五歳ならばスキル鑑定式に
俺はとっても緊張している。
とうとう来たぞ、追放イベント日、なのである。
まだ追放されると決まっていないけどね。
五歳になった俺は、今日、これから、神殿にて祝福を受けるだけでなく、ファンタジー系小説あるあるの能力値や魔法属性なんかのステータス鑑定されるのだ。
これは確実に、「転生したら異世界」案件だ。
ああどうか、俺は単なるモブでありますように。
実は悪役令息だった、とか、ぜんぜん必要ありません。
なにせ、追放されたらそこで終わり。
結局俺は何にも鍛える事してませんし、中の人も病んだ成人でしかないので天才ムーブだってできません。
勉強で無双?
ハハ、俺は旅人算とか苦手。
毎分60mのA君を追いかける毎分80mのB君。二人の間には100mの差があります。B君がA君に追いつくのはいつ? とかどうでもいいよ派。
A君が目の前で車にはねられました。ああ俺があと五分早く家を出ていれば!!
あるいは、A君はB君に気付いた瞬間に走って逃げちゃいました。
俺がB君だったらそうだよ!!
俺には友達なんかいなかった。
だから、俺のスキルが屑スキルだったなんて発覚したら、もしかして追放? と現在ガクブルしているとそういうわけだ。
俺の体が揺れているのは、神殿に向かう馬車の揺れだけではありませんよ。
「お前もそんな心配そうな顔をするんだね。何が心配なのかな?」
俺の頭に大きな手が乗った。
父はなんだか嬉しそう。
「僕は立派なスキルじゃないと思います。お父様に恥をかかせてしまう」
「バカを言うな。今のお前が私の誉れで幸せだよ。なあ、アリシア?」
「ええ。この子は賢いから考えすぎるのかしら」
向いの席に座る母が俺を安心させるように微笑む。
母の両隣に座る兄達も、ヒューベルトは俺の頬をむにっと掴み、デューイは俺に大丈夫だと拳を握って見せた。うーん、俺はデューイ兄さんの元気づけの方が良いです、ヒューベルト兄様、そろそろほっぺ解放して?
それから数分しないで馬車は神殿前に到着した。俺は父に手を引かれながら、祭壇前で待つ司祭の元へと神殿の中をおどおどしながら一歩一歩歩く。
祝福と鑑定を行う祭壇のある場所は、神の像もある礼拝室だ。
そこは前世の教会の礼拝堂に近い作りで、信者席も通路の左右に設置してある。
そして伯爵家の子供の鑑定という事で、普段は信者席に誰かが座って祈ってはずのそこは誰もいない。
あれ、……人払いがしてあるはずなのに人がいる?
右側の前から三列目の信者席の一番端の席に、座っている人が一人いたのだ。
いいのか? と思ったが、信者席にいる人の状態が良く分かった途端に彼が排除されなかった理由も理解できた。
右腕と左足があるべき場所に無く、全身が包帯塗れの状態なのだ
命が尽きかけた人は、礼拝堂で神に祈りながら死にたいと望めばそれが許される。
俺ははひゅっと息を吸う。
異世界のここは魔法がある世界だが、魔物だって存在する世界なのである。
守られている俺の平和だって、スタンピードが起これば一瞬で瓦解するだろう。
それに初めて俺は気がつき脅えたのだ。
「フィール。感謝を。彼は私達の生活を守るために命を賭けてくれた人なんだよ」
父は俺から手を離すと、包帯塗れの騎士に向かって神に祈る時のようにアラビア数字の八の文字を切った。永遠なれ、という意味だ。この世界でも無限大という概念はあり、こちらでは無限記号は縦に描く。
俺も指を立てて父のするようしようとして、やめた。
無限記号はもっと頑張れ、という感じみたいで嫌だなって思ったから。だから、胸に手を当てて頭を下げる礼にした。顔を上げれば……包帯で表情も見えないはずなのに、なんだか笑みを返してくれた気がした。
「さあ、フィール」
「はい。お父様」
再び祭壇へと向かう。
俺達を待っている司祭の後ろでは、天秤を手に持ち肩に梟を乗せた女神様像が俺達を見下ろして笑っている。
俺の運命を断罪しないでね。




