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第10話 やりがい

 凄い、凄すぎる。

 私は今、猛烈に感動してる。目の前の札束に。

 

「300万円……。何に使おう?」


 現金か銀行振り込みが選べた日当。私は即答で現金と答えた。

 そして、コソコソと帰って来たマンションの自宅。いつも寂しいコンビニ弁当を広げていた小さな机に三束のお金。

 一本二本三本と数えて遊んでしまう。


「全部本物だよね。ん~、いい匂い」


 私はこんなにお金が好きだったんだな~。なんて感慨深くなる。


「リミンのグッズを手あたり次第買おうかな~。今度Dモンショップで買い物しないと」


 これだけの現金があればいくらでも買えるぞ~。

 

「これから毎日こうなるんだよね。明日なんてもっと大金が。むふ、ムフフフ。笑いが止まらないわ~」


 一本の札束を顔に当てて仰向けに倒れる。いつもの天井を札束ごしに見るといい匂いがする。

 優越感を感じながら寝っ転がっているとスマホが鳴る。


「星野(ホシノ) 美香(ミカ)。星野さんか。どうしたんだろう? もしも~し。星野さんどうしたの?」


「あ、サカキさん。でてくれた。よかった~」


 電話に出るとホシノさんが安心した様子で話す。


「何かあったんですか?」


「えっとね。神崎課長が退職したのよ。それで『俺も冒険者になる』っていってたの。それで知らせておこうと思って」


「ええ!? 神崎が?」


 なんて馬鹿な人なの……。そんなに私に煽られたのが悔しかったのかな?


「サカキさんの来た日の次の日。つまり今日なんだけど、ブツブツ言ってて。帰る時に退職届を出したみたいなの。」


「決断が速いな~」


 冒険者になると言ってなれるようなものじゃないのに。


「年間100人くらい冒険者って失踪してるわよね~」


「え? そんなにいるんですか?」


「そうなのよ。モンスターと戦うわけでしょ。倒されたら骨まで残らずってやつみたいで……」


 ホシノさんも色々知ってるみたい。知らないのは私だけか~。ちょっと無知すぎたな~。


「サカキさんも気を付けてね。話はそれだけだから」


「あ、はい。ありがとうございます」


 ホシノさんにお礼を言ってスマホを切る。神崎が冒険者にね~。成れるかな~、エザキ君みたいに戦えないとダメだからな~。


「ま! 私には関係なし! とにかく、大金持ち~」


 目の前のお金を数えて宅配ピザを頼む。配達の人に1枚の万札を手渡しておつりはなし。一人で1枚食べちゃうんだから~。


「さいっこう」


 モグモグ、シェイクも飲んでゴキュゴユ。ほんと最高の気分。


「あ、そうだ。ミーチューブもみようっと。最近余裕がなかったからみてなかったな~。あ、プレミア会員になっちゃお~」


 すべての生活環境をあげてく。お金があるとなんでもできるような気になっちゃうな~。

 そうだ! 引っ越さないとダメね。都庁に近いところにひっこそっと。


「Dモンの公式だ~。え~! 最高なんだけど~。リミンの抱き枕~」


 公式チャンネルで新しいリミンの抱き枕。既に1つは持ってるから2つ目だ。更にアクリルスタンドにキーホルダー。


「キーホルダーとかは買っていなかったけど……この際だから買ってしまおう!」


 買えるものはすべて買う。大人買いは最高。これもすべてDモン公式の養分になるのだ。


「はぁ~、お腹いっぱい胸いっぱい……。余は満足じゃ~」


 すべてを平らげて寝そべる。勝手に放送が続くミーチューブの音だけが部屋に流れる。


『都庁で買えますよ』


「そうそう、都庁で働いてます」


『嘘じゃないですよ。矢をはじくくらいの防御力になってるんです。ゴブリンアーチャーですけどね』


「……ん?」


 ミーチューブの声がなんだか聞いたことのある声。画面を見るとライブ中の配信者が移る。


「ウエダカズキの【ウエウエチャンネル】?」


 ウエダさんだ。そうか、冒険者は配信もやってるんだっけ。やってない人もいるけど、あんまり稼げない人がやってるんだよね。


『オークも何とか倒せました。流石に攻撃を受けた時は死んだと思いましたけど、回復スキルを自分に使って倒しきりました。これも装備のおかげです。ダメージを最小限に抑えられた』


『吉報、殴り司祭の誕生』


 ウエダさんは嬉しそうに傷だらけの顔で報告してる。画面に映る装備は私の作った装備。それのおかげで倒せたと言われると凄く嬉しかった。

 

「私の装備のおかげ……か。初めていわれたかも。私のおかげって」


 会社に勤めていたけど、そんなことを言われたことなんてなかった。

 『お前のおかげだ』『あなたのおかげよ』。そんな簡単な言葉だけど、言われると嬉しいものだよね。

 褒められたいわけじゃない。認められたいんだ。そこに居ていいって。


「私、冒険者になってよかった。のかも」


 なったのは今日が初めて。そのくせになにこの充実感。こんなに充実感のある仕事他にある? あるわけがない。


「グビグビグビ。プハ~! よし~やってやるぞ~。やる気10倍、いや、100倍だ~」


 これからも冒険者の装備を作って作って作りまくってやる~。お金もそうだけど、ウエダさんみたいに喜んでくれる人の為にやってやる~。


「ウエウエチャンネル登録っと。ついでにスパチャっと。1万円。コメントはどうしようかな~。『初コメ失礼します。オーク討伐おめでとうございます』っと」


 ウエダさんに感謝のお布施。ソロでのオーク狩りが初めてだったらしいのでお祝いしておいた。

 まさかソロ勢だったとは知らなかったな~。


『スパチャありがとうございます。赤スパなんて初めてです。えっと、【サカッキ】様? ……え? これ?』


「……あ」


 ウエダさんが戸惑ってる。そういえば、名前がほとんどそのままだった。まあ、喜んでくれてるみたいなのでいいか。

 この後、スマホをそっ閉じして酔いに任せて眠りについた。

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