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Vanitas vanitatum  作者: イヲ
第六章
23/56

睡蓮・5

「アヤナシ」


琳が、呟く。


「はい。アヤナシ共が襲ったようです」

「・・・」

「それと雪輪と雪華が起動出来るようですね。五室もとうとう、合成人間を…」

「口が過ぎる。あれは、合成人間に似ても似つかない」


一蹴すると、部下の男は冷や汗を垂らしながら首も垂れた。

『雪輪』と『雪華』について事細かに書かれている点字の書類を冷めた目で見下ろす。


学校での仕事が終わり、与えられた一室で琳はただ、腕を組んでその書類の表紙ばかりを見ていた。


真が、アヤナシに襲われた。

アヤナシは、この国の裏の部分をよく知る団体だ。

高峯は無論、琳の存在はアヤナシに筒抜けているが、真だけはその存在を隠していた。

意図的に。

真の存在を知ったアヤナシは、「何者か」に依頼されて狙ったのだろう。

アヤナシは、依頼されなければ行動を起こさない。

それに、危険を伴う場合では「それなりの」金を積まれなければ、動かないのだ。

だからこその、暗殺部隊だ。


「・・・」


だが、琳の敵はアヤナシではない。


己の天敵は、父、高峯なのだから。








サイレンが鳴る。

赤く点滅するランプが葵重工内すべてを染め上げた。


「!!」


籬とエ霞が顔を上げる。


『警告。警告。葵重工が何者かに攻撃されている。警告。警告。速やかに避難せよ。繰り返す。速やかに避難せよ』


緊張が走る二人の顔を見上げて、真もわずかに眉を顰めた。

無線で百合子につなぎ、指示を仰ぐエ霞に背を向けて、籬は真と視線を合わす。


「主は、自分と行動しろ。決して、傍から離れるな。いいな」

「エ霞は?」

「外敵と戦う。今現在戦えるのは、自分を抜かしてエ霞だけだ」


サイレンが鳴り響き、寝床から起きた研究員たちはあわただしく地下に潜ってゆく。


「一人じゃ危ないよ!」

「大丈夫だって。俺は結構、強いから」


思考する。

エ霞が強いことは知っている。

それでも。


「…籬、エ霞。おれも行く」

「は!?おい、無茶言うなって、おまえ…!」

「大丈夫。自分の身は自分で守るから」


自身が着ていたぶかぶかのニットを脱ぎ、シャツに着替える。


「推奨しない。危険だ」

「大丈夫」


籬の手が、真の腕を掴む。痛まないはずなどないその力。

痛みに顔をゆがませることなく、淡々と呟く。


「たぶん、相手はおれがここにいることを知っている」

「…そりゃ、何でだ」

「だって、おかしい。葵重工ほどの会社が、易々と攻撃を受けるなんて」

「ま、そうだな」

「狙いは、おれだ」


完璧に、言い放つ。

真の目には、恐れも、怒りも、なにもない。

ただただ、恐ろしいほどに冷静であった。

とても、15歳がする目ではない。

ぞっとするほど、血の通わない目。


「・・・」


エ霞は、わずかに恐怖を覚えた。何故、なにをすればこんな目を、人間が出来るのだろう。

おそらく、今日は真は死なない。

籬やエ霞がいるからではない。

単純に、真が「強い」からだ。


「籬。仕方ない。連れて行こう」

「…推奨しない、が。了解した。主は自分が守る」

「ありがとう。足手まといにならないようにするよ」


微笑んだ真のその心中は静かだった。凪いでいた。

まるで、風のない海のように。





『敵は何とする』

『100パーセントの確率で、アヤナシだろうな』

『…アヤナシと主を戦わせるのか?』


走りながら、エ霞と無線で会話をするが、どうにも静かだ。

音が聞こえない。

熱源もない。


『ああ。仕方ない。どうせ俺一人じゃたかが知れていた。あいつが来るまで、59パーセントの確率で破壊されてただろうな』

『…救急信号を出したのか?』

『出した。けど、ま、大丈夫だろ。おまえもいるし、俺もいる。真は死にはさせない』


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