【閑話】双子のお披露目会 2
「じゃ、俺達も行ってくるね」
こちらは私とセイ、ドッドお爺ちゃんと小虎ちゃんの組み合わせだ。
セイは向かう場所の当たりをつけているんだけど、魔国外なので地道に小虎ちゃんに乗って目的地まで移動するのだ。セイは黄金蓮華の在処を分かってるっぽいんだよねえ。でも、魔王案件なのでブランパパにもお兄ちゃんにも内緒なんだって。
「初めていく場所だからどれ位かかるか分からないけど、半年以内で戻るから」
「セヴェルカルム様、私の我儘をお聞き入れ下さりありがとうございます。黄金蓮華は実在するかも分かりませんのに、先代様の力にお縋りしてしまいました。無理を申し上げまして大変心苦しいのですが、どうかよろしくお願いいたします」
「無理じゃないから大丈夫。俺達の新婚旅行のついでに黄金蓮華持って帰るね」
どうやら無理難題の中で、黄金蓮華が1番の無理中の無理案件だったらしい。でもセイは深く頭を下げるエイダお祖母ちゃんに、全然構わないと軽く答える。
というか私達の新婚旅行なの?初耳なんだけど。
ドッドお爺ちゃんはやる事に変わりは無いからか、動揺は見られない。
ちなみに行き先も何も分からないし、私の手荷物は着替え2日分と衛生用品位なんだよ。セイがそれで充分っていうし。手持ちのおやつも2日くらいしかもたないかも。
「キャンプとか楽しみながらのんびり行こうね。疲れない様にちょくちょく自宅には戻るから。お風呂とか洗濯とかしたいしね」
あ、すんごくイージーモードの旅路でした。
出立前に私もお兄ちゃんと同じように家族全員と行ってきますのハグをする。
「なっちゃん、セイちゃんが一緒だし心配していないから。楽しんで行ってらっしゃい」
「ナツ、興味を惹かれる事があってもセヴェルカルム様の傍を離れてはいけないよ」
「ナツ、知らない人から貰ったものは食べちゃダメだよ」
「ナツ、生水や果物など、不用意に口にしてはいけませんよ」
そしてブランパパ以下に続くお小言の数々。
でも大丈夫、愛ゆえだと分かっています。決して私が信用無いわけではないのです。決して。
家族達に見送られて、黄金蓮華採取をついでにする私とセイの新婚旅行が始まった。成り行きでドッドお爺ちゃんと小虎ちゃんも一緒だけど、大勢の旅も楽しいし良いでしょう!
「新婚旅行は何度も行こうね。この先1000年位は新婚期間でいいよね」
小虎ちゃんの鞍の上、私を後ろから抱き込むセイがこんな事を言ってくる。1000年新婚でいるのかー。
「でもエイダお祖母ちゃんに出来たら私達の赤ちゃんを見て欲しいなあ」
そう言った途端、セイがぎゅううと私を後ろから抱きしめてくる。
「・・・じゃあ、新婚期間は200年で」
随分新婚期間が縮まった。セイの匙加減1つで。
「ほっほっほ。まあ授かりものじゃからの。縁が繋がればナツと先代の元にも玉のような御子がやってきてくれるじゃろ。儂とトランの爺で2人の子、孫、ひ孫、その子孫までずっと見守ってやるからの」
「ドッドお爺ちゃん、ありがとう」
半精霊化している永遠を生きるお爺ちゃん達が、私達の子々孫々までずっと見守ってくれると約束してくれた。でも赤ちゃんと縁が繋がるってなに?これもアーウェンの理なのかな。
そんな話をしながらも、小虎ちゃんは私達を乗せて遮る物1つない草原を疾走する。一面に広がる景色は、低い木がまばらに生えているだけの大草原。アフリカのサバンナみたいな感じ。
「セイ、ここはどの辺なの?」
私達は一度、アイザさん達が常駐している砦に飛んでから小虎ちゃんで移動している。
「魔国の国境を抜けて、ずっと南西を目指しているよ。西に行けばディアス帝国、その北にはカルアレーテ皇国があるけど、人の国までは行かないよ」
そうこうしているうちに野営の準備をするのに良い時間になったので、私達は適当な場所で移動を止めた。
小虎ちゃんにも今回は大きめの台座が装着されていて、荷物も軽自動車一台分くらいはある。小虎ちゃんは私達の他に荷物も軽々と運んでくれていた。
「小虎ちゃん、ご飯食べておいで。明日の朝には帰ってきてね」
「グルルル」
小虎ちゃんは大きい顔を私に1擦りして、大草原に駆けだしていった。
これからは日中の間働き通しだった小虎ちゃんの自由時間である。
