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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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深淵の更に底 1

 セイから言われた自宅待機の期間が終わったのだけど、もう厨房やリネン室でのお仕事はできなくなってしまった。

 ノエイデスさんに王城下層立ち入り禁止を言い渡されたからだ。

 私に何かあるとお城の幹部の人達も大変らしいので、残念だけど仕方がない。

 出入りを許されたのは天空庭園とトーコちゃんがいる製薬部研究室のみ。

 しかし製薬部は私が出来ることがほぼ無い。利き薬草業務は三カ月毎にしか発生しないし。

 それでもメリーさんや少し顔見知りになった研究員さん達に会いに、週一ペースで製薬部の研究室にお邪魔している。

「ナツ様、いらっしゃいませ」

 メリーさんはこちらににこやかに挨拶しながらも、手を止めることなく研究道具を洗浄しては棚に戻している。まるで指揮者のように両手を振ると、ビーカーやらフラスコやらが奇麗になり、自分で棚に戻っていく。今メリーさんの後ろに舞った書類を魔法でフワリと元の位置に戻したけど、後ろにも目が?

メリーさん、自分は旧式だと謙遜するけど十分多機能です。

 毎回製薬部にお邪魔してメリーさんの活躍を見るたび、私の出る幕はないなと再確認している私なのだった。

 メリーさんが私とお爺ちゃん達にお茶を入れてくれる。

 いつもの研究室の端っこのテーブルに座り、お爺ちゃん達とまったり研究室の様子を眺める。

 用もないのに研究室に居座るのは邪魔かな思ったんだけど、少し前にスランプだという研究員の人に聞かれたのだ。

「この2種類のピンクの内どっちが好き?」

 研究員さんが二つのシャーレに入れられた2種類のピンクの粉を見せてきた。

 蛍光ピンクよりサーモンピンクの方が可愛かったので、自分の好みだけでそう答えたら、私が選んだピンクを採用したことによりその研究員さんの仕事がグンと進んだそうなのだ。

 そうしたら、ポツポツと私の所に研究に行き詰った研究員さん達が来るようになった。

「この石の中でどれが好き?」

 とか。

「この試験紙の色を好きな順番に答えてくれる?」

 とか。

 私の好みで答えていいらしいので、無責任に直感で答えている。

 そんな私と研究員さん達を見てトーコちゃんは爆笑していた。

「ナツはいいねぇ!すんごく面白いよー!」

「適当な事しか言ってないし、責任も取れないんだけど」

 そんな私の手元には可愛い紙でキャンディ包みされた魔国産チョコレートが3個ある。

 魔国に来ても日本食が余裕で食べられて、魔国で買える食品も日本の物ばかりだったので、私は研究員さんに貰った魔国産のお菓子に大喜びした。そうしたら、お供え物よろしく魔国産のお菓子を持って、研究員さん達が私達の座る一角に訪れるようになったのだ。

「あはは、いいんだよ。試行錯誤を繰り返していると、研究のパターンを考えるのもしんどくなるんだよね。研究員達の良い気分転換にもなるし、当たったら儲けもん位の気持ちだから大丈夫」

 今の所大当たりしたのは、ピンクのシャーレの人しかいない。けれども研究室の人達は「そう来たかあ」とか、私の答えに喜びながら帰っていく。少しでもお役に立てたなら何より。

「ナツさん、また聞いていい?」

 トーコちゃんと入れ違いで私のテーブルにやってきたのは、チョウさんという男性の研究員さん。名前の響きも顔立ちもアジアンテイストで、私は勝手に親しみを覚えている。ちなみにアジアンテイストといっても私は顔が平たい日本人顔だけど、チョウさんは韓流ダンスグループに居てもおかしくないほどのシュッとしたイケメンである。

 今回で3回目のご来店です。

「ナツさんはどれが好き?」

 4種類の貝を見せられる。

 この世界にも貝があるんだ、とか、この世界の海はどんな感じなんだろうと思いを馳せながら貝を見比べる。サイズは地球産の物よりだいぶ大きい。そして色が変。

 ハマグリのような形の二枚貝は群青色に白い水玉が散っていてポップ。サザエみたいな形の巻貝は黒と金色のツートーンカラー。シャコガイみたいな形の物は赤、青、黄色、三原色の幾何学模様。この貝達は天敵から身を隠す、という考えがなさそう。

