ノエイデス将軍の後始末(カイト・ノエイデス視点)
※嘔吐・ケガ描写あり
俺は今でこそ将軍職を仰せつかっているが、子供のころは端的に言って、考えなしのアホだった。
「カイト、待て。待ちなさい。そっとお側に寄るのだよ。こら、ダメだ。待ちなさい」
そう言って、父にがっちり体を掴まれながら何度も言い含められている。しかし、その時の俺の耳には父の言葉は全く入らず、目の前の子供の事しか考えられなかった。じっとしていられなくて、父に抑えられながらも何度も足が床を蹴ってしまう。
魔国は子供がとても少ない。魔国の国民は魔力がほどほどの一般国民であっても数百年の寿命がある。高魔力の者に至っては数千年生きる者もいて、その長い生涯で、夫婦は子供を一人生むかどうかという出生率なのだ。
俺は自分以外の子供を、その日生まれて初めて見たのだった。
「カイト!」
父の手を振り払って俺は弾丸のようにその子供に走り寄った。
初めて行った王城で、右も左も分からず父に連れられて入った一室。
窓際に立ちこちらを見ているその子供は、日の光を浴びた銀髪も、澄んだ水色の眼も、身に着けている真っ白でひらひらの服も、どこもかしこもキラキラしていた。
俺は勢いよくその子供に駆け寄り、その子供の5メートルほど手前で思い切り嘔吐して倒れこんだ。
その子供は青い顔をして、俺を泣きそうな顔で見ていた。
急激に意識が薄れる中、失敗したなと思った。
ただ、仲良くなりたかっただけだったのだ。
俺は昏倒して三日後に目覚めた。
特に体の調子は悪くはなかったのだが、俺はしばらく王城で体調観察をされることになった。
そして目覚めたその翌日、俺は大人の目を盗みあの子供の部屋に再度突撃した。
「ねえっ・・!」
またも5メートル手前で嘔吐して気絶。
気づいたら元の部屋に寝かされていて、ベッドの横で父が腕組をして俺を見下ろしていた。
怒られるかと思ったが、怒られなかった。
父が変な顔をしていると思ったが、今思えばどうしたものかと思案している顔だったんだな。
それからもしばらく、療養が必要という事で俺は王城に留め置かれた。
しかし部屋を抜け出した前科があるのに、昼下がりのころ良い時間に不思議と室内が無人になる。まあ思い切り大人達にお膳立てされていた訳なのだが、俺は大人の目を盗んだつもりで部屋を抜け出し、何度もあの子供の部屋に行った。
3回目は4メートル手前で、転倒して床への当たりが悪く流血した末に失神。
俺は毎回、具合が悪くなってはほぼ気絶した。でもあの子供に会いに行くのをやめなかった。あの時の俺を突き動かすものは何だったのか、今でも不思議に思う。
父は気絶する俺を毎回黙って回収してくれた。
そしてとうとう、俺はその子供の2メートル手前まで近づくことに成功した。
「あれっ?」
その日の子供はいつも着ている引きずりそうな長衣ではなくて、一般国民が着ていそうな、簡素な長袖と長ズボンを着ていた。長袖には帽子が付いておりその帽子を目深にかぶっている。
「その服、初めて見るね」
キラキラの子供はコクリと頷く。
「今日は気持ち悪くならないんだけど、なんで?」
キラキラの子供は困ったように首を傾げた。
その日は初日と同じように俺に付き添ってきてくれていた父が、俺の隣でそっと床に膝をつく。
「・・・息子のカイトと申します。元気ばかりが取り柄の息子ですが、お側において頂けますか?」
父は、その子供を驚かせないようにか、人馴れしない動物が怖がらないように、そんな慎重さで伺いを立てた。
父の言葉を受けてその子供がゆっくりと頷く。
その子供の側に居ることが許されたのだと、子供心にも分かった。これからいろんな話をしたり、一緒に遊んだりできるのだと思ったら、俺の感情が嬉しさで爆発した。
その子供に俺は不用意に詰め寄ってしまったのだ。
「ねえ!名前なんていうの!」
『セヴェルカルム』
その声音は高音と低音が二重に響き、頭を激しく揺さぶられるような大きな衝撃を俺に与えた。
その子供の声を聞いて俺は気を失った。
「黒い子犬が何度も何度も、健気にセヴィに会いに来ると聞いてな。可愛らしい子じゃないか」
