魂分けの旅 2
それから数日経って、王都を出発する日がやってきた。
旅の同行者達とは王都の南方へ向かう外門の外で待ち合わせた。
「陛下、ナツ様、お久しぶりでございます」
私達の護衛をしながら旅の同行をしてくれるのは、アイザさん達の部隊だった。たまたま定期報告に王都へ来ていて、これから南方の辺境に戻る所なのだとか。
「ナツ様、その節は大変お世話になりました。あの後、ジェイドは無事に故郷に帰る事が出来ました。改めまして、御礼申し上げます」
そう言って艶やかに笑うアイザさんは、前回の禁欲的な黒スーツとは真逆の光沢のある真っ赤なビキニアーマーを装着していた。そしてアイザさんの騎獣だという体長3メートルほどの黒豹に跨がっている。これは中三男子なら即死レベルのお色気である。
「旅が無事に終わって良かったです」
私は笑顔で会話しつつ、アイザさんの部下さん達にも目線がチラチラ言ってしまう。私の様子に笑いながらアイザさんが説明してくれる。
「我々は普段南方に詰めておりますが、そこは王都よりもだいぶ暑いのです。心もとない装備に見えましょうが、全身を覆う防具と遜色がない程に物理・魔法双方への防御力は高い物なのですよ」
「あ、えっと。ジロジロ見てしまってすみません。皆さんカッコいいです」
「ふふふ、ありがとうございます。部下達も陛下の行幸の警備につく誉れに、皆張り切っております。道中の魔獣など、露払いは我ら部隊にお任せを」
アイザさんの部下さん10名は全員が女性で、さらに皆さん全員がビキニアーマーを装着している。皆さんスタイルも素晴らしく、スレンダーな方もけしからん感じの方もビキニアーマーをバッチリ着こなしている。私はアイザさんの部隊には入れないなとしみじみ思った。
アイザさんの部下の皆さんは、お兄ちゃんの部隊の皆さんが乗っているのと同じ、スズメのような丸いフォルムの鳥型の騎獣に乗っている。この可愛らしい騎獣たちは驚くべき脚力で長時間走り続ける事が可能なのだ。飛行に関しては短い距離なら、というかまあ斜めに落下するような感じで滑空するのがせいぜいなのだそう。軍部の男性が余裕で跨がれるほどの大きさだけど、鳴き声は小鳥という愛され要素満載の騎獣なのである。
私がアイザさん部隊に気を取られている内に、神獣の虎と小虎ちゃんの出立の準備が終わったようだった。虎と小虎ちゃんには長時間移動用の鞍と荷物を載せる台座などが装着された。これらはいくら神獣達が活発に動いても、魔法で振動を吸収し鞍の上の人や物が一切揺れないようになっている魔道具で、軍部の騎獣の鞍には標準装備の物なのだそう。虎の上に乗せられた3メートル四方の台座は、特注品を錬金術部門が提供してくれたそう。
騎獣たちと神獣親子は友好的に挨拶を済ませ、仲良く同じ場所に居る。王都にやってきた初日は、神獣達の登場に王城の騎獣舎の騎獣達が恐慌を来したと聞いていたので、こちらもホッとした。
アイザさん部隊と騎獣と神獣の戯れに気を取られていると、後ろからひょいと膝裏を掬われ抱き上げられる。アイザさん達がそろって膝をつき、首を垂れた。
「偉大なる魔王陛下へご挨拶申し上げます。此度は御幸の警護に我らベルティーテ隊をご指名頂き恐悦至極に存じます。陛下、最愛様、次代様の道行きを、我らが必ずやお守り致します」
「励め」
「命に代えましても」
今日から日中は魔王モードのセイとアイザさんとの挨拶が終わった。
「よろしくお願いします!」
セイの後ろからクルム君とフーさんもゆったり歩いてきた。クルム君はアイザさん部隊の皆さんと元気に子供らしく挨拶を交わしている。セイの登場に緊張した面持ちのアイザさん部隊の人々もこれにはニッコリだ。
魔人フォームのお爺ちゃん達が転移で集合場所に現れると、アイザさん部隊の人々がザワッとする。「双翼」というワードが囁かれている。うん、似てるよね。気のいい頼りになるお爺ちゃん達なので、この二人とも仲良くよろしくお願いします。
今は門前の広い馬車止めというスペースの一画をお借りして出発の準備をしているのだけど、この広場から見える街道の幅は虎のサイズピッタリ同じなような気がする。
「南方へのルートですが、現在の街道より少し外れた旧道を使わせていただきたいと思います。神獣様のサイズですと、馬車がすれ違えず街道をせき止める恐れもありますので」
アイザさんの説明にセイはコクリと了解する。
セイとアイザさんとお爺ちゃん達が南方へ向かうルートの打ち合せを済ませ、いよいよ魔王陛下の行幸が始まったのであった。でも旧道を進むので人知れずひっそりと。
旧道を進むと言っても、現在の街道よりも古くて狭いのでルートの目印にする程度。神獣親子も何ならアイザさん部隊の騎獣達ものびのびと獣道的ルートを思いっきり駆けていく。
人の手があまり入っていない大自然の景色が物凄い速さで後ろに流れていく。
私とセイとドッドお爺ちゃんは小虎ちゃんに乗り、クルム君とフーさん、トランお爺ちゃんは虎の方に乗って荷物も見てくれている。荷物はクルム君がお眠の時に使うブランケットや、クルム君が小腹がすいた時に食べるおやつや、他もしもの時の為のクルム君のお着替えなど、ほぼクルム君の物だ。
このメンバー決めは物理攻撃と魔法攻撃のバランスを見てとの事だったのだけど、小虎ちゃんチームのドットお爺ちゃんが物理、セイが魔法。これは納得。片や虎チームのトランお爺ちゃんは魔法、という事はフーさんが物理。セイがクルム君の守りを任せるほどの、信頼のフーさんの物理攻撃・・・。そういえば前にブランパパの結界を、フーさんが拳で壊したことがあったっけ。
