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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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魂分けの旅 4

「奈津、俺の命を半分あげる。奈津にとっては永遠にも感じる長い時間かも知れない。それでも俺と一緒に生きてくれる?」

「うん、もし出来るのなら、セイと一緒に生きていきたい」

 私が瞬く間に亡くなってしまって、その後の長い時をセイが一人で生きていくなんて、そんな事をさせなくて済むのなら。

「アーウェン、お願いがある」

『うん、うむ・・・。幼い愛し子。願い、願いか。何を願うか』

「俺の寿命を、奈津に半分分けたい」

『ふむ、ふーむ。命を、魂を分けるか。ふーむ』

 私とセイは、長い鼻づらの巨大な犬の顔を真ん前に座っている。犬の目が私達を見るためにどんどん寄り目になっていく。犬の顔の色味は木肌の茶色のままなんだけど、目は動くし、目の前の鼻からは規則正しく緑の香りの鼻息が私達には吹きかかってくる。

『我の理に縛られぬ、自由の魂であるな。自由を捨てて、我の理に縛られるか。幼い愛し子はそれを望むか』

「望む」

『自由の魂はそれを望むか』

「のっ、望みます!」

 神様のお話は感覚的過ぎて、正直何を言っているのか分からなかったけど、セイにちらりと目線を寄こされたので私は慌てて叫んだ。

『ようし、ようし。我の最期の一仕事。大きい愛し子は、願いは良いのか』

「俺はいい。セヴィの願いを叶えてほしい」

『ようし、ようし。我の最期の一仕事』

「アーウェン、ちょっとまって。俺達の他にも、寿命を分けたいと願う夫婦がいる」

『めおと。うん、うむ。構わぬぞ』

「奈津、ちょっとまってて」

 私を犬の顔の前にそっと置くと、セイはあっという間に姿を消した。どこに戻ってくるのかと私がキョロキョロしていると、大樹から少し離れた場所にセイと一緒にちーちゃんとブランパパが現れた。

「ちーちゃん、パパ」

 3人が大樹の元へと歩み寄ってくる。

「ブラン、久しぶりだな。積もる話もあるが、まずは一大事を成すがいいぞ」

「ヴィント様、お言葉に甘えまして」

 パパとちーちゃんは軽くヴィントさんに会釈して、すぐ私の傍にやってくる。

「なっちゃん、お疲れ様」

 大樹の根元に座り込む私の頭をさらりとちーちゃんが撫でる。セイがひょいと私を抱き上げ後ろに下がると、代わりにブランパパとちーちゃんが巨大な犬の顔の前に立った。

「アーウェン、俺達の前にこの二人の寿命を分けてほしい」

『うむ・・・・めおと。妻はこの世の理が備わっておるな。だが、命は夫と比して瞬く間。哀れである。どれ、魂分けを成す。我に手を当てよ』

 ちーちゃんとブランパパは一度見つめ合い、神様の鼻面にそっとお互いの片手を添えた。

『うん、ふーん、ふん・・』

 神様がフンフン言う度に鼻息が前方から吹きつけてくる。しばらくするとブランパパの体が上半身を中心に緑色に光りだした。ちーちゃんには全く変化はない。ブランパパの蛍光緑の光を見ていると、いつの間にか隣のちーちゃんの背中もほんのりと緑色に光りだしていた。二人が同時に触れている神様の鼻面は一際強く光り輝いている。

「アーウェンがブランから引き出した生命力を千紘に移しているね」

 その神秘的な光景を私達は声もなく見つめ続けた。

『ふん』

 終わりは突然で、緑の光は何事もなかったかのように消えてなくなった。

『魂は等しく成った』

「ありがとうございます」

 ブランパパは神様にお礼を言う。ちーちゃんは途中から泣き出してしまい、お話が出来なくなっていた。ブランパパはちーちゃんの肩を抱きながらゆっくり神様の前から下がった。