「どれが一番おいしいですか?」

「どれも猛毒だよ」

 身を隠す必要がないのかー。逆に派手な模様で毒貝アピールをしているのかな。

 毒の危険はもうないのか、チョウさんは気負いなく貝をテーブルに並べていく。

 最後の一つ、私の両手に余る位大きく、ぽってり膨らんだベージュ1色の自己主張弱めの二枚貝があったのでそれを選ぶ。

「それかぁ。未だ解毒薬が作れない最悪の猛毒貝だよ。致死率100%。皮膚に貝の体液が少し付着しただけでそこからあっという間に腐食が広がり、全身が崩れてしまう」

 こ、こわ・・。触ろうとした手を慌ててひっこめる。

「あはは、毒があるのは中身だけだから大丈夫。もちろん中身は空だよ。この貝は殻がとても有用でね」

 チョウさんが私の目の前から最悪の猛毒貝(中身無)をひょいと取り上げる。

「この貝毒は有機物を全て溶かすし、他種の貝殻や鉱物も腐食させる恐るべきものなんだけど、自身の貝毒を含む貝肉とそれを包む外殻は溶けることなく、貝毒を中に閉じ込めることができる。不思議でしょう?」

「へえー」

「その特性が貝毒以外にも使えないか、実験中なんだよ」

 チョウさんが何を言っているんだか半分以上分からないけど、この世界の生き物は触る時は注意が必要と覚えておこう。

「この貝、覚えた。絶対触らない」

「ナツちゃん賢いのぅ」

「慎重派でしっかり者じゃの」

 私が自分に言い聞かせていると、それをお爺ちゃん達がチヤホヤと褒めてくれる。

 魔国に来てからお爺ちゃん達の他にノエイデスさんとか、フーさんとか、ブランさんとか、私に対して物凄い子ども扱いであると感じている。北欧神話級の美男美女が行きかう王宮内で、顔の凹凸が少ない純和風顔の私はよけい幼く見えるんだろうな。

 しかし、曲がりなりにも私は成人女性であるので、しっかりしている所も今後はアピールしていきたい所である。

「ふふ、ナツさんは良い人だね」

「え?」

 突然に韓流イケメンに良い人認定されて戸惑う。そういう話の流れだった?

「ナツさんは、とても善良だ。だから僕はナツさんにも幸せになってほしいと思っている。これをもらってくれる?」

 チョウさんがにっこり笑いながら、最悪の猛毒貝を私に差し出してくる。

「え、これ、何で、ですか?」

 実はすごい高価とか?でも猛毒貝、あんまり触りたくない。

 くれるならお菓子でいいんだけど。

 躊躇している私にチョウさんが更に貝を差し出す。

「ナツさんのふさわしい場所で、幸せに。ああ、限界かな?仕方がない」

 チョウさんが私に二枚貝を向けながら、両手でゆっくりと開いていく。

 突然、気圧が変わったみたいに耳がキンとした。

「ナツちゃん!」

「ナツ!」

 トーコちゃんとトランお爺ちゃんが同時に叫んだ。

 チョウさんは二枚貝を両手で持ち、糸目のニッコリ笑顔のまま。

 トランお爺ちゃんが私に覆いかぶさった途端、私の視界は暗転した。



「き・・・!きゃあああああああ!!」

「ナツちゃん!気をしっかり持て!!」

 トランお爺ちゃんが無茶なことを言う。

 私の視界は暗転したけど、気を失ったわけではなく。意識がある。

 真っ暗闇の中を今、私とトランお爺ちゃんはひたすらに落下している。

 いっそ気を失ってしまいたい。

 でも私の意識はしっかりしたまま、トランお爺ちゃんと抱き合って落下を続けている。

「お爺ちゃん、こわいいいい!!」

「うーむ、魔法が使えんのう」

 トランお爺ちゃんが更に絶望的な事を言う。

「し、死ぬ!きゃああああー!」

「ナツちゃんは死なん。当代の守護結界がガッチガチじゃもん。逆にわしを抱っこしてておくれ。わしは衝撃でちょっと壊れるかも」

「ええっ?!い、嫌だよ!トランお爺ちゃん死なないでえ!!」

 私はあわててトランお爺ちゃんに更にしがみ付く。

 無重力のフリーフォール状態がかれこれ、体感10分くらい続いている。

 しかし人間、慣れるものなんだな。

 絶叫系マシーンの中でも落下系は大の苦手だった私が、怖いながらも叫びながらもトランお爺ちゃんと会話が少しずつ出来るようになってきていた。

「ここ、どこなの、かなあ!」

「うーむ、とりあえず、底まで行ってから調べてみようかの」

「ううう・・・!お爺ちゃんゴメンねええぇ!!!」

 明らかに、私に巻き込まれの今だもんね!

