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裏の《百物語》 ― 木彫りの猫のはなし ー  作者: ぽすしち


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16/19

丸太の龍は何(なん)となる?




  「・・・それはまた・・・」

    ダイキチは言葉が継げない。


 龍は空を駆け雲をよぶ水の神様だ。前に《百物語会》でも、立派なお社ののきにほられた龍が逃げ出し村人を困らせたたという《不思議ばなし》はきいた。お社に彫られた龍や、仏像といっしょに彫られた邪鬼が逃げだすというはなしはむかしからいくつか聞く。

 そしてそういうモノは、大抵、もうにげださないように釘でうちつけられる。



 だが、丸太で彫った龍がまるまる一匹動くとなったら?



 その龍は神様に属するのだろうか?


 だがなにも、どこかへ納めるために彫っているわけではない。



 職人の念でできあがった《木屑の男》は、ただ、彫りたいという念にうごかされて 彫っているだけ なのだ。




『 おうよ。おれが虎になるのとおなじほどに、おそろしいはなしであろう? 』

 キジトラの猫はダイキチの顔をのぞきこむように首をのばした。



「これはまた、・・・まったくそのとおりでございますな」

 そうだった。目のまえのこれも、ただの猫にみえるが、あいては《木彫りの猫》が《化けた》ものだ。




 その《化け猫》を彫ったという男の姿になった《木屑の男》が彫る龍は、いったいなんとなる?



 ともかく、動かないはずはなかろう。


   

 だが、動くからと言って、お社の彫り物から抜け出すモノのように、釘で打ち付けるか?

 龍は水をつかさどる神だとも、ほかの神様のつかいであらわれるともいう。それを、まだ動く前から釘で打ち付けようなどと?いや、そのまえに、そんな龍が彫られているなどということは、この目の前の猫しかしらないのだ。






『 なによりも、おれのように《魂》をもったとしても、世でいう龍とはちがい、神はかかわってはおらぬぞ。 ただのうごく龍だ。できあがったとたんに動き出したら、ただ好き勝手にするだけよ 』




「う~む・・・それは、やはり、 ・・・龍としての力はもち、雨や嵐をよぶのでございましょうか?」




『 おれも、そうおもうてな、すこしばかり恐ろしくなってきた。なにしろ丸太は家にはいりきらぬほどのおおきさだ。それにな、コッパの男はもとの男のように、気に食わぬなどといって、彫りなおすような気配がない。 日に日に丸太は、龍となってゆく 』



 丸太から削って下にちった木屑はまた、それを彫る男のからだの一部となってとりこまれ、龍となる丸太の木屑は、すこしもつもらなかった。



『 あれは、どこぞのご神木でも切り倒してきたのかもしれぬな。彫るごとに男の気が高まり、龍へもそれがうつってゆく。かたちをなしたヒゲがたち、うろこの一枚いちまいがあやしくひかり、そろそろしあがろうという時が来た。  ―― そこにな、また、 おとこが迷い込んできたのよ 』












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