魂分けの旅 3
とうとうヴィントさんの領地に到着した。
南方に向かうにつれ、温度も湿度も高くなり、緑もどんどん濃くなっていった。むせ返るような草木の匂い。地球で言えば熱帯気候がこんな感じなのかな。半袖じゃないと汗ばむくらい。植生も見たことない植物ばかりになっている。王都に比べると見渡す限り手付かず自然!と言った感じ。
これまで立ち寄った街道沿いの街は、魔獣対策なのか街を囲むように石造りの外壁が聳え立っていたけど、この街は1メートルを超える高さ位の、隙間がすっかすかの柵が巡らされていて、柵の中央に木製の門が建てられている。この門のお陰でここが街の入口と分かる感じ。なんなら良く見ると柵の先は途切れていて、柵の役割が何なのか良く分からない。この大らかさが南国らしさという事なのかな。
「魔王陛下御一行様、ようこそアーウェンハインへ」
門の向こうで日に焼けた年配の男性がペコリと頭を下げる。ヴィントさんが寄こしてくれたお迎えの男性は上に赤系のアロハシャツ、下は白い麻のパンツ、編み上げサンダル、といった涼しそうな格好をしていた。南国リゾートホテルのスタッフみたい。でも体格がムッキムキ。只者ではない感じがすごい。
「ラウル将軍、こちらにいらしたのですか」
フーさんがお知り合いだったのか、案内の男性に声を掛けた。
「フロントゥイネ様、お久しぶりでございます。将軍職は500年も前に辞しております。只のラウルとお呼びくださいませ。ヴィント様にお声がけ頂き、今は屋敷の管理などをさせて頂いております。魔王陛下の御尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたる事、身に余る光栄に存じます」
男性の挨拶にセイは安定のコックリで返す。
「ヴィント様もお待ちでございます。どうぞ、こちらへ」
徒歩で先導する男性の後を私達は神獣に乗ったままゆっくりとついていく。木造の門を潜れなかったので、門の脇の柵を軽々と親子が跨いでいるのを、男性は笑いながら見ていた。すみません、せっかくの柵を。
案内の男性は領地の正門を過ぎて、ちょっと横道にそれ、獣道のような細道をひょいひょい歩いていく。私達の乗り物はサイズは大きいけどまごう事なき獣なので、整備された街道じゃなくても問題ない。どうやら領民の方が出歩いていないルートを選んでくれているようだ。
先代魔王のヴィントさんが治める領地ってどんな所だろうと思っていたのだけど、遠くにぽつりぽつりと見える民家は木造平屋でドアも窓もない解放感に溢れる造り。雨が凌げればOKという感じ。虫対策なのか高床式にはなっているけど、王都の建築様式とは全く別物。違う国にでも来たみたいで面白い。
ちらりほらりと遠目に見える領民の皆さんは小麦色の肌に涼しそうなワンピースだったり、膝丈ズボンだったりを来ている。皆さんのんびりとしていて、民家の横に生えているフルーツの木から果実をもいでその場で齧りついたり、庭先にローテーブルを出して、数人でお茶を飲んだりしている。一日の仕事だったり、学校だったりカッチリ一日のやる事が決まっている王都民の暮らしぶりとは違う。遠くから神獣に乗る私達に手を振ってくれる人までいて、ほんとに大らか。
しばらく獣道を突き進むと、木材で出来た3メートルほどの高さの塀に行き当たった。男性は塀に沿って歩いていく。しばらく歩くと塀が途切れた先に今度は立派な木造の門がそびえ建っていた。草花や動物が細かく掘られた、極彩色に着色された彫刻は見事なもので、領境のやる気のない門との格差がすごかった。
「セヴィ!」
門の向こうで、豊かな紫紺の髪の美丈夫がにこやかに両手を広げていた。
「ヴィント」
名前を呼ばれたセイは軽やかに小虎ちゃんから飛び降りた。私を抱っこしたままで。
両手を広げた美丈夫の胸に飛び込んでいく勢いでセイが駆けだす。待って、嘘でしょ、このまま?と焦ったけどさすがにそんなことは無く、セイはヴィントさんの目の前で停止し、私をヴィントさんに紹介してくれた。腕の中の抱っこした赤ちゃんでも見せるかのように。