「ははは、お恥ずかしい限りです。次代様におかれましては、ご不快ではございませんでしたか?」
「セヴィが初めて俺に願った。会いに来る子供と話がしてみたい、とな。お前も楽しみにしていたよなぁ、セヴィ?」
大人が自分の頭越しに何やら話している。心地よい低音を聞きながらゆっくりと意識が浮上する。
気が付くと俺は父の膝の上に横抱きに抱えられていた。
父を見上げ、父の目線を辿ると、父の向かいには艶やかな紫紺の髪の男が座っていた。
その男の膝にはあの子供が抱き上げられている。子供は俺に気づくと紫紺の男に身を寄せた。
「おや、目が覚めたかな」
「カイト、陛下の御前である。ご挨拶を」
父の言葉で、この目の前の男が魔王陛下だと分かった。子供の俺から見ても、とても格好のいい人だった。
「カイト・ノエイデス、です」
父の膝の上、相手の雰囲気に呑まれながらもどうにか挨拶をした。
「いい子だ。カイト、この子と友達にならないか?この子とは、周りの者と同じように話したり、遊んだりは出来ないかもしれないが・・・。時々で良い、会いに来てやってくれないか?」
「いいよ!」
「これ!カイト!」
父が俺の振る舞いについて慌てていたが、俺は父の言葉など聞いちゃいなかった。
出会った日からずっとそうだ。
目の前の子供が気になって、仲良くしたくて、その一心しか無かった。
魔王陛下の胸元に顔を埋めていた子供は俺の返事を聞いておずおずと頭を起こし、俺の顔を見た。水色の瞳の端から、一粒だけ涙が転がり落ちる。また泣かせてしまった。
子供はこちらをジッと見るだけで何の反応もない。
俺はお前と友達になると決めたんだ。
お前は友達になりたいのか、なりたくないのか、どっちなんだ!
感情を押し込めてジッとしている子供を見て、どうにも堪らなくなった。
「セヴェルカルム!」
教えてもらったばかりの子供の名前を呼ぶと、子供が驚いて目を丸くした。
「カイトだよ!よろしくね!」
セヴェルカルムに手を差し伸べると、セヴェルカルムは手を出しかけてパッと引っ込めた。
悲しそうにこちらを見るだけのセヴェルカルムと、手を差し出したまま待つ俺。
その俺達の間にスッと二組の小さな手袋が差し出された。
手袋の持ち主は豊かな赤髪の美人だった。
「さあ、この手袋をはめれば手を繋げますよ」
赤髪の美人は優しく俺とセヴェルカルムに手袋をはめてくれた。
手を繋げると言われたので、俺は遠慮なくセヴェルカルムの手を掴みにいった。
なんという事もなく、手袋越しにセヴェルカルムとは握手が出来た。
「よろしゅうございましたね、セヴェルカルム様」
呆然としていたセヴェルカルムが、美人の言葉にハッとする。
そして俺の顔を見て、セヴェルカルムはようやく笑った。
笑い声は聞けなかったが、子供らしい、可愛い笑顔だった。
それから俺は時々父と一緒に城に行き、セヴェルカルムと過ごした。
魔力の勉強をすれば、セヴェルカルムともっと色々な遊びが出来ると父に乗せられ、逃げまくっていた勉強も頑張るようになった。
魔防強化が上達すると、片言でセヴェルカルムと話もできるようになった。
お互いを知れば知る程、セヴェルカルムは俺とは真逆の性格だったが、一緒にいて不思議と居心地が良かった。
あの頃は親の庇護の元、何の不安も憂いもなく、ただただ楽しい子供時代だった。
それから数十年。
あんなに可愛らしかったセヴェルカルムが、俺を追い越すほどの大男になるなんて思いもしなかった。
そして初めての恋にこれほど溺れてしまうなどと、思いもしなかった。
「一族郎党皆殺しにする」
「ダメに決まっているだろう!」
思慮深さとは無縁の子供時代を過ごしたこの俺が、今や傍若無人の魔王の唯一のストッパーになっている。人生分からないものだな。
「特に支障はないのでは?魔国的には役にも立たない、古いだけが取り柄の家門です」
「支障は無いことも無くは無いだろう、フロントゥイネ」
支障があるのか無いのか訳が分からなくなったが、簡単に一族郎党皆殺しにして良い訳がない。そうだよな?