小虎ちゃんを見送って後ろを振り返ると、いつの間にか屋根も壁もベージュ色1色の家が一軒建っていた。
「何これぇ?!」
「いいでしょ。ショッピングモールのアウトドア用品店で買ったんだよ」
一軒家が!と思ったんだけど、壁に触ったら空気が入った分厚いビニールで、でもパンパンに空気が入ってしっかりしている。
「コテージ型の大型テントだよ。エアマットも中に3つ入れたから、寝心地も良い筈だよ」
エアマットは省エネフォームのドッドお爺ちゃんなら1つで十分だし、2つくっ付ければ私とセイもゆっくり休めるよね。
「冬ならテントの中で薪ストーブを焚きながら天板の上で調理も出来るんだけど、残念ながら今はそこまで寒くないね」
セイが物凄く楽しそう。
テントの中も6畳2間位あるほぼ家。魔人フォームのお爺ちゃんなら手狭だったけど、小さいドッドお爺ちゃんなら全然余裕。セイでもテントとしてなら快適に過ごせる広さ。窓は布を巻き上げると内側にメッシュの布が付いていて、中から外を眺める事も出来る。
テントの入り口の布を上に骨組みで固定すると、タープのように屋根も作れる。布の内側はメッシュになっているので虫も防げるし、内部の照明が屋根の下まで明るく照らしてくれる。
夕暮れの空がオレンジから薄紫に変わっていく中、その屋根の下でセイとドッドお爺ちゃんが手際よく夜ご飯の準備を始めた。お昼ご飯はノエイデス家の料理人さんがお弁当を持たせてくれたので、初の野外調理になります。セイとドッドお爺ちゃんのスムーズな動きに私が手を出す隙が無い。私、後片づけ頑張ります。
足の低いバーベキューコンロにフライパンを2つ並べて、セイは野菜とベーコンがたっぷり入ったクリームパスタを作り、ドッドお爺ちゃんは太いウィンナーや野菜をじっくり焼いていく。仕切りのあるキャンプ用プレートに、クリームパスタと焼き上がったウィンナーや野菜を取り分けてもらう。
「お、おいしい!」
「良かった。たくさん食べてね」
いつの間にか辺りには夜の帳が降りていた。
満天の星の下で食べる夜ご飯は文句なくおいしかった。食後にはドッドお爺ちゃんがコーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れてくれた。ぶっちゃけ自宅ではインスタントコーヒーですけど。自宅よりも準備が大変だろう野外で、何故か手間暇かかるドリップコーヒーを飲みたくなる不思議。
「外で飲むコーヒーも格別だねー」
「ほっほ」
「ねー」
私とセイとドッドお爺ちゃんはしばらく夜空を楽しんでから眠りについた。
そして翌朝はホットサンドメーカーでドッドお爺ちゃんが激ウマホットサンドを作ってくれた。分厚いベーコンと卵焼きとマヨネーズと輪切りトマトとキャベツの千切りが絶妙のハーモニー。そしてまたも豆から挽いた薫り高いコーヒーと共に美味しくいただく。
キャンプ楽しすぎる。
全員いっぺんには無理だけど、色んな人とキャンプしたいなあ。とりあえず次回はトランお爺ちゃんも一緒に・・・。
「奈津、今夜は清川家に戻るね」
「あ、はーい」
そうだよね。キャンプが楽しいのは時々するからだよね。
「お風呂入って洗濯してこようね。あと物資の補充もして明後日はまたキャンプ。奈津がもうたくさん、ってなるまでキャンプしようか」
「やったー」
でも1日置きになりそうだし、景色も変わっていくだろうからなかなか飽きないような気がするな。
朝には小虎ちゃんもテントの脇で丸まっていたので、後片付けをしてまた今日も進めるだけ平原を突き進む。
キャンプと帰宅を繰り返しながら、それからしばらく緩い旅を続けていた私達だったのだけど、ある時、セイが小虎ちゃんを突然停止させた。
「小虎、伏せ」
小虎ちゃんは静かに私達を乗せたままセイの指示に従う。
「ウォーエンドッド、奈津を守れ。少し様子を見てくる」
ドッドお爺ちゃんがすぐさまご神果を齧り、魔人フォームになった。
「ナツちゃん、心配ない。吾らに危害を加えられるものなどこの世界には居らん。しばし休憩しながら先代の帰りを待つぞ」
「うん」
セイの事だから大丈夫だとは思うけど、一体何事なのだろうと緊張しながら待っていると、しばらくしてセイが戻って来た。
「騎乗している人間が3人。ミーアキャットに矢を射って追い立てている」
「ミーアキャット?」
あの、動物園にも居た可愛いあれ?