「ヴィント、奈津だよ。俺の大切な人」
「こ、こんな格好ですみません。奈津です」
ヴィントさんは私を面白そうに見下ろしてくる。
「俺はセヴィの養い親のヴィントだ。一応先代の魔王をやっていた。ナツ、セヴィと仲良くしてくれて嬉しいよ。歓迎する」
ヴィントさんは私の頭越しに手を伸ばし、セイの頭をわしわしとかき混ぜた。
「セヴィ、可愛い子じゃないか。良かったよ」
「うん」
セイの頭を撫でる人を見るのは初めてかもしれない。セイもヴィントさんも楽しそうに笑っているけど、セイの笑顔が子供のようにあどけなくて胸がギュンとなった。
セイは親御さんと上手くいかなかったようなので、ヴィントさんが居てくれて本当に良かったな。
「ヴィント様、お久しぶりにございます」
「おお、フロントゥイネか。息災の様だな。その可愛い子はお前の子か」
「ほほほ、ご冗談を。次代様でございますよ」
虎からフーさんやクルム君たちが下りて来た。
「クルム・クレイリッヒと申します」
フーさんの横で足を揃えて立ち、クルム君はおりこうさんにご挨拶をする。
「俺はヴィント。先代の魔王だ。セヴィからちゃんと世話をしてもらっているか?」
「はい!セヴェルカルム様はお優しいです!」
「そうか、いい子だ。それ!」
「きゃあー!」
かしこまっていたクルム君が歓声を上げた。
ヴィントさんがクルム君をひょいと上に持ち上げて肩車をしてしまった。
「丁度昼時だ、皆で食事にしよう。ついて来てくれ」
ヴィントさんはクルム君を肩車したまま、草木が自由に茂る敷地内をずんずんと奥へ歩いていく。神獣親子は適当に野山で食事をするように放してやった。ヴィントさんの案内に従って、私達はヴィントさんのお屋敷に向かった。
領民の家は木造が多かったけど、ヴィントさんのお屋敷はクリーム色の石材の壁が特徴の明るい雰囲気のお屋敷だった。この領地の仕様なのか窓ガラスやドアがなく、高床式なのは共通している。風が自由に吹き抜ける広々とした天井の高い間取りで、内部は沢山の立派な柱が立ち並んでいる。
手近な入り口から建物の中にヴィントさんは入っていく。
「セヴィが来たぞ」
ヴィントさんの声に室内から華やいだ声が上がった。
セイに抱っこされたまま室内に入ると、すぐに大広間になっていて、床に敷かれたカーペットに所々クッションが置かれ、大皿に料理が所狭しと並べられていた。
料理が並べられた場所から対角に10メートルほど離れて、同じようにカーペットが敷かれ、背の低いカウチに横になったり、カーペットの上にクッションを敷いて座っていたり、思い思いに美女たちがくつろいでいた。非常に布面積の少ない薄物を皆さん素敵に着こなしている。
「俺の妻達だ。他に外出している者達も何人かいる」
おお・・・。ここに居らっしゃるだけで10人は超えてるけど、それだけ甲斐性があるってことですね。奥様方、皆さん笑顔で幸せそうです。
「さあ、遠慮せず食べてくれ。セヴィ、好物を用意しておいたぞ」
ヴィントさんを真ん中に、左にフーさんとクルム君、右に私を抱っこしたセイ、対面にお爺ちゃん達が車座に座り、お食事を遠慮なく頂く。
どことなくアジアンテイストなお料理だった。セイの好物というカロンというお焼きみたいな物は生地がほんのり甘くて、中の餡はスパイスの利いた野菜とひき肉とキノコがあふれんばかりに詰まっていて無限に食べられそうだった。あっさりした米粉麺とか、甘辛い骨付き肉とか、ほぼ空気なのに海鮮の風味がしっかりする揚げせんべいとか、全てを試さずにはいられない。
しかしさすがにちょっと欲張り過ぎたかも。食べ過ぎて眠くなってきてしまった。クルム君はお腹がポンポコリンになってとっくにお昼寝している。フーさんがハーレムゾーンにクルム君を運ぶと、ヴィントさんの奥様達がとっても喜んだ。全員で眠るクルム君を囲んで飽きずに眺めていらっしゃる。お昼寝から起きたらいっぱい遊んでやってください。