魔王とその筆頭側近を前に、俺は孤立無援だ。
子供の頃は綺麗で優しい大人の女性だと思っていたフロントゥイネだが、今になって分かる。この人は魔王以外心底どうでも良いと思っている、考えが偏りすぎているちょっと危ない人だ。
母が生きていたらこんな感じだったのかもと、母とフロントゥイネを重ねて見ていたことは、誰にも言いたくない俺の黒歴史だ。
魔王至上主義のフロントゥイネは魔王を諫めることは絶対にしない。むしろ全力で魔王のどんな願いも叶えようとする。
よってこの俺が迎え撃ち、全力で二人の暴走を阻止しなければならない。
ちなみにもう一人のストッパーになるべき魔国宰相の父は、微笑みを浮かべながら無言で退室していった。しょうもない面倒事を敏感に感じ取る能力は、まだまだ俺は父には及ばない。
「いいか、まずナツには実害が一切及んでいない。護衛のお陰で不審なメイド達はナツの半径3メートル以上近づけていないからな」
その護衛が、魔国民誰しもが知る建国記の双翼であると父から聞いた。
双翼、ご健在であったのか。そもそも実在したのか。
信じられないが父の言う事だから本当なんだろう。
「しかし、ナツ様はお心を病まれ、セヴェルカルム様に救いを求められたのですよ。お労しい・・・」
俺が見た所、ナツは今回の件を全く気にしてはいない。「お城は色んな人がいるねぇ」と笑っていた。全く心など病んではいない!
しかしあの能天気なナツはこの二人の謎のフィルターを通すと、儚い美少女に置き換わるようなのだ。
可愛くないとは言わないが、儚くはないな。
国民に開放されている下層の食堂で、他の労働者達と一緒にもりもり飯を食い、肉体労働に楽しそうに励んでいると報告が上がっているぞ。
「とにかく、この件は俺に預けてくれないか。悪いようにしない」
「一週間だ」
明日中とか無茶ぶりされなくて良かった。
セヴェルカルムの提示した期限に俺は黙って頷いた。
ナツの遥か手前で勝手に転倒して、周りに相手にもされない言い掛かりをつけて最後には泣きギレして退場。
これで死罪では気の毒にも思えるが、ナツを狙い、何を目的としたのかだな。
ナツが魔王の寵愛を受けし者だとわかっての愚行か。
ナツに接触を試みた者達は目撃者も多く、とっくに素性は知れていた。
とうとうセヴェルカルムの不興を買ってしまったので、保護する意味合いもあり実行犯の身柄は速やかに確保した。
王城地下の貴人用の牢屋に向かうと、室内の鉄格子の向こうで3人のメイドが真っ青な顔をして座り込んでいる。メイド達は泣きそうになりお互いに身を寄せている。
何やら弱い者いじめをしているようで気分は悪い。
「ローテーションで当番が決まっていたそうです」
見張り番をしていた部下からの聞き取り報告である。
当番。何をしたかったのか、さっぱりもってわからん。
「お前達、魔王へ叛意があるのか」
「な・・!なぜそうなるのですか!!」
真ん中のメイドが悲鳴混じりに叫ぶ。
「うん・・・?お前達、あの娘が何者か知った上でのことか」
「あの娘は我が主の恋路を邪魔する不届き者でございます。城での仕事を諦めて、城下に降りてくれればそれでよかったのです。お可哀想に、カトリーヌ様はここ数日食事も喉を通らず、おやつれになって!」
誰だよカトリーヌ。
「ちなみにお前の主の恋の相手は誰だ」
「財務部にお勤めのステファン・ロドリゲス様です」
誰だよステファン。
「・・・ちなみに、お前の主の恋路を邪魔する不届き者の名は?」
「アンナ・クックという城下町の娘ですわ!」
誰だよアンナ!
