて、私達が降りてくるのを待っているらしい。
「小虎なら飛び降りる事が出来るよ。奈津は目を瞑っていて」
魔道具の鞍のお陰で揺れは感じないけど、心なしかフワッと浮遊感を感じる。私がきつく目を瞑って体を固くしているうちに、小虎ちゃんは余裕で断崖絶壁逆落としをクリアしたらしい。
「奈津、見てごらん」
セイに促されて目を見開けば、眼前には素晴らしい絶景が広がっていた。
私達が駆け下りたらしい絶壁の割れ目から湧き出た大量の水が、川の流れとなり、崖下の大地へと流れていき、その先で広大な湖を作っている。今まで見てきた草原だけが広がる乾いたサバンナのような景色とは一変し、川の流れから湖までの水場には豊かな濃い緑のオアシスが形成されていた。
水場の周囲にはいくつもの民家が寄り集まっていた。
「銀の戦士。長老が番人に会わせるか決めるよ。ダメだったらごめん。長老に会う?」
「長老と会う。紹介して欲しい」
子供達はセイにニコっと笑うと、先導しながら小虎ちゃんの前を走り出した。
「・・・ビックリした。魔国にも奇麗な場所は沢山あるけど、ここはまさに地上の楽園だね」
「うむ。なんとも美しく豊かな土地であるな」
そして子供達の健脚たるや。小虎ちゃんはゆったりと駆け足しているとはいえ、子供達と比べて20倍ほどサイズは違うのだけど、子供達は元気一杯に私達のかなり先を先行して走っている。
青くきらめく川の上を湖に向かってシラサギが数羽飛んでいく。川と湖は濃い緑に縁取りされており、川と湖面は空の水色を反射してキラキラと眩しく輝いている。飽きる事無く素晴らしい景色を眺めながら、のんびりと子供達の向かった方向へ進んでいると、今度は子供達が折り返して私達の元に駆け戻って来た。
「長老が会う!ついてきて!」
そういうと、子供達は再び踵を返し走り出す。
子供達、ずーっと走ってるなあ。凄いスタミナだよね。私達の為にずっと走り続けてくれているし、後でおやつでもあげよう。
子供達を追いかけると、この一帯では一際立派な民家の前で私達を待っている。民家の前には住民達がちらほらと集まってきていた。その姿は子供達と同じように、エルフの特徴があったり、獣人の特徴があったり、背中に透明の羽根を持った大人や子供達が入り乱れていた。
私達が小虎ちゃんから降りると、その住民の皆さんが一斉に膝を付き、首を垂れた。
魔人フォームのドッドお爺ちゃんの前に。
「我らが創世の父、イースの双翼たるウォーエンドッドに挨拶申し上げる」
先頭で頭を下げている、キラキラ金髪ストレートの美形エルフの男性が長老なのだろうか。小虎ちゃんから飛び降りたドッドお爺ちゃんに平伏している人、目をキラキラさせて見つめている人様々だ。スタンピードの凱旋パレードの時の双翼フィーバーが思い出されるなあ。
「よいよい。皆の者、面をあげよ」
時代劇めいた口調がデフォの魔人フォーム時のお爺ちゃんなので、仰々しい挨拶をドッドお爺ちゃんが当然のように受けていなすような感じになってます。
「吾らは黄金蓮華の番人に会いに来たのだが、取次ぎを頼めるか」
「畏まりました。今日はもう日も暮れます。明日の朝のご案内でよろしいでしょうか。ささやかではありますが、歓迎の宴を開かせていただきます」
長老と呼ばれるエルフの男性は麗しい美男子なんだけど、長老さんの他のエルフの人々も、獣人の方も妖精の方も皆造作が美しくていらっしゃる。美男美女、美幼児ばかりだね。顔が平面族の私と同じような人々もこの世界のどこかにいるとは思うんだけどね。
「先触れもなくやって来たのはこちらだ。気を使わないでもらいたいが、宴は楽しみだな。吾の手製の料理も皆に振る舞おう。今宵は交流を深めようではないか」
ドッドお爺ちゃんの申し出に住民の皆さんが嬉しそうに笑顔を見せた。3人の子供達はドッドお爺ちゃんと距離が縮まったのか、住民達と話をするお爺ちゃんによじ登ったり抱っこされたりしている。
「御付きの皆さんも是非ご一緒に」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
いつの間にやら私とセイはドッドお爺ちゃんの御付きの者になっているけど、コミュ力高いドッドお爺ちゃんに任せている方が話がうまく進みそうなので、訂正もせずしれっと御付きの者ポジションにいる事にする。