 研究室の皆さんは良い人ばかりだと思っていたからショックだ。

「なんの!ナツちゃんを一人にせんで済んで、良かった!」

「うえええぇぇ!!」

 落下中の恐怖の中、トランお爺ちゃんが更に泣かすような事を言ってくる。恐怖と混乱とトランお爺ちゃんが一緒にいる心強さと、気持ちがぐちゃぐちゃだ。

 それにしてもこれ、いつまで落ちるのか。

「ここ、魔国の中ぁ?!」

「魔国の外には出とらんと思うけどなぁ。む、そろそろじゃ・・・!」

「わ・・・!わわわ・・・!!」

「むぐう」

 しっかり抱っこしないと、トランお爺ちゃんが壊れる!

 私はいつもセイにされるようなぬいぐるみ抱っこ方式で、トランお爺ちゃんの体全体を抱き込み衝撃に備えた。

「!!!」

 擬音で言えば、ぼいーん、といった感じで私の体は落下から反転、上方に跳ね上がった。

 底に到着したってこと?!

 事態を把握する余裕もなく私の体は上空に跳ね上がり、再び地面に落ちる所で当たり所が変で真横に飛んだと思ったら、また上に跳ね上がる。

 まるでスーパーボール状態。

 これは、勢いが収まるまで身を任せるしかない。10回以上も上空に跳ね上がってから、徐々に滞空時間が短くなってきて、20回目のバウンドを前にようやく私とトランお爺ちゃんは地面に横たわった状態で停止した。

「お、おおおお爺ちゃん、生きてるっ?!」

「ナツちゃん、ありがと。生きとるよー」

「う、ううえええ、良かったああぁ!」

「ナツちゃん、頑張った。偉かったのう」

「うえええーん!」

 トランお爺ちゃんがハンカチで私の涙と鼻を拭いてくれる。

 とりあえず、私もトランお爺ちゃんも五体満足で無事!

 これが一人だったらと思ったら、別の怖さに体が震えてくる。座り込んでいる地面はしっとりした土の感触があるけど、一筋の光も差し込まない、依然としてあたり一面の闇の中に私とトランお爺ちゃんはいた。

「はああ、怖かった・・・。ここ、どこなのかな」

「ナツちゃん、わしらがあげた笛持っとる?」

 トランお爺ちゃんに言われて、私は首にかけている銀色のホイッスルを服の下から引っ張り取り出した。服の下から出てきた銀色のホイッスルは薄っすらと光を放っていた。この微かな明かりでトランお爺ちゃんの顔が見えて、少し緊張が解けた。

「吹いてみる?」

 トランお爺ちゃんが頷くので、暗闇の中でお爺ちゃん呼び出し笛を吹く。

 ピルルル、と可愛い小鳥の声がシンとした暗闇で響くが、何も変化は起きなかった。

「ドッドお爺ちゃんが来てくれたり、しないね」

「ここは、繋がっとらんのう。ふん!」

 トランお爺ちゃんが気合を入れる。一瞬お爺ちゃんの右手が青く光ったけど、すぐにその光は消えた。

「ふむ、魔脈のド真ん中かの。魔力が乱れて使えんのう」

 トランお爺ちゃんが立ち上がり、私の手を引っ張る。

「風が微かに吹き込んでくる。地上を目指すぞナツちゃん。そうしたら、当代がすぐさまナツちゃん目掛けてすっ飛んでくるぞ」

「ふふ、すっ飛んでくるかな」

 まずは地上を目指す。私一人なら、怖くて一歩も動けなかったと思う。

 トランお爺ちゃんの手を握って、私は立ち上がった。銀色のホイッスルは、私とお爺ちゃんの顔を薄っすら照らすのみで、足元もおぼつかないけど、しっかりした足取りのトランお爺ちゃんに手を引かれて、私は地上を目指して一歩を踏み出した。

「まあ、一週間は水も食料も大丈夫じゃよ」

 トランお爺ちゃんが腰につけているポシェットをポンと叩く。異世界御用達の魔法のポシェットをお爺ちゃんが持っていてくれた。

 水も食料も問題なし。問題は運動不足気味の私の体力の無さだけ。

 これが大問題だった。

 しばらく歩き続けると足がガクガクしてくる。微妙に上り坂になっているので、腿の上がパンパンになってきた。トランお爺ちゃんがグングン手を引いてくれるから何とか歩けているけど、私が大ブレーキをかけている。見かねたトランお爺ちゃんがおんぶを試みてくれたんだけど、トランお爺ちゃんの体格が小さすぎて私が逆に疲れてしまった。

