【閑話】双子のお披露目会 5
エイダお祖母ちゃんが号令を発してから半年後。
日頃の行いが良いノエイデス家の慶事がある日は常に快晴です。
本日、ノエイデス家にて双子のお披露目ガーデンパーティが開催されました。
「タッタッタッタッタッテッ」
「アアーーッ!」
ノエイデス家の双子はゆっくりだけど確実に成長している。
あれから半年も過ぎると、クリスがたくさんお話してくれるようになっていた。最近はタ行、タチツテトの発音がお気に入りのようで、ずーっとおしゃべりしている。
エリカは相変わらず声が大きくて元気一杯だ。
歩けるようになったかというと、2人とも数秒立っていられるかという程度だったんだけど、エイダお祖母ちゃんが「まあいいでしょう」というので良いらしい。
双子のお披露目会なのだけど、エイダお祖母ちゃんにも喜んで欲しいなというノエイデス家の面々の想いも詰まったお披露目会なので、エイダお祖母ちゃんがOKなら全く問題なしです。
今日のガーデンパーティにはノエイデス家に所縁のある皆さんがほぼ集まっている。親類縁者はもちろん、先々代魔王、先代魔王、当代魔王も揃い踏みで、当代魔王が参加するとなるとフーさんを初めとするお付きの方々ももちろんやって来る。参加者だけ見れば国を挙げての式典並みの豪華さなんだけど、今日の主役は魔王陛下方ではなくて、ノエイデス家の天使達ですので!
ノエイデス家の整えられた芝生の上はそのまま転げまわっても怪我はしないけど、双子とクルム君が思い切り触れ合えるように会場には10メートル四方の分厚い絨毯が敷かれております。土足厳禁です。子供達と触れ合いたい大人の皆様もご自由にという事にしている。
早速ヴィントさんは絨毯の上で膝の上にクリスとエリカを抱き上げている。
「可愛いですねー」
そのヴィントさんの近くでクルム君は双子を可愛いと言いつつ慎重に観察しているようだ。そっと伸ばした手をエリカがガッと鷲掴みしてきて、クルム君はビックリしたりしている。
可愛いが渋滞している・・・。
ヴィントさんとクルム君が絨毯に座っているので、ご参加の皆さんは同席を遠慮しているけど、絨毯を囲んでみんなニコニコしている。
「前に会った時よりも随分重くなったな。2人とも良い子だな」
ヴィントさんと双子は私とセイの結婚式で会って以来、久し振りの再会だったのだけどクリスはもちろん、エリカも不思議とヴィントさんの腕の中で落ち着いている。数多の愛情を同時に分け与える博愛の王の異名は伊達じゃないという感じです。双子も安心してヴィントさんに身を任せている。
子供達の触れ合いゾーンを作ってみたものの、クルム君と双子が一緒に遊べるようになるのはもう少し先かな?といった所。
「クルム君、いらっしゃい」
ちーちゃんが絨毯の上にやって来て、横座りになって膝をポンポン叩いている。
「!!」
クルム君は、一瞬迷ったけどちーちゃんの膝に走って飛び込んでいった。
「チヒロー!」
クルム君はちーちゃんの膝に突っ伏してグリグリ顔を擦り付けている。
「クルム君、魔王のお仕事頑張っているわね。毎日のご挨拶とても立派だわ」
「えへへへへ」
クルム君の蕩けるような笑顔と言ったらまあ。
ちーちゃんも満面の笑顔でクルム君の頭をずっと撫でている。ちーちゃんの結婚出産、クルム君の魔王就任と立て続けに状況の変化があって、毎日のように会っていた2人が突然会えなくなったんだよね。
お城の人達もクルム君の事が大好きで親身にお世話をしてくれているんだけど、どうしても主従関係を超える事が出来ない。それはフーさんでもなんだよね。
そう思うと、ご両親とも離れて暮らすクルム君にとって、ただの子供として愛情を注いでくれるちーちゃんとの触れ合いは大切なものだったんじゃないかなと、2人の様子を見て今更ながらに感じた。
「クルム君、これからも我が家に遊びに来てね。クリスとエリカの友達になってくれたら嬉しいけど、何より私がクルム君に会えなくなってとっても寂しいの」
「・・・でも、僕は魔王なので。あんまり我儘を言うと、ぼうくんになってしまうから」
ちーちゃんの膝の上にぺったりとほっぺをくっ付けたクルム君がそんな事を言う。
暴君!
ちーちゃんに甘えてお膝にべったりのクルム君を暴君だなどと、いったい誰が言いますかね!
