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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第一章

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世界は一瞬で崩れ落ちる

俺のステータス鑑定は散々な事になった。

大鐘が騒々しく鳴らされたのは、魔物襲来を告げるためだった。

魔物の森から距離のあるバルバドゥス領であるのに、空を飛べる竜もどきにはそんな距離など無意味だったらしい。


「ワイバーン、だと? ワイバーンは」


「伯爵。空がワイバーンだらけです!!今すぐおにげ、ぐあっ」


「デュッホルト!!」


俺達にワイバーンの襲来を伝えに来た騎士は、言葉が終るや爆風で飛ばされたみたいに俺達へと飛んできた。


「逃げるぞ!!」


父は腰にある剣を抜き、俺達を追い立てる。


けれど俺は動けない。


誰も動けなかった。


礼拝堂の天井も壁も、発泡スチロールみたいに粉々に壊れた、のだ。


同時に、翼をもったトカゲが礼拝堂内に飛び込んできた。

女神像は倒され、女神像の上に司祭の真っ赤な血がぶちまけられた。

司祭の上半身を噛み切ったワイバーンは俺達を見据えた。


竜もどきと呼ばれるとおりだ。

ワイバーンは恐竜のプテラノドンに似た体つきだが、プテラノドンよりも大きく頭部は歯がないどころかヴェロキラプトルみたいな獰猛そうなトカゲ顔だった。幼い時は恐竜好きだったが、目の前にして、自分が餌となる前提で、恐竜に会えたと喜べるわけは無い。大好きだった映画の登場人物の恐怖を思い出し、生々しい恐怖に脅えた俺の体は完全に動けなくなってしまった。


「ぎぃやあああああ」


後ろで響いた獣の声に、動けなかった俺の体は勝手に動いた。生き物の本能的な反射行動なのだろう。けれど振り向いたせいで俺は見たくもないものを見てしまった。騎士デュッホルトを吹き飛ばした個体が、俺の大事な家族に喰らいついたところだったのだ。


俺達を逃がそうと動いた父が、ワイバーンに噛みつかれて宙に浮いている。



だらりとした腕から剣が落ちる。



「逃げるのよ!!」


母はデューイを抱き上げ、呆然としているだけの俺に手を差し出す。

俺は俺を決して捨てはしない母へと手を伸ばしたが。


「おかあさま!!」


母とデューイは俺の目の前から消えた。

父を飲み込むどころかぐちゃぐちゃになった父を吐き出し、俺の母と兄を頭から喰らいつきやがったのだ!!


彼らは悲鳴をあげることも無く、けれど彼らの骨が砕ける音は聞こえた。


「おかあさま!!デューイ!!」


「こっちにこい!!」


しっかりとしたとおる声は、包帯塗れの片腕も片足も無い男のものだった。

けれどそれがヒューベルトの起爆材になったらしい。

ヒューベルトは俺を抱きかかえると、包帯男の元へと走った。

司祭を喰ったばかりの奴が俺達を喰らおうと迫る。


「伏せろ!!」


兄は伏せるどころか、俺を抱きかかえたまま転がった。


ドオン。

「ぐぎゃ」


俺達の後ろで炎が爆発した。

俺達に襲い掛かってきたワイバーンは顔を焼かれて後退る。


「急げ!!」


兄は立ち上がろうと体を持ち上げ。


「待て!!」

ドオン!!


再び俺達の真後ろで爆発が起きた。

爆風で兄は俺を抱いたまま転がる。

だから兄は血塗れだ。

俺を抱いたままだから、兄は自分を庇えないのだ。

それなのに、兄は足手まといな俺を絶対に捨てやしない。


兄は苦悶の声をあげながら再び立ち上がると、包帯男の元へと再び駆け出す。


辿り着けなかったが。


ワイバーンが兄の腰に噛みついた、のだ。


俺は兄に抱きしめられている。

ワイバーンは俺達兄弟を飲み込もうと頭を上にあげ、――兄は俺を落とした。


もう死んでしまったから? そうじゃない。そうだったらまだ良かった。

兄は、俺だけでも逃がすために俺から手を離したのだ。


「おにいちゃま!!おにいちゃん!!いやだ、おにいちゃん!!」


ぐぎゅん。


竜もどきは兄を飲み込んだ。

俺は――床に落ちていなかった。

落ちたのは包帯塗れの男の腹の上、だ。


走るどころか歩けない彼は、俺の元へとスライディングして来たらしい。


包帯塗れの体からは強烈な血と膿み? の臭いがする。確実に大怪我で死にそうなはずの彼は、片手と片足だけでこんなにも動けたのか?

そうだ、凄い魔法だって使えたじゃないか。


「は、ははは。捕まえた」


包帯の隙間から見える、彼の双眸は赤く充血して濁り狂気だって宿している。

彼の深い海よりも、いや宝石よりも青い瞳は、俺を必死に見つめている。

まるで、神様にすがる狂信者のようにして。


「お前を飛ばす。お前なら飛べる。頼むぞ。お前は俺に会い、俺に伝えるんだ。セキジツのあか、ぐはあ!!」


男の頭がワイバーンによって噛みつかれ、引っ張り上げられた、のだ。

俺は彼の腕から落とされ、――俺を喰らおうともう一匹が大きく口を開く。


ガフッ。


巨大な化け物が口を勢いよく閉じた音。

けれど、俺は痛みなど感じなかった。


もうそこに俺はいなかった。


俺の目は壊れた礼拝堂の天井など見ていない。

夕日が落ちかけた薄紺色の空だ。

俺の背が感じるのは、石造りの床ではなく土の感触。


俺は男がワイバーンに咬まれた瞬間、男が持つスキルによってどこぞへと飛ばされたようである。


「意味わかんないし、伝えたい言葉をちゃんと言って!!あと、名前も知ら無い奴なんざ探せない!!無理ゲー!!」


俺は精いっぱい叫んだ。

それでも俺があの男の言う通りにするってわかってた。

お父さん、お母さん、ヒューベルト兄さん、デューイ兄さん。

包帯男の言う通りにするよ。

そしたら、俺を最後まで見捨てようとしなかったみんなを、俺は取り戻せる気がするから。

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