 頑張って自分の足で歩くしかない。

 何回目かの小休止、私は地面に座り込んでトランお爺ちゃんのお世話を受けていた。

「ごめん、私のせいで全然進めない」

「大丈夫じゃよ。上には近付いておるよ」

 お爺ちゃんが魔法のポシェットからサンドウィッチとパックの野菜ジュースを取り出してくれる。

「チヒロちゃんも、次代もみんなナツちゃんを待っておるからの。今はしっかり食べて寝るのがナツちゃんの仕事じゃよ」

「うん、うん」

 トランお爺ちゃんが優しすぎて、どうしても涙が出てくる。

 私は泣きながらサンドイッチを飲み込んで、トランお爺ちゃんがポシェットから引っ張り出したふわふわのブランケットにお爺ちゃんと包まって、初日の夜は意識を失うように眠りについた。


 それから3回、暗闇の中で睡眠を取りながら、緩やかな坂を上り続けた。

 時計もないし、光も差さない。今が昼なのか夜なのか分からない。

 気温は地下だからなのか、ほのかに暖かい。それだけが幸いだった。

 時々トランお爺ちゃんに励まされながら、どうにか一歩一歩足を動かす。

「傾斜がきつくなってきたの。ナツちゃん、脇の岩棚で少し休むぞ」

「うん・・・」

 もうお喋りする元気もなく、私は疲れ切っていた。トランお爺ちゃん一人なら、こんな状況でも切り抜けられたかもしれないのに。

 ダメだな。どうしても思考がネガティブになる。

 こんな時こそ、甘いもの!

 私は大事に取っておいた、あの日研究員さんにもらったチョコレートを上着のポケットから取り出そうとした。

「ん?」

 ポケットに目線を下げると、私の隣に座っているトランお爺ちゃんのお尻が薄っすら青く光っていた。

「お爺ちゃん、お尻光ってる」

「なにっ?!」

 トランお爺ちゃんがびっくりして自分のお尻を振り返ってみる。

「ああ、なんじゃあ。魔石じゃな。魔石の鉱床か?」

 トランお爺ちゃんがポシェットから自分の身長よりも長い木の杖をズルズル取り出した。

「おりゃあ!」

 お爺ちゃんが杖の尖った先端を、思い切り薄っすら光る岩肌に叩きつけた。火花が弾けて、私とトランお爺ちゃんの全身が眩しく照らされた。石が砕けて、その後ろから青白い光が更に強く漏れ出した。

「ん?空気が流れておるの」

 もう一度ザクっと杖をトランお爺ちゃんが突き入れると、はっきりと風が私たちに向けて流れてきた。

「違う場所に繋がっているのかな」

「うーむ」

 しばしお互いに無言で悩んでいると、風に乗って微かな音が聞こえてきた。

「な、なんか、音がするね」

「うむ・・・」

 これまでは全く生物、植物の気配はなかった。

 微かに、鳴き声のようなものが聞こえる。何がいるのかはわからない。

「こ、こわ・・・」

 行くのは怖い。行かなくても怖い。

 このままこのルートで歩き続けて、地上に出られるのはいつ?

 食べ物と水はいつまでもつ?

「い、行く!」

「ほっほ。ナツちゃんは思い切りがいいのぅ!」

 トランお爺ちゃんが笑いながら杖を振りかぶった。

 魔石の鉱脈をトランお爺ちゃんがサクサクと掘り進めて、風と音が通ってくる小さな穴をどんどん広げていく。魔石は柔らかいのかと破片を手に持ってみたら、カチンコチンに硬い。なのにトランお爺ちゃんは、焼きプリンの上のカラメル層を砕く位に楽々と魔石を砕いていく。

 それほど時間もかからずに、鉱脈の向こう側に空間が開通した。

 青い光が満ちたトンネルを、トランお爺ちゃんの後ろについて四つん這いで進む。

「ほう」

「トランお爺ちゃん、どう?行けそう?」

「ちょっと待ってての」

 トランお爺ちゃんがするすると前進して、とうとう穴の外に出てしまった。

 穴の外からザクザク音がする。

「ナツちゃん、おいでー」

「う、うん」

 おっかなびっくりトンネルの穴から顔を出す。トンネルの終わりは少し上向きに傾斜がついていて、私は穴の中から上にひょっこり顔を出した。

「わあ」

 そっと周りを見回して、青い光に照らされた予想以上に広い空間に驚いた。天井を見上げるとドーム型になっていて、黒い空に青い星が無数に瞬いているかのようだった。


読んでいただきありがとうございます。

きりの良いところで、書き溜めながら投稿していきます。

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