推測するに、ナツは下級文官と多分下級貴族の娘と城下町娘の色恋沙汰に、人違いで巻き込まれたということか?
下らな過ぎてセヴェルカルムに報告するのも躊躇われる。
「お前達が言い掛かりをつけていた娘と、アンナ・クックなる娘は別人だぞ」
俺がため息交じりに告げると、メイド達は3人そろって愕然としていた。
こんな阿保どもに振り回されたのかと、俺の疲労感も増す。
とっとと後始末をして帰りたい。
さて、落し所は貴族娘とメイド達への厳重注意と城内出禁位でと思案していたのだが、メイドの一人が落とした呟きに俺の胸がシンと冷えた。
「まあどちらも庶民だもの。どうとでもなるわ」
その言葉を拾った瞬間、俺は思い切り目の前の鉄格子を蹴りつけ破壊していた。格子は木っ端みじんとなり、部屋の壁に無数の破片が勢いよく突き刺さった。
メイド達は運が良かったな。誰一人欠けることなく無事だった。
鉄格子が体に突き刺さったら体は四散していたことだろう。
「庶民なら、なんだと?」
理性を欠いていたことは認めよう。俺達軍人に比べれば魔力がほぼないに等しい娘達に向かって、俺は内包魔力を垂れ流し状態だったからな。
メイド全員が、着替えが必要な有様になってしまった。
「庶民ならどうするというのだ?アンナ・クックをどうすると?それとも人違えをした娘をどうにかするのか?」
「ひっ・・ひぃ!」
至近距離でふざけたことを言ったメイドを覗き込むと、そのメイドは白目をむいて失神してしまった。
いつも紳士たれという父の教えに背いてしまったか。まあ、今回は許してもらいたい。
ナツにまだ何かしようというのか。
それならば、次は人違いではなく、ナツを標的にするという事だ。
その可能性をちらつかされただけで、俺の理性は弾け飛んでしまった。
一塊になって震えるメイド達を俺は見下ろす。
「使用人が罪を犯したら、責は主が負わなければな。主が責を負えぬなら、その家門の長が責任を取るべきであろうな」
「罪などと、そんな!」
「ひ、人違えをしてしまったのです!」
「お前たちの主が何を命じ、お前たちが何を考えて事を起こしたか、そんなことは最早どうでもいい」
この者共は魔王の唯一を軽んじた。
これは魔国において、取り返しのつかぬ大罪である。
政務部門、土木建築部、井戸課。
魔国では先々代の治世より上下水道が一般国民の生活にまで浸透しており、その存在意義は非常に薄れていたが、代々井戸課の課長を引き継いでいる家門があった。
可もなく不可もなく、特に問題も起こすこともなく今の長に代替わりしてしばらくたつ。
職場においても、プライベートにおいても全く人畜無害の者だった。ただ、一人娘に対し親バカが過ぎ、その一人娘は少し我儘が過ぎると部下たちに悩み半分笑い半分で良くこぼしていたという。
その井戸課課長が突然の交代となった。部下たちには急病の為と説明がなされた。
別にあっても無くても国の運営には支障のない課の、更に居なくても支障のない中間管理職である。部下たちは騒ぎもせず一つ頷くと、新しい課長から指示を貰うまでもなく、決まりきったルーティンワークに戻っていった。
当の井戸課前課長は、突然に上層部より解雇を言い渡された。
魔国において身分制度はとっくに形骸化しており、貴族への恩給制度は先代魔王が廃止した。前課長は子爵家当主ではあったが領地があるわけでもなく、王都の古い屋敷が資産の全てであった。
城の役職を解かれ、使用人は全員解雇した。せめて全員に次の職場への紹介状を持たせてやろうと思ったが、メイド数人はそれを固辞し実家に帰っていった。次の勤め先を探してやれず、主として不甲斐なさが募った。