でもクルム君は真剣に悩んでいるのだ。クルム君は立派な魔王になる為に、日々己を律している。暴君とはクルム君が今恐れているキーワードで、苦手な事を内緒にしていたおやつをどうしても食べらない日があり、プリンに差し替えてもらった事でさえ「今日の僕はぼうくんでした」と落ち込んでセイに慰めてもらっていたりする。クルム君、ちょっと気負い過ぎだよー。
立派な魔王であろうとするのは偉いけど、もっと子供らしく自由に希望を周囲に言っても良いよね。クルム君が尊敬する魔王が泰平の1000年を成し遂げたヴィントさんと、突出した魔力で魔国を守ったセイの2人なので、プレッシャーも小さいながらに感じているんだろうなあ。
「陛下、これも魔王のお仕事の一環でございますよ」
「仕事?」
脇に控えていたフーさんがクルム君にこそっと話しかけた。
「クリス様とエリカ様は、名門ノエイデス家のお生まれであり、お年頃も陛下と同じほど。いずれは陛下と共に魔国を支える立場となられるでしょう。陛下は将来の臣下との交流を図り、人材確保に動かれているのです。ノエイデス家への訪問は将来の魔国の安寧の布石となる立派な魔王業務でございますよ」
クルム君はチラリと私の隣に立つセイを見る。もちろん、セイも力強くコクリと頷きフーさんの言い分を支持。
「人材確保の一環でございますので、将来有望な人材の御母堂様、チヒロ様へのご挨拶も重要な魔王陛下のお務めかと」
「そうよ、クルム君。遠慮しないで沢山遊びに来てね」
フーさんを初め、周囲の魔王陛下の御付きの人々も、ご遠慮なさらず!とか御心のままに!等やんややんや一生懸命クルム君を後押ししている。
「わかりました!」
クルム君の憂いは晴れたようで、本日の青い空のような晴れ渡った笑顔を見せてくれた。
周囲の大人達もホッと一安心した。
「クルム君は相変わらず可愛いわねえ。フワフワの金色の巻き毛もキラキラの緑色の瞳もとっても奇麗ね。ほっぺもピンクで柔らかくてずっと触っていたいわ」
「うふふふふ」
「小さなお耳も可愛い。ぷくぷくの小さなお手手も可愛い。まあるいお膝も可愛い。どうしてこんなにクルム君は可愛いのかしら?」
「ふふふへへへ」
あー、ちーちゃん。今日はとことんクルム君を甘やかすつもりです。膝にうつ伏せているクルム君を余す事無く撫で繰り回し始めました。
「本当に。我らが魔王陛下はこんなに可愛らしくて、それなのに勤勉でいらっしゃる。素晴らしい立派な魔王陛下ですわ」
「そうですわね。いつも頑張っていらっしゃる魔王陛下には、たまにはゆっくりとお休み頂きたいですわねえ」
「魔王陛下、どうぞ楽にして下さいませ」
そしてクルム君を取り囲み、ヴィントさんの奥様3人が絨毯の上に腰を降ろした。クルム君を撫でる手がちーちゃんの他に3人分加わる。
「陛下はまさに神の愛し子ですわね。どこもかしこもなんて可愛らしい」
「えへへへへ」
ヴィントさんの領地に行った時に奥様方にもクルム君は相手してもらってたもんね。
これでクルム君を甘やかし倒す包囲網が完成した。甘やかし隊の手練手管にクルム君もすっかりメロメロです。
「閣下、月1、2回ほど伺わせて頂けると」
「月に1度と言わず、我が家には好きなだけお越し頂いて構わないが」
その包囲網の隣でブランパパとフーさんの相談が始まっている。今後のノエイデス家への定期訪問で、クルム君も良い感じに息抜きできますように。
ノエイデス家の黄金蓮華池の周りは、睡蓮の鑑賞を楽しむ人々が集まっていた。その存在自体を疑われていた幻の黄金蓮華の栽培に成功した事は魔国でも大きな話題となった。栽培も何もドッドお爺ちゃんがケルトさんのお庭からワイルドに引きちぎって来た黄金蓮華を池に浮かべただけなんだけどね。
この黄金蓮華はノエイデス家が当面は厳重に管理していく事になっている。子のお披露目会で必要なお宅に無償で譲渡、という案も出たんだけど、お披露目会セットを制作、販売している会社もある訳で。細工職人さんや販売店を守るためにもとりあえずは門外不出とする事になった。ノエイデス家が独占するつもりもないので、今後は更に株分けして王城の中庭での栽培も検討している所だ。
双子はクリスがエイダお祖母ちゃんに、エリカが何故かヴィントさんに抱っこされたままお客様への挨拶に回り始めた。お披露目会の催しの一つ、ご来客の皆さんに子供の幸せを願って頭を撫でてもらうのだ。
魔王が3代揃った上に、宰相と将軍2人が身内に居るので非常に格式が高くなってしまった双子のお披露目会なのだけど、客層はエイダお祖母ちゃんとブランパパの信頼する人々、親戚縁者がメインなっているので、参加者は総勢で30名ほど。