「騎乗している人間はディアス帝国の軍人だね。この辺りを警戒中だったのかもしれない」
「なんでミーアキャットを追いかけてるの?美味しいの?」
「旨くはないし、毛皮も使えん。遊んでいるのだろう」
遊びって。この世界、動物愛護の考えなんて無いんだろうけど・・・。
「あまり人間の目に付きたくないな。けど遊びで狩りをしている内はこの一帯から居なくならないだろうしね」
「・・・セイ」
食べるとか、素材が必要とか、手に入れる理由があるなら納得するけど。
「奈津?どうしたの」
人目に付かない方がいいんだよね・・・。あと、人族に干渉するのもダメなんだよね。
「・・・・・」
「奈津」
私はセイの膝の上に乗せられて、セイと向き合う形に。
「なんでも言ってごらん。俺は奈津の望みを何でも叶えるよ」
「・・・ミーアキャット、助けて欲しい」
困らせてしまったかとセイを見ると、優しい顔で私に微笑んでいるから罪悪感が膨れ上がってどうしようもなくなった。
「ゴメン、偽善だし。自己満足だよ。可哀想な動物達を全て救うなんて出来ないし。そもそも自分の力だけで出来ないくせに、それをセイにお願いするなんて、私ってほんと何もできない!」
「奈津」
セイがいつもするように、ギュッと抱きしめて私の背中をポンポンと叩く。
「俺の身も心も力も、全てが奈津のものだよ。動物を見殺しにして優しい奈津がずっと心を痛める位なら、喜んで人族を追い払って奈津の希望を叶えるよ」
「・・・セイ、ありがとう」
甘えてばかりでホントごめん。私からもセイに抱き着くと、セイが私の頭にキス1つ落として、私をドッドお爺ちゃんに預けた。
「人族を蹴散らしてくる。ウォーエンドッド、小虎に守護結界を一応張るから、小虎から降りない様に。でもその都度の判断は任せる」
「相分かった」
セイは小虎から空へ飛びあがり飛んで行ってしまった。
そしてしばらくしてから爆発音が大草原に鳴り響いた。
爆発音?
「ドッドお爺ちゃん、何が起こってるの?」
「うーむ。分らんが、もうしばらくこのまま待つぞ」
「うん・・・」
・・・・全然状況が分からないんだけど。体感時間にして10分ほど過ぎても、爆発音以降、何の物音もしない。
更に体感で10分ほど経った頃、やっとセイが私達の所に帰って来た。
「水蒸気爆発で馬をビックリさせて暴走させた。3頭とも帝国に向かって走り出したから、狙いはバッチリだったね。はい、奈津。ミーアキャットだよ」
「え!わ、わわわ・・・!」
突然セイにミーアキャットを手渡されて慌てて腕の中に受け取る。
「爆発で気絶させちゃった。でも治癒魔法もかけたし、怪我も治ってるはずだよ」
私の手の中のミーアキャットは水蒸気爆発のせいかしっとりしていて、気を失っているのでぐんにゃりしている。腕の中で抱っこしていると、やがてミーアキャット目を開いた。
「・・・・・」
ミーアキャットは私の腕の中で仰向けに寝ているのだけど、薄く瞳を開いたままぼんやりしている。けれどドッドお爺ちゃんがリンゴを薄切りにしてミーアキャットの鼻先に近づけると、小さな前足で上手にリンゴを受け取り、多少食べこぼしながらもリンゴを齧りだした。体勢は私の腕の中で仰向けのまま。
「か、可愛い」
野生動物らしからぬ、この気の抜けっぷり。可愛すぎるんだけど。
「この世界、ミーアキャットっているんだね」
「魔国は独自の生態系があるけど、人族の領域の生態系は地球と似ているね」
覗き込むセイとドッドお爺ちゃんを気にもせず、リンゴを完食したミーアキャットはギュッギュッと鳴きながら私の腕の中でポジションを探し始め、最終的に私の体と腕の間に鼻先を突っ込むと丸くなってしまった。
「ね、寝たの?可愛すぎる・・・」
「ふふ、可愛いけど連れていけないからね。自分の巣に帰ってもらおうか」
「うん」