「俺が退位して、5年が経ったかな?ブランはお前を良く支えているか」
「うん、頼りにしてる。ブランは奈津の義母と再婚して、この間双子が生まれたんだよ」
「ほう、良い縁だ。赤子の祝いは送った所だったが。ナツ、ブランは良い父かな?」
「はい、とっても」
「それは良かった」
ヴィントさんはセイとお別れしてからの魔国の事、魔王の仕事の事を楽し気に聞いていた。
「そういえば、ようやく国の大掃除が終わったか。俺が済ませられれば良かったんだが。セヴィ、ご苦労だったな」
「うん。奈津が危ない目に遭わされて、もう貴族は要らないなって思って。ヴィントの奥さん達の実家も少しなくなっちゃったかも。ごめんね」
セイがハーレムの皆さんに顔を向けると、「構いませんわよ」、「お気になさらず」とか、笑いさざめきながら美女の皆さんが遠くからセイにお返事してくれる。
「陛下の英断でございました。ヴィント様がお小さい陛下を救い出された時に、魔国の将来の道筋は決まったのでしょうね」
「奈津、俺は実の親に生まれてすぐに監禁されて、虐待を受けていたんだよ」
セイの衝撃的な告白に私の眠気は飛んでいった。
「俺の生まれた家は王都から離れた小さな領地を持つ子爵家でね。高魔力を持って生まれた俺は、生まれた直後から魔障熱を発症していたみたいで、実母も使用人も誰も俺の世話を出来なかった。それは仕方がないんだけど、辺境では高魔力の者はほとんど生まれなくなっていて、魔障熱の治療は王都の治療院でしかできなかった。けど、俺の実の親は王都への旅費も出せないほどの貧乏貴族で、それでも貴族の体裁は大切で、生まれた子供の世話を出来ない事実を隠すために、そもそも俺が生まれなかった事にした」
セイの話は、聞くのもおぞましい、ひどい物だった。セイの両親は魔障熱を発症し続ける赤ちゃんの世話を、犠牲を多く出しながら領民の女性達に秘密裏に押し付け、少し成長した後は離れに閉じ込めた。誰からも世話をされない不衛生な環境の中、入口から不定期に投げ込まれる食べ物を口にしてセイは辛くも生き延びたのだという。
「次代の魔王の印が発現したことが分かっているのに、魔国中探しても次代がどうしても見つからなかった。まさか魔王の御印のある子供を隠し虐待する馬鹿が居るなど、思いもしなかったからな」
ヴィントさんは当時を思い出したのか、険しい表情を浮かべる。
「セヴェルカルム様のご実家のお取り潰しは、ヴィント様の治世で唯一の血の粛清でございましたね」
私はお父さんにもお母さんにも沢山可愛がってもらって、怖い事や苦しい事とは無縁の子供時代を過ごす事が出来た。セイになんて言葉をかけていいのか分からなくてチラリとセイを見上げると、セイは微笑みながらこちらを見下ろしていた。
「奈津が清川家でとても大切に育てられたんだろうなと、言われなくても分かる。奈津が人の愛し方や助け方を家族から教えて貰っていたから、俺は奈津に助けてもらえたんだ。奈津、俺を拾ってくれてありがとう」
セイがコツンと額を合わせてくるので、たまらずにセイにしがみ付く。
「私は、ちっちゃいセイも助けてあげたかったなぁ・・・」
「今が幸せだから、された事は消えないけど、もう親の事はどうでもいいんだよ。思い出すことも少なくなってる。奈津のおかげだよ」
気付くと私の他にも鼻をすする音が聞こえる。辺りを見回すと、ハーレムゾーンの皆さんが鼻や目元にハンカチを当てている。初めて見たけどフーさんも目元にハンカチを当てていた。
「まことに何と得難きお方か。この景色をどれほど夢見た事か。私は感無量にございます」
フーさんは顔を覆って泣き出してしまった。
「ははは、この世界は魔王に優しいのだぞ。セヴィにも救いはあると俺は思っていた。して、セヴィ。用事があるのだろう?済ませていけば良い」
「うん。ヴィント、奈津はあと100年もしないで寿命が尽きるんだ。俺はこれからも奈津と生きていきたい。何か方法はない?」
今日は驚かされてばかりの日だ。
この時、 やっとセイの旅の目的を私は知った。