小虎ちゃんには自由時間を言い渡し、ご飯を食べて来てもらう。
その夜は、晩御飯を集落の皆さんにご馳走になり、テント泊となった。
そして一夜明け、私達はいよいよ黄金蓮華の番人と会う事になったのだった。
翌朝、エルフの長老さんの案内に従い、私達は大きな湖までやってきていた。
湖畔をぐるりと巡りながら歩いていくと、道が途切れうっそうと茂る木々が私達の行方を阻んだ。
「これが黄金蓮華の群生地への入り口になります。すみませんが、ここを力づくで押し通ってください。多少木々を倒しても大丈夫です。またすぐに元通りになります」
結界の目隠しとかじゃなく、本物の木々で入り口が目隠しされていた。私達は小虎ちゃんとドッドお爺ちゃんの作った道を突き進むことになる。
密集した木々と茂みをかき分けて進むと、また景色は一変した。
サバンナの真ん中のオアシスの近くに、別世界のように睡蓮が群生している池が存在していた。睡蓮の花の色は柔らかなクリーム色。花弁の外側に向かうにつれてその黄色は濃くなっていく。これがもしかしなくても黄金蓮華だ。
蓮華池はそれほど大きくは無く、直径は10メートルを超すかという位。枝垂れ柳が池の周りに不規則に生えていて、その池を取り囲むように私の腰ほどの高さのツツジの茂みが生えている。ツツジはピンク色の花が満開に咲き乱れていた。
池の周りは雅で美しいけど、サバンナの中のオアシスを抜けて中華風な秘密の庭に辿り着いたような、不思議な感じ。植生が不思議すぎるなー。
「ワトビハ、客人か」
私達が景色に見とれていると、背後から声が聞こえた。セイもドッドお爺ちゃんも通常運転だから、危険も無いのだろうと後ろを振り返ると、黒髪黒目の男性がツツジの茂みの中に立っていた。
「ケルト様、創世の父イースが双翼、ウォーエンドッド様をお連れいたしました」
エルフの長老さんがドッドお爺ちゃんを真っ先に紹介してくれたんだけど、黒髪黒目の男性はドッドお爺ちゃんの横に立っているセイをじっと見つめている。
「32代魔王、セヴェルカルム」
「16代魔王、ブリエンデリケルトだ。ようこそ我が箱庭へ」
大声をあげなかった私を褒めて欲しい。でも私の内面はお見通しだったみたいで、宥める様にセイが私の頭を撫でてくれる。
前にセイが言っていた。万年を生きる魔王達はどこかで生きているかもしれないって。
ここに居たよ。しかも16代魔王って、何千年前の魔王なの!
「ケルト様。お知り合いで?」
「我が同胞だ。ワトビハ、あとはこちらに任せよ」
ワトビハさん、「客人はそっち?!言ってよー!」という顔になっていたけど、双翼のドッドお爺ちゃんは有名人で説明不要だったので、ついつい盛り上がりに乗っかってしまいました。昨夜の歓迎会は、それはそれで楽しかったです。
エルフの長老さん改めワトビハさんは、私達に一礼をしてオアシスの集落に帰っていった。
「よく来たな、我が同胞達。私が魔国を去ったのはかれこれ3000年も前になるかな。お前が現魔王になるのか?」
16代魔王さんは話をしながらツツジの茂みの向こうへと私達を案内してくれる。
「俺は先代魔王。今は33代魔王が立っている」
「そうなのか」
案内された先は平屋のこぢんまりとした一軒家。集落の人達の家となんら変わらない木造建築だった。
ここで一人暮らししているのかと思いきや、建物の中から黒髪黒目の16代さんに顔立ちがよく似ている女性が出てきた。
「ネル、客人だ。庭でもてなす」
この可愛い一軒家にはドッドお爺ちゃんは収まらなさそうだもんね。16代さんはセイと比べて背が低い。いや、セイは長身なので中肉中背と言った所か。女性は私と同じくらいの身長だし、何となく親近感を覚える。
可愛い一軒家の可愛い庭にもツツジが咲き乱れていて、もと来た道をみれば遠くに睡蓮の池も見る事が出来る。
「良い時に来たな。今時期が私の庭は一番美しいのだ」
お庭のガーデンテーブルに私達が座ると、女性がグレープフルーツのような見た目のフルーツを4つ持ってきて、なにやらおもむろにフルーツを揉む。とにかく揉む。いい位揉んでから太めのストローを差して私に手渡してくれた。
「美味しい!」
ジュースになっているんだろうと思ったけど、味はシャリシャリの果肉が入った梨ジュースみたい。グレープフルーツじゃなかった。
