第6話 再会
私物を回収して会社に振り返る。長い戦いだった。
「やっと解放された……長いようで短かった」
5年の間のことが走馬灯のように駆け巡る。
……あれ?
「神崎に仕事を押し付けられた日々しか出てこない」
感傷に浸ってみたけれど、いい思い出は少ない。星野さんからお菓子をもらったとかはあるけどそれだけ。
神崎以外で思い出せるのは星野さんだけ。
「そうか……。この会社は私になにもくれなかったんだ」
こんな会社だったけど、自分の居場所だと思っていた。終わってみれば何でもないところだったんだ。後ろ髪を引かれる思いをしてしまうと思ったけど、スッキリ爽快な気分。
「サカキ! 帰ってきても居場所はねえからな~!」
「神崎……。お生憎様。私は帰ってきませんよ。自分の仕事は自分でやりなさいよね~」
窓が開くと神崎が叫んでくる。私はそれに答えてあっかんべ~と返す。顔を赤くさせる神崎はタコみたいになって怒ってる。いい気味ね。
「さて、ついでにカードショップに行きましょ。買いそびれたパックを買わないと」
海手線を乗り継いでカードショップを回る。
……流石はDモンカード。どこにもない。
「はぁ~……」
トボトボと帰路に立つ。お昼をバツマル正麺で済ませてカードショップを回ったのに何も成果なし。
私のデッキは強くならなかった。
「リミンデッキ。強くなると思ったんだけどな~」
リミンを主軸としたデッキを組んでいる私。ユニークモンスターを強くするデッキなんだけど、今回の新しいパックはそのユニークを強化する。
買いたかったんだけど、ないんじゃ仕方ない。ネットで買うのはオタクとして断固拒否だし。はぁ~……。
「あれ? サカキさん? もしかしてサカキさんですか?」
「え? ナンパ!? ……あ、なんだエザキ君か~」
トボトボと歩いていると一緒にゲートの向こうに落とされたエザキ君が声をかけてきた。
ナンパだと思ってドキドキしてしまったけど、私なんて誰もナンパしないよね。
「怪我はもういいの?」
「あ、はい。凄いですよね。あんな怪我を一瞬で治しちゃうんだから」
太ももを貫いていた槍を思い出す。あんな怪我を治す司祭、凄かったな~。確か名前はカズキさんだっけ。
「カズキさん凄かったね~」
「はい。冒険者には憧れていましたから尚更……。僕もなれないかなって思ったんだけど」
エザキ君も冒険者になってくれてたら心強かったんだけどね。
冒険者になれる確率が低すぎるんだよね。
「冒険者じゃなくても凄かったよ。正直、エザキ君達が居なくて私一人だったら生きていられなかったよ」
「はは、ありがとうございますサカキさん」
満面の笑顔で嬉しそうにするエザキ君。まだ学生さんっぽいエザキ君の笑顔は私の胸を締め付ける。
若い子の笑顔は心臓に悪いわ~。オタクには刺激が強すぎる。
「あの、時間があるなら一緒にお食事でもどうですか? もっと話がしたいと思ったんですけど」
「ええ!? わ、私は大丈夫だけど……」
「じゃあ、そこのレストランに」
まさかのエザキ君からのお誘い。断れるわけもなく、ドキドキしながら彼について行く。
「やっぱり! 僕も新しいパックを捜し歩いてたんです。どこにもなくて」
「そうなのよ。どこにもないの」
軽い食事をしながらエザキ君とお喋り。こんなに息の合う男の人は初めて。ゲートの向こうでもそうだった。エザキ君はエスコートをするのが上手いんだ。
情報収集と的確な指摘でサポートしてくれる。こんな子と冒険できたら安心できるな~。
「サカキさんはこれから冒険者になるんですよね?」
「あ、うん」
「じゃあ、いつかリミンに会えますね」
「そうそう! そうなのよ~。楽しみでしょうがなくて~」
エザキ君は少し寂しそうに話す。彼の憧れの場所に私は行く。
「僕も目指してみようと思っているんです」
「目指す?」
「はい。冒険者のサポーターの仕事です」
サポーター? えっと、確か冒険者を助ける役のことだっけ? 荷物を持ったり、道案内をしたりする。
「サカキさんみたいに荷物をまとめるスキルを持っていない人は多いので。どうしても荷物がかさばります。それを補助するのがサポーターの主な仕事で」
エザキ君は恥ずかしそうに説明してくれる。サポーター……、そうか、彼と一緒にゲートの先に行けるんだ。
「エザキ君! それいいよ!」
「え? でも、親には反対されてて」
「ええ!? なんで?」
「あの、サポーターの仕事内容はまるで奴隷って言われてて。冒険者はどうしても上から目線になってしまっているようで」
なるほど、親としてはそんな労働環境は許せないわけね。エザキ君がそんな扱いされていたら私も怒っちゃうわ。
「それなら私のサポーターになってよ。私は上から話さないし」
「ええ……。でも、まだ僕はサポーターの資格を持っていませんし」
「資格が必要なら取って。一緒にゲートの向こうに行こうよ」
エザキ君に手を伸ばす。彼は不安そうにその手を見つめてきた。
「ぼ、僕でいいんですか?」
「Dモンの話ができるし最高のサポーターじゃない?」
「そんなことで決めないでくださいよ~。でも、一生懸命頑張ります」
エザキ君は少し恥ずかしそうに手を取ってくれる。彼と一緒にまたゲートの向こうに行けるんだ。
「じゃあここの会計は私が持つよ。サポーターに無理はさせたくないから。学生でしょ?」
「え? そんなのダメですよ。割り勘に」
「いいのいいの。会社員だった私に任せなさい。これからは冒険者だしね!」
「自分で誘っておいてすみません。出世払いでお願いします」
顔を赤くさせるエザキ君。やっぱり学生さんだ。まだお金もそんなに持たされていないでしょうに、見栄を張ろうとしちゃって。
「資格を取ります。話はそれからで。別の人をサポーターにするならそうしてください。僕を待たなくていいです!」
「はいはい。頑張ってね」
「はい! それでは!」
エザキ君はそう言って帰っていく。彼の背中を見ていると何度も振り返って手を振ってくる。まったく、若いっていいわね~。




