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Vanitas vanitatum  作者: イヲ
第六章
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睡蓮・2

地下にある五室。

無論窓などあるわけもない。暗く、冷たい黒が横たわっているだけだ。

ただ、申し訳程度に植木鉢がわずかにある。


室長室の扉をノックしたのは金居アヤナだった。

高峯の鋭い目がアヤナを見据える。


「どうだった」

「は。どうやら、ご子息が対象二体に接触したようです」


敬礼をし、アヤナはぞっとするほど冷たい目で報告をした。

対象とは無論、真と籬のことである。

高峰は冷めた視線を受け止め、口もとをゆるく上げた。


「して」

「これをお聞きください」


取り出したのはボイスレコーダー。

研究所のミーティングルームで琳と籬の会話を全て録音していた。

それを聞き遂げ、高峰は失笑するように口はしをゆがめる。


「なるほど。葵重工を手なずける気か。まあ、いい。所詮単独の行動だ。どうとでもなる。こちら側の雪輪と雪華はどうなっている」

「順調です。あと二日もすれば本格的に起動できるでしょう」

「そうか。遺物共も二体が起動すれば一掃できるかもしれない。充分に注視しろ」

「は」


アヤナは再び敬礼をし、室長室を出る。


外はひどく冷え込んでいた。

しかし、五室の人間はそれを知る術は、ない。





籬、エ霞、真は葵重工の天辺、屋上にいた。

屋上は封鎖されているが、エ霞が蹴破ったのだ。


「寒い…」


それはそうだろう。

すでに夕刻。風は冷え、容赦なく真の体を舐め回している。


「寒い?ああ、そうか。そりゃ考えてなかった。ほれ」


エ霞は自分が羽織っていた猩々緋の羽織を真に羽織らせた。エ霞の身長は170センチを越えているが、真は150センチほどしかない。

どうみてもぶかぶかだ。

それでもないよりはましと、羽織紐を結ぶ。


「どうだ。広いだろう?」


東京は。


「…うん」


眼下に広がる光景。闇がそろそろ本格的に降りようとしている時分、ちらちらとわずかな明かりがともり始めていた。

初めて見た。

こんなに広いんだということを。

エ霞は広がる人工物を見下ろして、静かに笑った。


「きれいだね。ね、籬」

「…そう、なのか?」

「おいおい、籬!ロマンも分からないようじゃ駄目だぜ!」


大げさに、まるで嘆くように眉間に手を当てる。


「ロマンなど、自分に関係などない」

「これだから堅物は!そんなんじゃ――」


ちらっ、と隣のビルの屋上から何かが光った。

籬は真の腕を掴み、自分の懐に隠し、エ霞は腰に差していた短刀で「それ」を弾く。


ちいさな金属が転がる軽い音をたてて、それは落ちた。


ごくごく小型の弾頭体。


それが転がって、籬のブーツに触れた。


「…どういうことだ。エ霞」

「そりゃ俺が聞きたいね。誰かが、俺らがここに来ることを知っていたんだ」


ちら、とエ霞が隠されている真を見下ろす。

朱塗りの短刀を構えながら、隣のビルにいる筈の「それ」を視認しようと視覚調整を行った。


「…ん…?」


あれは。

あれは遺物ではない。

人間だ。

ショットガンの弾丸は、明らかに真を狙っていた。

狙っていた、というのは既にその人影は退避したのか、姿かたちがかったのだ。


「・・・」


エ霞はビルに背を向けて、隠されている真と視線を合わせた。

手招きをして、耳打ちをする。

無論、籬には聞こえているが。


「いいか。今日はこのまま観世水に戻らないで、葵重工に泊まっていけ」

「う、うん。分かった」

「よし、いい子だ。おまえの家には回線入れとくから心配するな」


『籬。どうやら、狐共のお出ましのようだ』


無線で籬に伝えると、驚いたように顔をこわばらせた。

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