城からの賃金も途絶え、屋敷の維持どころか、そのうち食べる物にも困るであろう。
これからどうすれば。
途方に暮れる男に屋敷を売らないかと話を持ち掛ける者があった。
屋敷を売れば先祖代々暮らした王都を離れることになる。
しかし一家には選択肢はなかった。屋敷も世襲の役も手放す。
それは貴族から一般国民になる事と同義であった。
未だ事態を理解できずに騒ぎ続ける妻と娘を連れて、男は都落ちしていった。
人を責め立てて喚き散らすばかりの家族に、男だって言い返してやりたかった。
俺が一体何をしたというのか。
男は何もしていない。もちろんその妻も。
自分たち一人娘の愚かな行いが、歴史ある子爵家に終焉をもたらしたなど、男も妻も、その娘も、最後まで知ることはなかった。
「ナツ、俺は反省している」
「どうしたの、ノエイデスさん」
何もかもが片付いて、仕事帰り「清川」で牛丼を食べ終わったところだ。
そもそもが俺の判断ミスだ。
魔王の最愛を、その身分を秘して一般国民の中で働かせるなど、護衛をつけるにしてもリスクが高すぎるだろう。
ナツに何かあれば、セヴェルカルムが何をするか分からない。想像したくもない。
ナツが危ないのではなく、ナツと接触する国民の安全が危ぶまれるのだ。
かと言って、ナツの身分を国民に明かすのは時期尚早だしな。まず本人が自分の立ち位置への自覚が全くない。
「お前、城内は製薬部以外立ち入り禁止」
「ええー!!」
ナツが抗議の声を上げる。
そんなに頬を膨らませて、ジト目で見てきてもダメだったらダメだ。
幹部が出入りする階層であれば、まだマシだ。
ナツと接触する人間をある程度選別できるからな。
俺自身、ずいぶんナツと気安く話せるようになったのだが、俺以外がナツをぞんざいに扱うのは我慢がならない。あの怒りの衝動は自分でも驚いた。
感情に任せて家門を一つ取り潰してしまった。子爵家屋敷を買い取ったのは、訳も分かっていない当主へのせめてもの餞別だ。まあ王都に舞い戻って来ないならば、片田舎で一家仲良く好きに生きればいい。
チラリとチヒロさんをみるとニッコリ微笑んでくれる。
「カイト君にお任せするわ」
「ええー!!」
今度は悲壮感にまみれた声をナツがあげる。
「私も考えが甘かったんだけどね、なっちゃん。今回はあちこちにご迷惑をおかけしちゃったのよ。しばらく大人しくしましょう」
どこまで知っているのか、チヒロさんがナツに言い聞かせてくれた。
「・・・うん、わかった」
不承不承の体で、でもナツは了解してくれた。
基本的にナツは物分かりが良いし、周囲にわがままは言わない。
しかし何故か俺に対しては、遠慮せずに自分の言いたいことを言ってくるようになった。
それは案外、うん、悪くない。
チヒロさんとまた目が合うと、何故か満面の笑みを浮かべている。
この人も天然のようでいて、計り知れない人だ。何だか考えを見透かされているんじゃないかと、気恥ずかしくなる。
「製薬部は薬草の匂いを嗅ぐ仕事しかないんだけど」
なんだその仕事は。ナツが何を言っているのか分からん。
「まあ、お前に任せたい仕事が他にもあるから」
「どんな仕事?」
「・・・・」
「どんな仕事?」
「・・・そのうちトーコから頼まれると思う」
俺も疲れてるな。何も考えつかないのでトーコに丸投げしておこう。
さて、一日の終わりにコナツを補充してくるか。
万全の体制を敷いて、王の掌中の玉を守り切れると思ったのだ。
災いは人好きのする顔をして、笑いながらやってきた。