「口に合ったようだな」
16代さんが私を見て笑っている。女性も笑いながら2つ目の果物をもみもみしている。全員に梨ジュースが行きわたり、自己紹介も終わってから16代さん改めケルトさんが私達の要件を尋ねてきた。
「さて、わざわざこのような世界の果てまで訪ねて来てくれたのは用事があったのであろう?まあここには黄金蓮華しかないのだが」
話が早いです。
「奈津の弟妹のお祝いに黄金蓮華が欲しい。分けてくれる?」
「構わんよ。全て持っていくか?」
「いや、4つでいいんだけど。根っこごと持っていったら根付くかな?」
「清らかな神域等であれば根付くだろう。もはや私の箱庭もいつまで維持できるか分からないからな。黄金蓮華が失われる前にお前が訪ねて来てくれたのは、アーウェンの意思であろうか」
何だかケルトさんは心配になるような事を言い始めた。
私達はそれから人族の領域と亜人達のオアシスを取り巻く話を聞いたのだった。
アーウェンと魔王は人族を守り増やすために、この世界を長きに渡り管理調整してきた。
アーウェンはこの世界を愛で満たすために大陸を囲む大海原に紅大宝貝を祝福として大量にばら撒き、人族が豊かに暮らしていけるようにと祝福として黄金蓮華を人族の領域全土に生息させ、魔族が末永く世界と人族を見守れるようにと祝福としてグリーンドラゴンの翠玉を深淵の森に置いた。なんだか魔族への祝福だけが手に入れるにはハードモードな感じなんだけど、身体能力が人族とは天地ほどに違うのでアーウェン的ハンデをつけられてしまったのだろうか。
紅大宝貝はたまに魔国でも人族の国でも手に入る位だったんだけど、身近にあった黄金蓮華はその美しさからどんどん人族に採取されてしまい、人族の領域では絶滅の一歩手前まで行ってしまったそうなのだ。
そのわずかな株をケルトさんが守り、今に至っているそうなんだけど、もともと黄金蓮華の番人をケルトさんがしていたのかと言えば成り行きなのだそうだ。
「ある時、黄金蓮華を巡る争いで、瀕死の傷を負った人族を助けた。それが私の妻となり、黄金蓮華の番人となる切っ掛けとなった。もう3000年程前の話になるか」
人族の奥さんだったんだよね。それじゃあ、今はもう・・・。
「今は、私の子孫達と暮らしている。寂しくはないからそのような顔をするな」
ケルトさんに逆に気遣われてしまった。
うう、感情丸出しですみません。セイが私の頭をよーしよーしと撫でてくれる。
「しかし、元は人族の領域の何処にでもあった黄金蓮華だが、人の乱獲も原因だが、手折られずとも自然と黄金蓮華が枯れていくのだ。特に人が多く住む場所では黄金蓮華は育たずどんどんと枯れていった。それでも人々は黄金蓮華を求め、数日花を愛でるためだけに無残に手折る事を続けていった。今は私の箱庭にしか黄金蓮華は生息していない。人の欲望や汚れた心は黄金蓮華に良くないのだろう」
私はギクリとする。
私は時々、抑えきれぬ欲望のままにショッピングモールで暴飲暴食してしまう。その都度深く後悔するのだけど、いつも懲りずに汚れた欲望の赴くまま、暴食の限りを定期的に・・・。
「奈津、食欲は大丈夫だと思う」
「あ、そうだよね?良かった・・・」
ホッとする私の隣で、セイがクツクツと喉で笑っている。初対面のケルトさんの前で私がアホな事を考えた事は黙っていて欲しい。
「それじゃあ、根付くかどうか分からないけど神域に半分くらい引き受けようか」
「それは助かる。私の憂いも軽くなるというものだ。感謝する」
黄金蓮華のやり取りは元魔王同士で決まった。適当に株分けをして池に咲いている花の半分ほどを持ち帰る事になった。
ケルトさんとセイが話している途中で、ネルさんと呼ばれた女性が突然黒髪黒目の小さな子を抱っこして連れてきて、脈絡なくケルトさんに抱っこさせた。
「すみません、大爺様。ミルカの具合が悪くなってきました」
「そうか。どうにか乗り越えてくれれば良いのだが・・・」
ケルトさんが腕に抱いているのは、サイズ的にクルム君位の可愛いおかっぱの女の子だ。
「セイ」
私の隣でセイが頷く。私とセイには女の子を覆う青い光が見えている。
女の子は胸を一生懸命上下させ、呼吸をしている。
その女の子は魔障害に苦しんでいた。




