いつのまにやら居た男
八、
この山家は、彫り物をする職人の男だけをよぶのかとおもっていたのに、その男は坊主のようだった。
『 ―― なぜというに、なにやら念仏のようなものがきこえてきたのが先なのでな 』
「ああ、それで、お坊さまがきたようだと?」
『 だがあれは、・・・この世の坊主ではなかろうよ。なにしろ龍を彫っていた男がその念仏を耳にして、いままで一度もとめなかった彫りをとめた 』
手をとめた《木屑の男》は、念仏が聞こえてくるほうへむきなおると、ふうわり、と、いちど木のくずのかたまりにくずれ、おおきな口だけの化け物へとかたちを変えた。
『 念仏が近づいてくると、家がガタリガタリとゆれはじめおった。 彫りものをする職人をよびよせる家自体が、そういうバケモノになっておったようでな 』
近づく者をこばむように家が揺れ、《化け物のかたちになった木屑》が戸口をふさぐように前にでたとき、板の間でそれをみていた猫の横に、いつのまにか男が座っていた。気配もないような男が、「あれはコッパか?」ときいてきた。
『 おれがそうだとこたえるとな、くえ、とゆうたわ 』
「『くえ』?」
『 おうよ。このおれに、あの木っ端クズの化け物をな 』
念仏はまだ家の戸口あたりからきこえている。この男はどこからはいってここにいる?
そう思ったが、男の気配が人のものではないものだとは感じていた。
「 よいか、 」と男は彫りかけの龍をさした。
「 あれが彫りあがれば、龍として動き出す。ただし、神のつかいにはならぬぞ。念がこりかたまった魂がこめられた龍は、オロチなどの、人のはなしが通じぬ災いにしかなれぬ。そうなればまず、暴れまわって人をとって喰う。そうなるまえに、おまえが喰っちまえ 」
汚く伸びた髪をひとつにゆわき、汚い着物をきてまばらなひげをかく男は、おもしろそうにわらいかけてきた。
『 おれは男のゆうことなど聞く気もなかったが、戸口をむいていた木屑の化け物がこっちをむいて、口の中にあった目玉がぎょろりとおれを見た。からだ中の毛がさかだったわ。 とたんにとなりの男がまた 喰っちまえ とおれにゆうた 』




