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Vanitas vanitatum  作者: イヲ
第六章
21/56

睡蓮・3(挿絵有)

真を他の研究員と無線を開いたままの籬に預け、エ霞と百合子は狭い部屋に篭った。


「ほんとうなの?それは」

「ああ。あいつらが動いた。この弾頭体。間違いない。エ霞シリーズ(おれたち)を壊した張本人だ。こんなに早くお出ましとはね」


百合子はこめかみに手をあて、きつく眉を顰めた。エ霞から取った写真が数枚机の上に散らばっている。それに手をとって、ため息を吐き出した。


「まったく、こっちは相手をしている暇がないってのに…」

「アヤナシ共は、真を狙っている。それも間違いはないだろうな」


アヤナシとは暗殺部隊の総称で、人間は無論、遺物さえも使い、「裏」で人間の命を奪い続けている。

葵重工とアヤナシは無関係だが、護衛する人間がアヤナシに狙われる場合は無論敵対するのだが、以前敵対した所為でエ霞を破壊されていた。

百合子はそれを苦々しく覚えている。

無残に破壊されたエ霞の身体を、百合子は泣きながら見下ろしていた。

ただ、ほんの救いになったのはメモリーだけはバックアップしていた、ということだけだろうか。


「百合子。俺を、真の護衛につかせちゃくれねぇか」

「!」

「リベンジ…とはいかねぇが、どうしても気になんだよ」

「何を?」

「真だ。あいつの周りにゃ、色んな陰謀が積もりに積もっている。今日もアヤナシの下っ端とやりあった。籬一人じゃ、俺も心配だからな」

「…心配、ね」


百合子はちいさく笑い、そのあとに内線を繋ぎ、一言二言相手に伝えると、すぐに切った。


「あいつに連絡を取ったわ。あいつも忙しいみたいでね、了解、とだけの伝言よ」

「…あいつって、あんたのコレかい?」


親指を立てると、百合子はどこで覚えたの、と呆れて何度目かのため息を吐き出す。

だが、間違ってはいない。

百合子は、エ霞の担当である近江と親密な関係にあった。

プライベートでも、よく一緒に出かけているらしい。


「あいつ、折角もぎ取った休日、一日寝過ごしたのよ…!」


ぎりぎりと机の上を引っかく百合子の顔は、鬼より怖い。

エ霞はそそくさとその場を後にして、籬と真がいる部屋に向かうことにした。




『籬。聞こえるか』

『ああ。どうだった?』

『了解は取った。ったく、遺物についでアヤナシと来たか…』

『何故、それほどまでに主を…』

『ああ、…そりゃ、色々、な』

『色々とは何だ』


詰め寄る籬に、一人廊下を歩くエ霞は大きくため息を吐き出す。

言っていいものか。

エ霞とて、薄皮一枚破っただけではない。

五室に潜ったとき、もう少しのところで人工脳を焼ききられるところだった。

その情報をもったいぶっているわけではないが。


『…おまえだけ知らないってのも、おかしな話か。まあいい。真も知っている事だ』

『主も知っている?では何故、言わない』


そりゃ言いたくないさ、と囁く。


『…いいか。真は人間だ。それは間違いない。おまえも確認しただろ?』

『ああ』

『あいつは普通の人間だ。何もかも知っているし、何もかも知らない。真っ白な画用紙みたいなもんだ。遺物ってのも、知らなかったんだろ?』


無言は、肯定と取る。


『真はな、使い捨ての人間なんだよ』

『!』


籬の息を呑む音が聞こえた。

使い捨て。

人間を使い捨てる者が人間だとでも言うのか。


『イザヤ。あれが完成するとき、真は殺されるだろう。100パーセント、必ずな』

『…では、何故自分を護衛としてつけた?』

『そりゃ、完成させるまでに死んじまったら台無しだからさ。名実共に、"未来の礎"だな』


籬は、それ以上何も話さなかった。

エ霞も、何も話そうとはしない。


地下3階。

そこは、研究員達の寝床となっている。

その空き部屋の一室に、籬と真はいた。

無言のまま。


「あら、どうしたの」


エ霞は努めて明るく問うが、籬は床を見据えたまま、動かない。


「エ霞…。籬が、なんか動かないんだけど…」

「…思考中ってか。ま、放っておけや。そのうち再起動すんだろ」

「…?う、うん」


挿絵(By みてみん)


たぶん、処理できていないのだろう。

いずれ殺される命を守るべきか否か。


しかし――


エ霞「自身」は、真は死ぬべきでないと判断している。

これはエ霞の「意思」だ。

合成人間という枠を超えた、意思である。


エ霞は、ほぼ人間と同じ思考回路を持っていた。

完成品なのだ。

一代前の記憶(メモリ)を持って、それを苦悩しなかったといえば嘘になる。

そう、苦悩するのだ。


「…籬」


ふいに、冷えた、底冷えのする声が真の耳朶を穿つ。

ぞわり、と真の背筋が凍った。


視線だけを合わせ、エ霞は囁く。


「降りてもいいんだぜ」

「・・・」

「おまえにとって、真の命は何だ?」


命とは、何だ。

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