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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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異世界での就活 3

 その日以降、私は毎日のように箱庭に出向き、お爺ちゃん達と城内を散策してみた。

 私は頭脳労働より肉体労働の方が性に合っているというか、まあそれしかできない。

 そんな私が行きついた先が厨房の下ごしらえとリネン室のお手伝いだった。猫の手でも借りたいようで、特に素性も調べられず実地で覚えろでお仕事がスタートした。

 その日によって人手が足りない場所に出向いてはその日の指示でのお手伝い。

 これがやりがいがあってとても楽しい。

 お給料は日払いで、城内の売店でちーちゃんにお土産を買って帰れるのも嬉しい。

「ナツはジャガイモの皮を剥いておくれ。手をケガしないようにね。爺さん達はこのニンニクを全部みじん切り。頼んだよ」

「はい」

「ほっ」

「ほ」

 今日の下ごしらえリーダーさんから指示をもらう。お城で働く人達の食事を担っているので、野菜の下ごしらえだけで十数人の人たちが働いている。私は楽しいんだけど、双翼なる人たちをニンニク臭くしてしまってごめん。

 高位の人には影響力強いとブランさんが言ってたけど、逆を言えば一般国民の皆さんからは普通のお爺ちゃんと思われているっぽいこのお二人。そのお陰で一般国民が働くエリアに潜り込めているのだけどね。

 ちなみにトーコちゃんやノエイデスさん達、幹部の皆さんが働くエリアは城内でも高層階に位置する。幹部の皆さんは一般国民からすると雲の上の方々なのだそうだ。

 魔王陛下に至っては国民からしたら崇拝対象なんだって。魔国の皆さんは即位式の時に遠目にちらっと豆粒サイズの姿を見たきりで、当代魔王の存在は姿も含め謎に包まれているんだそう。魔王と一緒に暮らしてるなんて言ったもんなら、絶対に頭おかしいと思われるよね。黙っておきます。

 魔王陛下の事は恐れ多くて話題にできないそうなんだけど、幹部の皆さんの話は好きな芸能人の噂話をする感覚で皆さん楽しんで話している。ノエイデスさんが災害級の魔獣を軍隊を率いて討伐した話とか、幹部の皆さんそれぞれに鉄板の武勇伝があって聞いていて楽しい。

 お爺ちゃん達は私の護衛とブランさんは言っていたけど、鉄壁の守りを固めてくれている。小娘とお年寄り、と侮った良からぬ事を企んだ人達が何人かいたらしく、トランお爺ちゃんの魔法で吹っ飛ばされたり、ドッドお爺ちゃんの脅威の剛腕に吹っ飛ばされたりしていた。お世話になっています。

「トランお爺ちゃん、ドッドお爺ちゃん、付き合ってもらってごめんね?」

「なんの。野営食は何度も作ったからの。それにわし等も楽しいよ」

「わし等の三千年ものの妙技をご覧あれー」

 お爺ちゃん達の三千年は冗談ではなく多分ガチ。ナイフ捌きが超早い。

 お爺ちゃん達は下ごしらえチームの即戦力だった。私は地道にピーラーでジャガイモの皮を剥く。この確実に終わりに近づいていく作業、好きだわー。

 無心に皮むきをしているとお昼ご飯の時間になった。

 お昼ご飯は周囲の皆さんと一緒に移動して、食堂で食べる。

 城内の労働者用の食堂はランチが二種類選べるのだ。

 今日はがっつり生姜焼き定食かなー。

「きゃあっ!」

 叫び声に振り向くと私から少し離れた場所でメイド服の女の子が転んでいた。この食堂はどちらかというと私服の下働き労働者がメインの食堂なので、お仕着せのメイド服を着ている人はとても目立つ。