「千紘、ブラン。良かった」

「陛下、此度の事、誠にありがとうございました。さあ、陛下とナツも」

 良かった。ちーちゃんはこの先50年以上、双子の育児を目一杯楽しんで双子の成長を見守り、双子が結婚したら孫の成長も見守り、ブランパパとゆっくりお祖母ちゃんになっていくのだ。

『ふむ・・、守り人よ』

「は、はい・・!ここに」

 神様の声にフーさんが弾かれたように大樹の元に駆け寄ってくる。

『我は幼い愛し子の願いを聞き、還ることとする。我が創りし理は薄れ、いずれ無くなる。しかし自由の魂のなんと、眩しい事よの。自由の魂がいずれこの地に溢れようぞ。それはさぞ力強い世界であろう。その暁には守り人も自由たれ。長らくの務め、良く果たしてくれた』

「もったいのうございます。その暁にはきっと、主の望みのままに・・・」

『生まれたての愛し子がまだおる。その者の守りはもうしばらく任せる』

「はい・・・、はい。もちろんにございます。この身にかえましても」

 最後に、フーさんは神様へ深く一礼をした。

「陛下、ナツ様。どうぞこちらへ」

 大樹の元に来てから泣きに泣いていたフーさんは、今は憑き物が落ちたようにすっきりした顔をしている。

「フーさん。もういいの?」

「はい、ナツ様。我が主、創造神アーウェンは長らく所在が不明でしたが、思いがけなく最期の時にお会いできました。お陰様で、私は最後の命を主より頂くことができました。思い残すことはございません。陛下とナツ様に心よりの感謝申し上げます。ヴィント様がこの地を治めていたことについては、後でゆっくりと納得のいくご説明をいただきましょう」 

「フロントゥイネ、そう怒るな。人知れず静かに眠りにつく事をアーウェンが願ったのだ。ほら、セヴィ。アーウェンは持てる力の限りでお前の願いを叶えてくれよう」

 ヴィントさんがフーさんの隣で大樹の幹に触れている。よく見ると、大樹の幹からは細かな青い光がさらさらと零れていて、ヴィントさんの手の上を濡らすように流れていく。

『・・・幼い愛し子。準備はいいか・・・、最期、一仕事・・』

「セヴィ。アーウェンの魔力の器は壊れていて、お前から受け取った魔力を長くは留められないようだ。急ぎなさい」

 ヴィントさんに従い、私とセイは神様の鼻先に手を当てる。

 ちーちゃんとブランパパの時と同じように神様がフンフン言い始める。緑の香りの呼吸を全身に浴びながら目を閉じていると、瞼を透かして見えるほどの緑色の光を感じる。目を開ければ、私は緑の光の奔流の中に立っていた。

 これがセイから私に流れてくる命の力。まるで体全部が物凄い力で作り変えられていくようで、でもそれは決して怖くない。身も心も軽くなるような、心地よい解放感に身を委ねる。やがて光の奔流は勢いが緩やかになり、ふっと収まった。

「あっ、神様!」

 私とセイが掌を押し当てていた鼻先がどんどん後退していく。木肌が隠れて元の分厚い苔が覆い隠していく。犬のような顔は元通りの大樹の幹に戻った。

「神様・・・」

 呼びかけても、大樹は初めて見た時のように静かに佇んでいる。

「創造神は還られたようだな」

 トランお爺ちゃんは大樹を背にして、眼下に広がる見渡す限りの緑の大海原を眺めている。神様は目の前の大樹からは居なくなってしまったようだった。神様にお礼が言えなかった。

