木屑の職人
『 ―― 火をおこして家の中にある彫りかけをひとつひとつみているのでな、ためしに男の前に出てやった』
はじめは本物の鼠だとおもった男も、なにかに気付いて、その物陰からでた鼠をつかみあげた。 ―― すると、鼠は木でつくられたネズミとなった。
『 おれもまだそのときは、できあがったときに宿った魂ではしゃべることもならんかった。男につかまって、木彫りにもどり、とっくりとながめられたあとにはなされた。 ―― そのあと、男はそこで木を彫りはじめよった 』
また本物の鼠となって、ちろちろと男のそばへ出て、その彫り師の男が、来る日も来る日も、いくつもいくつも、木を彫るのをながめ、そうして何十年か経った頃、ようやく最後の仕上げまでした 彫り物 がひとつできあがった。
『 それが、このキジトラの猫じゃ 』
「・・・もしや・・・」
『 おおよ。彫りあがった猫が動き出し、鼠だったおれをとって喰った。 ―― そうしておれは、こんどは《木彫りの猫》となったわ。 ―― おれは、彫った職人の命と気を喰ってできあがっているようでな。そこでまた本物の猫に近づき、動くことも、人のようにしゃべることもできるようになった。だが、職人の命と気を喰っていたのはおれだけではなくてなあ・・・。 コッパどもよ 』
「はあ?『コッパども』とは・・・、もしや、木屑でございますか?」
ダイキチはおどろいて膝をのりだす。
猫は返事のかわりにくちのよこをなめた。
『 あたりに、山のように散っていた木屑がな、なにやらざわざわとうごめいたかと思うと、あれよあれよという間にあつまって、《職人の男》になりおった 』
木屑がうごき、それがおのれそっくりになるのを驚いてみていた職人へ、木屑でできた男がおおいかぶさって、ぐしゃりとつぶれたようにまた木屑になったとおもったら、つぎにはもう、そこには、おおいかぶさった方の《木屑の職人》しかいなかった。
『 おれが鼠の彫り物だったときに、職人の男はおれによオ語りかけてきたが、その木屑の男はまったくはなさずにな、―― 』
すぐにどこかへゆき、家からはみでるほどの丸太をどこからかかついでもどると、木屑でできた職人は、本物の職人のように、また、木をほりはじめた。
『 やはり本物の職人とはちがってな、おれなど目にはいらず、もちろん飯なども食わぬ。ただ、彫っているときの姿は、本物の職人の男のようだったが、・・・まとう気配は人などではない 』
丸太が削られるごとに姿をあらわしてゆくのは、
―― 龍だった。