「ひどい!あの子がぶつかってきたわ!」

 そのメイドさんが少し離れた私を指さしている。

 私とメイドさん、3メートルは距離が離れている。私があの子にぶつかって瞬時に3メートル離れたと?私にそんな身体能力はもちろん無い。

「あんた、変な言いがかりはおやめ」

「本当よ!あの子からぶつかってきたんだから!」

 私が呆然とメイドさんを見ていると、周りのおじさんやおばさんが間に入ってきてくれる。

「本当なんだから!」

 とうとうメイドの女の子が泣き出した。

「はいはい、あっちで話を聞くから」

 気のいいおばさんが女の子の手を引きながら食堂から離れていく。

「よくわからんが、気にしなさんさ」

 顔見知りのおじさんの言葉に私も気を取り直す。

「私、生姜焼き定食と食後は大判焼き、クリームにする」

「ナツちゃんセンスいいー」

「わしも真似しちゃお」

 私とお爺ちゃん達はその後食堂でしっかり食べた。午後の仕事もしっかり頑張った。

 お城は大きいし、働く人だけでも相当な数だけど、更に秘書さんや従者さんやメイドさんを引き連れて仕事をしている人もいる。数千人の中には一人くらい変なメイドさんもいるかもしれない。

 しかし、その日から私に入れ替わり立ち替わり特攻をしかけるメイドさんが後を絶たない事態となった。まあトランお爺ちゃん鉄壁の物理結界により、私に全メイドさんが3メートル以上は近づけないんだけど。

 これは、過保護が過ぎる魔王様へ、事が大きくなる前に報連相案件ですね。


 その日の夜、私はセイに相談した。

「と言う訳で、毎日メイドさんたちに特攻チャレンジをされているんだけど、特に困ってはいません」

「何それ」

 私が聞きたいが。そして案の定セイの眉間の皺がぎゅっと寄る。

「あの、お爺ちゃん達と一緒なら絶対大丈夫だし、周りの人たちも助けてくれるし、お仕事続けたいんだけど・・・」

「・・・カイトの部隊から奈津に護衛をつける」

「それは、出来れば、やめてほしいかなー」

 庶民ゾーンの労働者がエリート部隊の護衛つけられてるっておかしいから。

 私の隣にはちーちゃんが黙って座っている。前回は私の就活を後押ししてくれたちーちゃんだけど、今回は黙ってこの場を見守るスタンスらしい。

 おずおずとセイを見上げると、セイが眉間の皺を解いてフッと笑う。

「困った小夏と同じ顔になってる」

 フフフと笑いながらセイが手を伸ばしてくる。私の頭を撫でる大きな手はいつも優しい。

「奈津、ほんとは神域で安全に過ごしてほしいんだけどね。奈津が心から楽しく暮らせないのは、俺の本意じゃない」

「うん、ありがとう」

「一週間だけ仕事休んでくれる?その間に、色々片付けるから」

「うん、それ位なら。家で大人しくしてる」

 セイがホッと顔を緩める。

 これまでの所、魔国で出会う人達のほとんどがいい人ばかりで。色んな人と交流するのが楽しくて仕方がない。

 でも私の楽しみはセイの心配りやお爺ちゃん達の協力の上に成り立っているんだよね。

「迷惑かけてごめん」

「これ位、なんでもないよ」

 いつの間にか隣に来たセイにぬいぐるみよろしく膝に乗せられる私。私の頭に顔をうずめて動かなくなるセイ。なんか吸われてる。吸われてるなー。

 でも気にしちゃいけない。魔王陛下にこんなにご心労とご心配をおかけして、私にできることは心を無にしてじっとしているだけだ。

「奈津、俺、頑張るからね」

「う、うん」

 今更だけど、片付けるって何を?どのように?

 魔王が頑張るって、これから何が巻き起こるというのか。

「なっちゃん、良かったね!」

 ちーちゃんが、問題解決!とばかりに晴れ晴れと笑う。何一つ問題解決してないけども。

 まあ、魔国の事はお任せするしかないし。

 私もちーちゃんに倣ってスパッと気持ちを切り替えよう。

 それから一週間はクルム君と小夏と日がな遊び倒し、お爺ちゃん達がど〇でもドアから遊びに来てくれたり、お店に来る幹部さん達と交流を深めながら楽しく大人しくしていたのだった。


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