「お別れではございません。主は空に、海に、土に、私達の心の内にも、常にこの世界の至る所に満ちております。いつでもお会い出来ますよ」

「そっかあ」

 フーさんが落ち着いた普段の様子に戻っている。神様とお話しできるのは今日で最後だったんだろうけど、フーさんは気持ちの整理がついたようだった。

「セヴィ、願いは叶ったか」

「うん。ヴィント、ありがとう」

「セイちゃん!ありがとう」

 ちーちゃんも泣き止んだようで、私ごとセイをハグしてきた。

「千紘、良かった。奈津も。ずっと一緒だよ」

 私達は3人、団子になってぎゅっとお互いに強く抱き着く。

「ヴィント様、この度生まれた我が子達は、陛下に喜んで抱き上げられているのですよ」

「そうか、そうか。それは重畳。セヴィはもう、一人ではないのだな」

「近々、恐れ多くも我が義理の息子となりましょう。披露目にはお呼びしても構いませんか?」

「喜んで出席させてもらおう。我が息子の晴れの席だ」

 ちーちゃんはお爺ちゃん達と会うのも久しぶりで、笑顔で会話が弾んでいる。賑やかに話しながら私達はその場を後にした。 

 私は心の中で神様にお礼を言う。

 神様が最後の力を使ってセイや魔国の人達と生きる道をくれた。


 この旅の目的を無事に果たすことが出来た。

 ちーちゃんとブランパパはセイが王都までまた送っていった。

 そしてヴィントさんと再会を約束して、さあ私達も帰ろうかという時、もう一つの出会いがあった。

 私達が大樹の神様の所から戻ってくるとクルム君はお昼寝から起きていて、ヴィントさんの奥様方に囲まれて楽しそうにしていた。

 そのクルム君の隣に、クルム君の座高を少し超える位の白い塊が鎮座していた。

 それは純白のフクロウだった。体長は床に座るクルム君の背を少し超すくらい。それでも私が知っているフクロウよりだいぶ大きい。

 そのフクロウはクルム君がフワフワの胸毛に触るのも、翼の羽根を撫でるのも好きにさせてあげている。フクロウはクルム君の金髪フワフワの巻き毛にそっと嘴を差し入れて、羽根繕いのような仕草をしたりもする。

「随分人懐っこいですね」

「俺が雛から育てたからな。自然に戻れたらと思うが、あの美しい白毛では無理だろうな」

 聞くと、ヴィントさんのお屋敷の近くに、小さな鳥の雛が瀕死で落ちていたのだそうだ。辺りを探してもそれらしい鳥の巣もなく、試しに餌を与えてみると驚異の回復力でみるみる元気になった。羽根が生えそろってくると、今のように純白の美しい羽毛に覆われたフクロウとなった。

「アルビノ種だろうな。獣や鳥の親は弱い子供や様子の違う子供を捨てることがよくある。あのフクロウは生き延びたが、仲間の元では暮らせないだろう。それは果たして幸せと言えるのかな」

 ヴィントさんの声が聞こえたのか、フクロウがトトッ、トトッと弾むような足取りでこちらにやってきた。ヴィントさんとセイの間にムイッと体を割り込ませると、フクロウは撫でてくれるヴィントさん指先を、お返しとばかりに嘴で甘噛みしたりする。

「でも、この子はとっても幸せそうです」

 この環境に緊張する様子の欠片もなく、白フクロウは思うままに楽しく過ごしているように見える。ヴィントさんにじゃれつくフクロウを、セイに抱っこされたまま眺めていると、不意にフクロウがこちらに振り返った。

「ホーホゥ」

 フクロウが初めて鳴いた。フクロウは胡坐で座るセイの右足にのっしと乗りあがると、更にその上の私の両足にのっしと乗りあがってきた。

「いっ、たたた」

 大型猛禽類の爪が服越しに私にグリっと刺さってくる。すると、フクロウはピタリと動きを止めて、今度は私の体に回されたセイの腕にのっしと乗りあがった。

「ホーホゥ」

 フクロウの顔はもうわたしの目の前だ。フクロウの瞳は奇麗な金色で、鼻と嘴は可愛らしいピンク色だった。今までの様子で乱暴されることは無いと思うけど、近すぎる。近距離でしばしフクロウと見つめ合っていると、フクロウはピンク色の可愛らしい嘴を上下に開いた。

「ふがっ」

 フクロウは私の低い鼻を嘴で甘噛みした。

「えっ、何で。うう・・・ふぐっ」

 フクロウの甘噛みから逃げようとしても、フクロウは執拗に私の鼻を狙ってくる。なぜ、私の低い鼻をわざわざ。私の顔の上にもっと甘噛みしやすそうな、セイのかっこいい鼻がありますけれど!