私達は小虎ちゃんから降りると、うつらうつらしていたミーアキャットを草原の上に置いた。
「意地悪な人間に見つからない様に、気を付けてお帰り」
草原の上に降り立ったミーアキャットは、方向を定めると一直線にちょこちょこ歩き始めた。しかし3メートルも進むと後ろ足で立ち上がりこちらを振り返る。じっとこちらを見るミーアキャット。
「帰っていかぬのう」
ミーアキャットは立ち止まってからその先に進まなくなってしまった。
「私達に付いてきて欲しいとか」
ミーアキャットの恩返しが待っているのか、お困り事があるのか。物語ではよくある展開だよね。
試しに私が1歩、2歩、3歩、とミーアキャットに近づくと、ミーアキャットはまた方向転換して先へと進み始めた。そしてしばらく進むと私が付いてきているか確認するかのように立ち上がり私を振り返るのだ。私が更にもう1歩近づくと、それを確認して再びミーアキャットは方向転換して走り始める。
「・・・っ!」
これは!と私が振り返ると、セイとドッドお爺ちゃんが微笑みながらこちらを見ていた。
「・・・付いて行ってみても良い?」
慈愛の笑みを浮かべたセイとお爺ちゃんはコックリと頷く。セイもドッドお爺ちゃんもしばらく私の好きにさせてくれるようだ。私は遠慮なくミーアキャットを追いかける事にした。小走りのミーアキャットを小走りで追いかける私を、セイとドッドお爺ちゃんと小虎ちゃんがゆっくりと追いかけてくる。
地球のミーアキャットにそっくりだけど、異世界のミーアキャットだし何か意図をもって私達を誘導しているのかもしれないし!恩返し的にミーアキャットを追いかけて行った先に黄金蓮華があったりして。助けてみるもんだねえ、困っている野生動物。という展開は有り得るよね。
そしてとうとう、ミーアキャットは大草原の只中の、そこら辺にポツポツ生えている何の変哲もない低い木の根元まで私達を連れてきた。その木の根元にはぽっかりと穴が開いており、ミーアキャットがギュッと一声鳴くと、穴の中から次々とミーアキャットが出てきた。総勢で大人サイズが全部で3匹、子供サイズが7匹の大家族だった。
「か、かわ・・・。え、家族の紹介の為に?」
私達をここまで連れてきたミーアキャットが、ドッドお爺ちゃんにササッとよじ登っていき、抱っこされながらもドッドお爺ちゃんの手を甘噛みしている。
「ははは、こいつめ。リンゴをもっと出せと言うておるな。まてまて、今出してやろう」
ドッドお爺ちゃんは荷物からリンゴを出して巣の穴の前で胡坐をかくと、リンゴをサクサクと切り分け始めた。甘い匂いに誘われて、大人のミーアキャットがサッとお爺ちゃんの膝の上に飛び乗ると、子供達もよじよじとお爺ちゃんの膝によじ登り一列にみっちり並んでいる。気は優しいが力持ちの巨人に集う野生動物の絵面だよ。みんなリンゴを喜んで食べてるー。可愛いぃ。全く恩返し的展開は無かったけどね。お母さんかお父さんか分からないけど、ミーアキャットは家族にもリンゴを食べさせたかったんだなあ。賢いなあ。
ミーアキャットの人気はドッドお爺ちゃんに集中しており、一家全員がドッドお爺ちゃんによじ登っている有様。でも傍から見ているだけで十分可愛い。ミーアキャットに塗れているドッドお爺ちゃんをしばらく眺めていた私とセイだったのだけど、セイがひょいと私を抱っこしてドッドお爺ちゃんの膝の上に置く。ミーアキャットが避けないので私はミーアキャットの隙間に無理やり収まる形に。押しのけられたミーアキャットがギューと抗議の声をあげている。ごめんてば。
「ウォーエンドッド」
「うむ。嫌な感じはせぬがなあ」
セイが少し離れた場所に向かってドン!と飛んで行った。その先で上がる高い悲鳴。しばらくして、すぐにセイは飛んで戻って来たんだけど、セイは両脇に子供を3人抱き抱えていた。