エイダお祖母ちゃんは良い笑顔で自分のお友達にクリスを紹介している。老若男女に熱い支持を集めていた博愛の王はスマートにエリカを紹介して回り、来客者全員と気さくに会話を楽しみ、お客さんもヴィントさんとお話し出来る事に感激していた。
当主で父親のブランパパが紹介しなくていいの?と思ったけど、お披露目会に身分の高い人が来てくれた場合、そのお客様に子供の紹介をお願いするのだそう。高位の方に子の紹介をしてもらう事はその家の誉れなのだって。偉大な先々代魔王のヴィントさんにエリカを紹介してもらえて、エイダお祖母ちゃんもブランパパも嬉しそうだったので良かった。元魔王だけど、セイはノエイデス家にとっては家族寄りなのでねー。
しかしエリカは本当に大人しくヴィントさんに抱っこされている。セイが抱っこする時以上に大人しいんじゃないだろうか。この日の事でエリカの面食い疑惑が再び持ち上がるのだが、これもまた別のお話。
双子のお客様への挨拶も無事に終わり、とうとう本日のメインイベントとなる。
子供の幸せを願いつつ人生を占う宝珠選びだ。
絨毯の端にドラゴンの翠玉、紅大宝貝、そして今摘んだばかりの黄金蓮華が等間隔に置かれる。
本物の黄金蓮華は、ぱちりと茎から花を切り落とすとなんと水晶化したのだ。見た目はお兄ちゃんの黄金蓮華の宝石細工にそっくり。これには会場からもどよめきが。
この美しさを求めて人族の領域では乱獲が行われたのかもしれない。池に咲いているだけなら黄色い睡蓮だもんね。
ただしこの黄金蓮華の水晶はとっても脆かった。最初に手折った1つはそっとブランパパが持ったのだけど、まるで繊細な飴細工のようにブランパパの手の中で粉々に砕けてしまったのだ。なんと儚く美しいものなのだろう。
双子が手を出したら絶対に壊れてしまうけど、それはそれという事で、壊れる前提で黄金蓮華も絨毯の上に置かれた。
さて、絨毯の端に宝が三つセットされた。その反対側にはエリカがそっと降ろされる。3つの宝にはそれぞれ願いが込められているのだけど、女の子は愛情あふれる人生を願って紅大宝貝を選ぶと縁起が良いとされている。男の子は家を守る財力を得るために黄金蓮華が良しとされる。なので選んで欲しい宝の後ろに親が立ち、我が子を誘導するのだ。
紅大宝貝の後ろにはブランパパとちーちゃんがスタンバっている。
「エリカ!こっちだぞ!おいで!」
「エリカー。こっちにいらっしゃーい」
ブランパパがいつもの紳士振りをかなぐり捨てて大きな声を出している。
選べば女の子が幸せになると言われている紅大宝貝を前に、ブランパパが盛んにエリカを呼び込もうとしている。しかし、エリカは真ん中のキラキラ輝くドラゴンの翠玉の方へハイハイで突き進んでいく。このままではエリカは、健康運が良くなるという翠玉をゲットしてしまう。ただでさえ体の丈夫な魔族なので、出来れば紅大宝貝か黄金蓮華を掴んで欲しいというのが一般的な親の願いなのだそうだけど。
「いかん。翠玉がキラキラし過ぎていてエリカの好みなのだ。セヴェルカルム様!」
ブランパパは手段を選ばず、セイを餌にエリカを釣る事にした。
「エリカ、おいでー」
ブランパパとちーちゃんが下がり、紅大宝貝の前でセイが跪いてエリカに手を振る。
「・・・アーーッ!」
エリカがセイに気付いてギュンと紅大宝貝に向かって方向転換した。
そのままセイに向かって突進したエリカは、セイの膝にそのまま突っ込んでいってゴール。紅大宝貝を掴んではいないけど、一応紅大宝貝をゲットしたと見做されました。
しかしエリカはそれで終わらなかった。
セイの膝に一度顔から突っ込んだエリカは、物凄い勢いで90度方向転換した。そしてセイの膝を乗り越えて隣の翠玉へ這っていき、翠玉をしっかりと掴んだ。もう100人中100人が掴んだと判定する見事な掴みっぷり。
「アーーーッ!」
それからエリカはすぐさまセイの元に取って返して、膝によじ登りセイの腕の中で翠玉を両手で握ってご満悦の表情。セイの膝元には紅大宝貝がコロンと放置されている。
セイが紅大宝貝を拾ってポンとエリカのお腹の上に置くと、絨毯を取り囲んでいた観客の皆さんから笑い声と共に歓声が上がった。
「お祖母ちゃん、2個取りしても良いの?」
「良いのです。さすがはノエイデス家の娘。幸せは自ら貪欲に掴み取らなくては」
2個取りOKなんだ。周囲から笑いが起きているという事は、ハプニング的な顛末だったんじゃないかなと思う。でもエイダお祖母ちゃんがひ孫の雄姿にとっても満足そうなのでOKです!