 フクロウに散々しつこく甘噛みをされていると、私は私の低い鼻に毎回ちょっかいをかけてきた人をふっと思い出した。

 ヴィントさんに保護されて、手厚く育てられて、今はヴィントさんの傍で穏やかに暮らしている。隠居しているヴィントさんを煩わせたくないと、何も伝えずに旅立っていった人。

「・・・ピコ?」

「ホーホゥ!」

 フクロウは一際力強く鳴くとセイの腕から飛び上がり、車座に座る私達の中心に降り立つと、私に向かって頭を低くしつつ左右の翼を広げて見せた。

 何それ。

「ピコなの?」

 するとフクロウは両方の翼を一度たたみ、体を傾げて左の翼だけを広げて見せる。

 だから、それは何?!返事なのか微妙。

「俺の古い知り合いに、同じ名前の者が居たな。良く覚えている」

「ホーホゥ!」

 ヴィントさんの言葉に呼応するように、フクロウは一際大きく鳴く。これも何かの訴えなのかな。

 私は王都の治療院でピコと出会ったことをヴィントさんに話した。

「ピコは、ヴィントさんには知らせなくていいと言っていたので・・・。伝えるのが遅くなってすみません」

「謝ることは無い。ベネッドと多くの軍人を救ってくれたこと、感謝する。それで、ナツはあのフクロウがベネッドの生まれ変わりだと思うのかな?」

「ううーん。どうなんでしょう」

 正直、そんな都合の良い事あるのかなと思うけど、ここは魔法と不思議が溢れる魔国だし。

「ピコなの?」

 フクロウに呼びかけると、こちらをみてクリンと90度くらい首を傾げた。

「毎回リアクションが違うからよく分からない・・・」

 ピコは私が分かるようにするって、言ってたよねえ。このフクロウがピコじゃないのにピコだと思っていて、本当は隣の蝶々がピコだったなんて事になったらピコに申し訳なさすぎる。

「ははは、本当の所は分からないが、もしフクロウがナツに付いて行きたがったら連れて行ってくれ」

「ホーホゥ」

 フクロウは飛び上がると、セイの肩に止まろうとしてしきりにバサバサとセイの肩の上で羽ばたく。セイは背は高いけど、すらりとした細マッチョなので、クルム君より大きいフクロウが止まるほどの肩幅はない。

「ベネッド将軍!我の肩を貸してやろう!」

 向かいからドッドお爺ちゃんが声をかけると、フクロウはドッドお爺ちゃんに向かって飛んでいき、安定感のあるドッドお爺ちゃんの肩を止まり木にした。

「ピコ!やっぱりピコなんでしょ!!」

 フクロウはこちらを見ると、極限まで顔を体に埋め込んで目を細めて見せる。

「だからそれ何?!」

 私がフクロウに遊ばれているのを見て、ヴィントさんも奥様方も笑い声をあげた。最初にヴィントさんのお屋敷まで案内してくれたラウルさんは、笑いながら目尻の涙をぬぐっている。ラウルさんは将軍職についていた頃、ピコと付き合いがあったのだそうだ。今度必ず王都のお墓参りをすると言っていた。

 結局フクロウは私達と一緒に王都に行くことになった。

 クルム君を守るような素振りを見せるフクロウは王城で暮らすことになった。フクロウには「リヒト」と名前が付けられ、クルム君の傍にはリヒトが常に寄り添っていた。

 時々、リヒトは悠々と王都の空を飛ぶこともあった。白いフクロウは魔国の吉兆、見たら良い事が起こるなどと言われ、リヒトは王城と、王都民からもとても大切にされるようになるのだった。