魔国に来てからもう3年目になる。私にとっては色々な事があった3年だったけど、魔国の人達の時間の流れは私達とはどうしても違う。私とちーちゃんはどんなに嫌でも、周りを置いて年老いていってしまう。私達の一生は、魔国のみんなの時間にすればほんの一瞬。私が一人逝ったあと、その後の気が遠くなるような長い時間をセイは生きていく。避けようもなく、いずれは直面する別れだと思っていた。
「うーむ。どうにか出来るか・・・。約束はできないが尋ねてみるか」
「お願いでございます。どうか、どうか、陛下の望みを叶えてくださいませ」
泣き止んだフーさんがヴィントさんに詰め寄っている。
「お前、俺とセヴィの扱いに差がありすぎないか?」
「それは仕方がございません。セヴェルカルム様とクルム様のその健気さ、清らかさを目の当たりにしては、不肖フロントゥイネ、我が身全てを捧げてお仕えせずにはおられませぬ。博愛の王は即位の頃には既に成熟された良い大人でございましたので、私の支えはさほど必要ございませんでしたでしょう?」
「人を穢れているように言うな。お前の好みが手の掛かる魔王だというだけだろう。どれ、腹ごなしに少し散歩をするか。次代は俺の妻達が見ていよう。セヴィ、ついておいで」
ヴィントさんは入ってきた入り口とは別の出口から外に出て行ってしまった。私達はヴィントさんの後を追った。
建物の裏側に回って、表の庭はまだ人の手入れがされていたのだなと気づく。1メートル位の幅の小道は両側から木々が迫り、足元は木の根が瘤になって顔を出している。私は最初からセイに抱っこされたまま、フーさんはドッドお爺ちゃんが肩に腰掛けさせたまま運んでいく。ヴィントさんのお屋敷は木々に隠れてあっという間に見えなくなった。
「原始の森だ。この世界が生まれた当時のままだと言われている」
深呼吸をすると咽込みそうなほど緑の香りが濃い。木の根が階段のようになった所をヴィントさんはどんどん登っていく。高度が上がっていくと左手の視界が開けた。
「ここはアーウェンハイン。永遠の終わる地だ」
先頭を登っていたヴィントさんの目線を辿り、私達はヴィントさんの領地を高見から眺めた。
どこまでも鬱蒼とした森が続き、所々緑が途切れ、赤い屋根が覗く場所に人の気配がある。ハッキリ言えば未開の地、かろうじて辺境の集落と言えるかと言った所。
その見渡す限りの緑を、ヴィントさんは満足げに眺めていた。
「さあ、あと少し。ここを登り切った所だ」
ヴィントさんの案内に従い、木の根の階段を登り切ると少し開けた高台に出た。
10メートル四方の短い草が生い茂る広場の突き当りには、横に大きく枝を広げた大樹がどっしりと根をおろしていた。その大樹はとにかく幹がずんぐりと太かった。
「俺が会話をしたのは、500年か、いや1000年前か。思い出せんな」
ヴィントさんは大樹に向かってずんずんと歩いていった。
「アーウェン、生きているか」
ヴィントさんは大樹の真ん前にたどり着くと、大樹に向かって声を掛けた。
何かいるのかな。
「ほう、ここに腰を据えられたのだな」
トランお爺ちゃんがヴィントさんの隣に立ち、大樹を正面から見据える。
「もはや、この世に御還りになるか」
「さすがは叡智のトランウィッシュ。アーウェンを知るか」
「はるか昔に世話になったからな」
二人は誰かの事を話しているみたいなんだけど、セイを見上げれば、セイも小首を傾げている。
「ああ・・・・!」
突然背後でフーさんが悲しげな声をあげた。ドッドお爺ちゃんから地面へ降ろしてもらったフーさんは、大樹に駆け寄るとその根元に膝を付いた。
「何と・・・、主よ・・・。我が神よ・・・!ここにおられたとは・・・!私を、フロントゥイネをお忘れでございますか?どうかお声を聞かせてくださいませ・・・!!」
フーさんはハラハラと涙を零しながら、大樹の根元に縋りついた。フーさんがとても悲しそうで可哀想なんだけど、何が起こっているのか私とセイだけが理解できていない状況だ。
「当代、こちらに来られよ」
