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大人ってしつこいですね

長兄が俺を抱き上げたと同時に、やっぱり俺を探しに来たのか部屋に次兄のデューイが飛び込んできたのだ。頬を赤くした怒り顔で。

ヒューベルトはデューイの怒った様子にアハハと笑うが、デューイはそのせいでさらに憤慨したようだ。


「笑うなんてひどいです。三歳の時の失敗を」


「失敗はしてなかったぞ。堂々とできていて恰好良かった。それでもデューイも挨拶前は嫌だ恥ずかしいって泣きそうだったってフィールに教えようとしただけ。僕もそうだったからね」


「ああ、そうでしたか。てっきり僕は、翌日はお兄様の為のお茶会なのに僕が挨拶しちゃった失敗を笑われるのかと」


「あれはあれで可愛いかったし、そのお陰でお茶会が成功したとも言えるね」


「兄様、大好き」


デューイはヒューベルトにがしっと抱き着いた。


眼福である。


そしてこれは当時三歳児であった次兄の失敗でも何でもないと思う。

長兄と次兄が四つ離れていることと、この世界の事情で起こった可愛い事件だ。


この世界は魔法があっても転移魔法は無いらしい。(今の俺が知る限りでは)

そこで移動手段として、馬や魔獣に乗ったり車を牽かせている。

ここが問題。

前世と違って移動にかなりの時間がかかるのだ。

隣の領地のお茶会に出席するのに馬車で四時間、など当たり前の世界なのである。

さらに言えば、どこぞのお宅は門を入ってから玄関まで二時間かかるそうだ。

ぞっとする。


ちなみに魔獣だったらもっと時間短縮できるけれど、魔獣は辺境や魔の森だけしか使役出来ない決まりなので、貴族だろうが馬による移動だ。

つまり何が言いたいのかと言えば、貴族を招待せねばならない催し物が同時期に複数ある場合、日にちを大きく空けて設定するか客をお泊りさせて連日でやってしまうか、という選択肢になるという事だ。


デューイのお披露目会とヒューベルトの初めての茶会は、遠方からの招待客を自宅に宿泊させての連日での催しとなった。そのため三歳のデューイは翌日のお茶会も自分の為のものだと思い込み、ヒューベルトが挨拶する前に「ご参加ありがとうございます」ととても立派なご挨拶をしてしまったと。


このデューイの失敗は我がバルバドゥス一族の定番の笑い話となっていて、催し物があるたびに「デューイから最初の挨拶が欲しいな」とデューイは大人達に揶揄われているらしい。デューイ可哀想。大人って子供への揶揄い方がしつこい。

その揶揄いで子供が傷ついているってわかって欲しい。


「大人ってしつこいでしゅよね」


「ふふ。そうだね、フィールの言う通り。デューイ、気にするな」


「うん。ふふ。大人ってしつこいって、フィールは時々大人みたいなことを言うから面白いね」


はっ。

俺はまだ三歳児だった。

俺はヒューベルトにしがみ付いたまま彼の顔を上目遣いで見つめれば、ヒューベルトはとても楽しそうなキラキラした瞳で見返した。まぶしい。


「おにいちゃま。ぼくはなまいきじゃなかったでしゅか?」


「ふ、ははは。三歳児のくせに」


「おにいちゃま? ってきゃあ」


俺はヒューベルトに乱暴に揺すられた。

俺はヒューベルトにしがみ付く。


「フィールは考えすぎるから疲れやすいのかな」


「僕もそう思います、兄様。赤ちゃんは、失敗して当たり前なのに、フィールはあんまり失敗しないもの。赤ちゃんなのに考えすぎなの」


……中の人が成人だからだよ。

君達の方が立派で気遣いできる優しい人間だよ。

ああ、俺は駄目な人間だなあ。


「おおお。ヒューベルトにデューイ。大きくなったなあ!!」


父ではない父に似た声の主は、父の従兄となる男爵だ。

おかっぱみたいな髪型の黒髪はつやつやで、父よりも年上なのに白髪一つない。

それから服装は少々成金ぽく庶民的。

だからかとても大らかで気安い人だ。


でも、デリカシーが無いと思う。

だって彼はデューイの頭をぐりぐり撫でながら、余計なセリフを吐いたからね。


「今日はフィールのお披露目だ。間違って挨拶するなよ!!」


「うぐっ」


デューイの涙を飲み込む声。

ヒューベルトは大事な弟が傷つけられ怒りが湧いたか、俺を抱く腕に力が籠る。

俺の体はしっかり安定。そこで俺は、子供相手だからと身を屈めている中年男の頭部へと手を伸ばした。


「「あ!」」


兄達は同時に小さな声を上げ、男爵は両手で頭を抑える。

俺のせいで向きが変わってしまった毛髪を抑えるために。


「うわあ! 何をするんだ!」


怒鳴るなよ、俺はまだ赤ちゃん。

頭の上に乗っている変な帽子に興味を持っちゃうお年頃。


「すごーい、顔がいないないしちゃった!!」


手を叩いて喜んであげよう。

きゃっきゃ喜ぶ三歳児と、怒りたくても怒れないオッサンの一触即発な空気。

さあ、どうする。


兄達は顔を見合わせるや頷き合い、全速力で駆け出した。


わああ、怖い、怖い。

俺は落ちないようにヒューベルトにしがみ付く。

だけど、楽しそうに笑いながら走る兄達と一緒は、なんか、癒しになった。

俺のSAN値がまた少し回復した、かな。

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