 私達はみんなで王城に戻り、いったん解散した。

 その後、私とセイはエイダお祖母ちゃんとお兄ちゃんへの報告もあり、神域に帰る前にノエイデス家にお邪魔した。

 「ナツ!」

 家族が集まっているというサンルームに通されると、エイダお祖母ちゃんが立ち上がって、こちらに早足で近づいてくる。セイが私をそっと床に降ろしてくれると同時に、お祖母ちゃんが私をギュッと抱きしめる。

「ブランとチヒロから聞きました。ナツ、あなた、あなたも、陛下から・・・」

「うん、私すごく長生き出来るみたい。お祖母ちゃんともずっと一緒だよ」

「ああ!神よ!感謝いたします!」

 エイダお祖母ちゃんは泣きながら更に私を強く抱きしめる。

 魔国の人達はふとした拍子に神様に感謝する。教会もないというし、宗教の話も聞かないので不思議だなと思っていたのだけど、フーさんが言っていた心の中に神様がいるってこういう事なのだなと実感した。人々が日常の中で神様に捧げる感謝は、アーウェンにきっと届いている。

 泣き止んだお祖母ちゃんと一緒にみんながいるテーブルに向かう。明るいサンルームに置かれたテーブルセットではちーちゃんとブランパパとお兄ちゃんがお茶を楽しんでいた。お昼寝から目覚めたというクリフは、ブランパパの腕の中に大人しく抱かれている。

「全く。チヒロは酷いのですよ!初対面の時、私は長く生きられないので生まれてくる子供を頼みますなんて、人を脅すような事を言って!」

「うふふ。あの時は本気でそう思っていたのですよ。お義母様にお願いするしかなくて」

 気持ちが落ち着いたお祖母ちゃんは、今度はプンプンと上品に思い出し怒りをしている。

 ちーちゃんは初めてお祖母ちゃんに会った日、そんな事をエイダお祖母ちゃんにお願いしていたんだね。どうりでお祖母ちゃんが泣いてしまったわけだ。正面からがっぷり組み合って、力業でお祖母ちゃんの身も心も動かしたちーちゃんは、さすがとしか言えない。

「でも、ブランさんの寿命を半分頂いたことになるでしょう?魔国の人からしたらだいぶ短命になっちゃったのかしら。ごめんなさい、ブランさん」

 ちーちゃんの言葉にみんながハッとした。

 地球人の私達からしたら、100年以上生き続けるなんて物凄い長生きだけど、実際ブランパパとちーちゃんは何年位生きていけるのだろうか。

「チヒロ、謝ることは全くないぞ。私は武力のノエイデス家の中ではめずらしく、魔力がとても強かったから寿命も生きるのに飽きるほど長かったのだよ。チヒロが半分もらってくれてちょうど良かった。まあ生きて見ないと何ともだが、短くとも3000年位は生きられるだろう」

「いやいや、十分だろ」

 すかさずお兄ちゃんから突っ込みが入った。

「父上、俺よりも余裕で長く生きる所だったではありませんか。俺は父上に見送られるなど御免ですよ!」

「うん、だからちょうど良い余命になったな。子供達に看取ってもらえるなど、このような幸せが私に訪れるとは。チヒロ、私と一緒になってくれてありがとう」

 未だに隙あらばブランパパとちーちゃんはイチャイチャしている。

 余命3000年ってなかなか聞かないけどね。でも3000年もあれば双子が結婚して、その子供に会うには十分な寿命だと思う。ちーちゃんは我が子の成長を見届けられる。本当に良かった。

「セイ、私達はどれくらい生きるの?」

「・・・5、6000年・・・以上?」

 興味本位で聞いてみたけど、気が遠くなる位の寿命を教えてもらった。私とセイで半分こしてもこの寿命。さすが万年を生きる魔王様だった。

「よし、みんな任せて!みんなをちゃんと看取って、子供達も、その子供達も、その孫ちゃん達まで私達がきちんと見守っていくからね!」

「あ、俺は自分の子供に看取ってもらう予定だから」

「私の事はブラン、任せましたよ」

 私が覚悟と共に看取り宣言をしたのに、エイダお祖母ちゃんとお兄ちゃんには断られてしまう。お祖母ちゃんはともかくとして。

「あの、お兄ちゃん。子供は一人じゃ作れないんだよ?」

「ナツ、兄を馬鹿にするんじゃない。俺には婚約者が居るんだぞ」

「ええっ?!」

 聞いてませんけど?!