どうしたものかと立ち尽くしていると、ドッドお爺ちゃんが私達を大樹の元へと手招きする。みんながいる大樹のすぐ側に近づくと、ドッドお爺ちゃんがポンと私の頭に手を置いた。
「困った時はナツちゃんに任せてみるも一手」
「ん?」
ドッドお爺ちゃんがセイに両手を差し出す。
セイは少し考えて、私をドッドお爺ちゃんに手渡した。最近、セイはもちろんの事、魔人フォームのお爺ちゃん達まで私を抱っこで運ぶので、私は意識してウォーキングとかした方が良いかもしれない。歩く機会がなさ過ぎて、私の運動不足は深刻だったりする。
ドッドお爺ちゃんが、蹲って泣いているフーさんの隣に私をそっと置く。大樹の根っこがボコボコに隆起しているけど、分厚く苔むしているので座っても痛くない。
「フーさん、大丈夫?」
「ナ、ナツ様。取り乱し、申し訳ありません」
フーさんの涙はまだ止まらない。私はフーさんの背中を静かに撫でる。
「ナツちゃん、物は試し。目の前に手を当ててみよ」
「目の前?」
トランお爺ちゃんに言われるまま、私は大樹の苔むした幹に片手を当てた。
特に何も起こらない。
「枯渇しているか。ならば、外から足してみよう。当代、ナツちゃんを通して魔力を流せるか」
セイが後ろから私を抱き込んで、私の片手を上から握りこむ。
「どれくらい?」
「この世の創造の神だ。壊れはせぬだろうが、当代が思う軽く一押しをまずは当ててみよ」
セイが私の頭のてっぺんに顎を乗せて、フウと軽く息を吐きだした。
すると目の前の大樹の幹がミリミリと真横に裂けていく。それからしばらくすると真横に裂けた幹の奥から、ハーブと森林の香りが混じったような清々しい風が私とセイに向かって勢いよく吹いた。
『・・・オ・・、オ・・オォ』
「な、何?何?!」
大樹が微かに呻き始めて、私は驚いてセイにしがみ付いた。
「目覚めそうであるな。当代もう一押し、今度は勢いよく当ててみよ」
私の手を握りこみ、セイはもう一度大樹の幹に触れさせる。
「怖がらないで。大丈夫、たぶん悪い物じゃない」
セイが落ち着いているので、訳が分からない私はとりあえずセイに体を預ける。セイが私の体を通して、多分魔力を流している。相変わらず私は何も感じないんだけど。
『・・・オ、オ、オ、ボァアアアアアアア!!』
「うわーー?!!」
突然上がった大音声に私は再びセイにしがみ付く。
『アアアァ・・・、ア、アン・・。ウン、ううむ。うん?』
「・・・主よ、我が神よ」
『うむ・・・、おお。久しいの、守り人よ。うん、愛し子もおるな。・・・ふたり、おるな』
幹まで苔むした大樹が、もこもこと形を変えていく。形を変えながらフーさんとお話をしている。大樹の声は耳から聞こえているけれど、まるで頭の中でも直接に響くような不思議な柔らかい声音だった。
『うん・・・、ウ・・ン・・・ム・・・』
「もう少しかな」
セイがひょいと私の手を掴み、もこもこ動く大樹の幹にもう一度押し付ける。
『・・・ボ、ボアアアアアアァ!』
再びの大音声に私は再びビクッとする。セイが魔力を注入する度に大樹が大声上げるけど、これはいいの?大丈夫なの?
『・・ア、ア・・オン。おお、久しいの。守り人よ。愛し子もおるな。二人おるな』
大樹の幹には私の身長位の大きさの獣の顔が浮かび上がっていた。まるで鼻が長い犬のよう。顔の部分が木肌がむき出しになって、苔むした部分が左右に分かれて長い耳みたいだ。まごうことなき犬。そして、同じ会話からスタートの犬。かなりご長寿のお爺ちゃん味がする。
「ははは!驚いたな!セヴィ、ナツ。創造神を叩き起こしたぞ!」
ヴィントさんが大笑いしている。
「ああ、主よ。今一度お会いできるなど、思いもよらず。ああ、嬉しや」
フーさんは泣き笑いしている。
「そうぞうしん。神様?」
「そうだ、ナツ。アーウェンはこの世を創りし者。この世の理を司る神だ。お前達の願いも聞き入れてくれるかもしれないぞ」
セイを見上げると、セイはこちらを見下ろしてコックリ頷いた。




