バケモノどうし
六、
キヘイジを玄関まで先生がおくるあいだ、ダイキチはその黒い包みとむかいあうことになったが、布の中の猫は動きもせずしゃべりもせず。
夜中にならないと話せないのか、それとも、ここでのようすをうかがっているのかは、ダイキチにはわからない。ただ、キヘイジに対しては、ひどく正直でまっとうな態度をとっている。
「 ―― では、夜中にフキミソで、酒でも飲みながらおはなししましょうか」
キヘイジがでてゆくときに、開けたままにしてもらった障子のむこうにある庭の池に、まだ蓮の芽も顔をださないのをながめていたとき、まだ灯したままだった燭台の火がぼっつ、と音をだし、ダイキチがむかいに目をもどしたときには、キヘイジがすわっていた座布団のうえに、どっしりとしたキジトラの猫が座っていた。
キヘイジがいったように、そのキジトラの猫は、《いいつらがまえ》をしていた。まえあしをピンとのばしてこちらをむき、その金色の眼をじっとダイキチにそそぎ、あくびをするようにおおきくくちをあけると、ナゴウ、とおかしなこえをだし、あけたままのくちから
『 よい 池だな 』
とこえをだし、庭をみた。
なるほど。《こもったようなとしいった男の声》だが、ダイキチよりよほど若そうだ。
猫がすわる座布団のまえには、中身が抜けた黒い布が結び目もそのままにある。
「 ―― おほめにあずかりまして、おそれいりましてございます。履物屋の隠居が道楽で買ったバケモノ屋敷だと、世間様ではわらわれておりますようで」
『 ただの妬みよ だが ―― バケモノ屋敷は言い当てておるな 』
猫はくちをあけたままで、ちいさな牙と舌までみえる。声はそのクチというよりも、身体すべてからでているようだった。
「 それは、 ―― わたくしのせいでございましょうか? 」
戻ってきた先生が、ダイキチにほほえみかけ部屋へはいると、また、ダイキチの後ろにひかえるよう隅にすわった。
だが、障子は開け放したままだった。
ということは、先生がそれほど『あぶない』とは思わなかったということか。
まあ、よく見なくとも、あいてはただの猫。これがいきなり虎に変わる事はどうやらなさそうだ。
『 おお そうともいえるがそれだけでもなかろう。 どれ、 バケモノどうしのよしみで、ここはひとつ、おれのはなしもきいてくれるか 』
「それは、ここで頂戴してもよいおはなしで?」
『 蝋燭もまだともっておろう。 ここでひとつ、―― おれもはなしをおさめようぞ 』
キジトラの猫があいていたくちをさらにあけ、舌をだしてくちのまわりをべろりとなめると、ダイキチをみてはなしだした。