「トーコが俺の婚約者だ。言ってなかったか?」

「聞いてないけど?!!」

 嘘でしょー!トーコちゃんがお兄ちゃんの婚約者!!

 トーコちゃんから一回も聞いたことない!!

「婚約して100年が経つが、トーコから結婚のOKがまだ出ない。まだ仕事に打ち込みたいというから、まあ後2、30年位なら待つさ」

 お兄ちゃんからなんとも気の長い話を聞く。

「トーコちゃん、そんな事全然話してくれなかったけど」

「まあ、気恥ずかしかったんじゃないか?」

 お兄ちゃんがニヤリと笑う。お兄ちゃんの言い分では、婚約をして最初の50年は全く異性として意識をしてもらえなかったのだけど、最近の50年ではお兄ちゃんを段々トーコちゃんも結婚相手として意識してきてくれているというのだ。

 だが、これはあくまでもお兄ちゃんの言い分。

 私はトーコちゃんからお兄ちゃんの話は職場の同僚として以上の事を聞かないし、ましてやトーコちゃんが抱いているとお兄ちゃんが言い張るお兄ちゃんへの甘酸っぱいトーコちゃんの想いなど一言も聞いたことがない。

「カイト、何を言っているのです。そのようなお嬢さんが居るのなら、早くきちんとしなさい!」

「は、はい!」

 私はトーコちゃんの味方をしようと考えていると、お兄ちゃんの婚約者の話を聞いたエイダお祖母ちゃんに何らかのスイッチが入ってしまった。トーコちゃんの事を考えてか、ちょっとやに下がっていたお兄ちゃんに緊張が走る。

「ブラン、あなたも親としてしっかりなさい。婚約して100年などと、何をしているのですか。ノエイデス家として、中途半端な真似は許しませんよ」

「あ、はい。申し訳ありません」

 ブランパパは言い訳をせず潔く謝った。

 常に一瞬で最適解を選び取る、魔国宰相の判断力はさすがである。

「カイト、あなた一度、そのお嬢さんを連れていらっしゃい。ご挨拶したいわ」

「・・・はい」

 これはお兄ちゃん、断れないな。

 そしてごめん、トーコちゃん。

 私はエイダお祖母ちゃんとは戦えないかも・・・。

「まず兄であるカイト、あなたからお披露目会を済まさなければなりません。その後に陛下とナツのお披露目会が控えているのですからね。ノエイデス家の次期当主として、ふさわしい会にしなければ。相応の準備期間も必要ですからね」

「はい」

 もうお兄ちゃんは「はい」しか言えなくなっている。

 ちーちゃんとブランパパの時のお披露目会は時間がないのと、花嫁のちーちゃんが身重だった事で、色々と我慢したり省略した部分もあったのだとエイダお祖母ちゃんは言っていた。

「腕がなりますね。忙しくなるわ」

「よろしく、お願いします・・・」

 張り切るエイダお祖母ちゃんに神妙に頭を下げるお兄ちゃんと、それを神妙に見ているブランパパ。ちーちゃんは終始ニコニコと笑っていて、クリフはそんな家族達をおっとりと眺めている。

 双子達のお披露目会もあるし、お兄ちゃんとトーコちゃんのお披露目会もそのうちに、多分、エイダお祖母ちゃんがその凄まじいリーダーシップで成し遂げるんだろうなあ。

 せめてトーコちゃんのお話はたくさん聞いてあげよう。

 このような感じで、慶事がしばらく続きそうなノエイデス家なのだった。


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