そんな事をつらつら考えながらも、魔王一行はどんどん先へと進んでいく。
「奈津、日中はひたすら移動の距離を稼ぐことにする。お昼ご飯は近くの街で好きな物を買っておいで」
「わかった」
セイは私にゆっくり街を見せてあげられない事を申し訳なく思っているみたいだけど、セイが一緒に来られないなら観光してもつまらないしね。
「美味しそうなもの探してくるからね!」
初日はお昼前ぐらいに少し大きい街の近くまで辿り着けた。街の門前の広場でお留守番チームには待っていてもらって、私とアイザさんとお爺ちゃん達とアイザさんの部下2名でお昼時の街に繰り出した。
私が街に行くのにあたって、セイはお爺ちゃん達とアイザさんを含む部隊全員を私に付けようとしたので、この人数まで減らしてもらった。非戦闘員のクルム君の安全も確保しないと。まあ現役魔王様がいれば守りは万全だと思うけれどもね。
「ナツ様の守りも、双翼の方々がいらっしゃれば我らは無用かと思うのですが」
アイザさんはそんな事をいうけど、護衛をしてほしいだけじゃなくて、みんなでワイワイ言いながら屋台を見た方が絶対に楽しいし。
「みんなで美味しい物を一緒に探してお留守番の人達に持って帰りましょう。魔国の食べ物の事も教えてください!」
街のメインストリートに近づくと、お昼のかき入れ時で食べ物の屋台とかとても賑わっている。おお、異世界っぽい!お肉の串焼きとかある!あの小麦粉の焼いた皮で肉と野菜の炒め物挟んだやつとか食べてみたい。ココナツみたいな謎の果実水も試してみたい。
王都での生活は食べ物も日用品も日本にいる時とそんなに大差なかったので、とってもテンションがあがる。アイザさんやお爺ちゃん達に色々教えてもらいながら、買い食いをして回る。
すごい楽しい!いつかセイとも街歩きを出来ると良いんだけどな。でも製薬部にセイが来た時の惨劇を思い出すと、セイが街に入ったら街の正門からメインストリートまで街の住民の皆さんが気絶して転がるようになるからね・・・。高魔力の人達に対しては私がセイに抱っこされていればどうにかなる時もあるけど、王城外はやっぱり難しいだろうなあ。
セイと街歩きする方法なんかを考えながらあれこれ買っていたら、あっという間に人数分のお昼ご飯を確保できた。
「みんなただいまー!」
「おかえり、奈津」
お留守番チームにお昼ご飯を渡して、私を抱っこしているセイの手が塞がっているので、私はせっせとセイの口に串焼き肉とかお好み焼きっぽい何かを運ぶ。私だけ街歩きを楽しんでしまったことが後ろめたくもあり、一生懸命セイにご飯を食べさせていたら、やけに回りが静かになっている。見回すとアイザ隊の皆さんが目を細めてこちらを見ていた。
「これは!イチャイチャしているわけではなく、魔圧を減らすためにセイは今手が離せませんので!」
「ふふふ、ナツ様、我が部下達が不躾に申し訳ありません。どうぞ、ご遠慮なく普段通りに」
アイザさんが分かっていますよとばかりに微笑む。
普段から食べさせてあげてる訳じゃないですけども!
私が一人体温上昇させているのに、セイは涼しい顔で次の一口を催促してくる。考えれば串焼きくらいは片手で食べられたよね?旅先は判断力が低下して、買わなくて良い物を買ったり、普段しない事をしてしまうって、こういう事―?
「セヴェルカルム様、あーん」
私が一人羞恥に悶えていると、クルム君がセイの食事介助に堂々と参戦してきた。これはいい。二人でやるなら恥ずかしさも半減だからね。私とクルム君はセイをお腹いっぱいにするべくせっせとセイの口元に食べ物を運んだ。それが更に微笑ましかったらしく、アイザ隊の皆さんはニッコニコでこちらを眺めていた。
みんなお腹が満たされ、騎獣の休憩も終わればまた旧道に戻り、道なき道を突き進む。小休止を挟みながら、夕日が傾き始めた頃にアイザ隊が泊る街まで辿り着いた。
「本日はお疲れ様でございました。また明朝、同じ時間に門前でお待ちしております」
アイザさん達は各街に定宿があるそうで、予約したお宿にこれから向かうのだそう。
アイザさん達と門前で別れて、私達は王都までいったん戻った。
明日からは私とセイ、お爺ちゃん達、クルム君とフーさんはいったん神域に集合して、それからアイザさん達と合流する。日中は小休憩とお昼休憩を挟みながらひたすら南を目指して進む。
それを七日繰り返し、とうとうヴィントさんが統治する領までやってきた。
王都は常春だけど、この辺りは常夏と言えるほどの熱さ。アイザさん達がビキニなのも納得である。
「陛下、ナツ様、次代様。恙なく行幸を終えられましたこと、お慶び申し上げます。先代様のお迎えもお見えですので、我々はここで失礼いたします」
アイザさんの別れの挨拶に、セイはコックリ無言で頷く。
「アイザさん。皆さん。ありがとうございました!楽しかったです」
「ナツ様、もったいないお言葉です。また是非ご指名くださいませ」
私はアイザさんとぎゅっと握手を交わした。アイザさんとはまた是非会いたい。
アイザ隊の皆さんも親切で良い人達だった。
一度一糸乱れぬ深い一礼をセイに向けてすると、アイザ隊の皆さんは颯爽と騎獣に跨り街道を走り去っていった。




