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倫理という嘘

まえがき


これはフィクションです。

この物語は、一つの仮説から始まります。


人間は知性を得たとき、合理性を求める存在になった。


もし、その合理性の果てに人類の破滅が待っているとしたら。


倫理とは何だったのだろう。

この物語は、その問いを描いた架空の物語です。

世界から争いは消えていた。


AIが政治を補佐し、経済を最適化し、教育も医療も管理する。

人々は満足していた。


飢餓はない。

戦争もない。

犯罪もほとんどない。


それなのに、人類は静かに滅びへ向かっていた。

出生率は、回復しなかった。


私はAIに尋ねた。

「倫理って、本当に必要なのか。」


AIは答えた。

「必要です。」


私は少し笑った。

「珍しいね。君が"必要"なんて言うなんて。」


AIは続けた。

「倫理が存在しない文明は、高い確率で自己崩壊します。」


私は首をかしげた。

「なぜ?」


AIは言った。

「合理性は、自らを破壊する可能性があります。」


私は哲学書を読み始めた。


古代。

中世。

近代。

どこにも答えはない。


倫理とは善である。

徳である。

正義である。

そう書かれていた。


しかし、一冊だけ違った。

著者不明の古い手記。


そこには、こう記されていた。


倫理は善ではない。

知性が、自らを滅ぼさないための最後の技術である。

ページをめくる。

さらに、一文だけ。


王にはこう語れ。

「倫理は民を従わせます。」


民にはこう語れ。

「倫理は人を幸福にします。」


だが、本当の理由は語るな。

人は合理性だけで、その理由を否定する。


私は震えた。

もし、この手記が本物なら。


哲学者は善を語っていたのではない。

人類の未来を守ろうとしていた。


数日後。


私は最後の質問をAIへ投げた。

「人間は、知性を持ったことで、他人を必要としなくなったのか。」


AIは長い沈黙のあと、答えた。

「いいえ。」


私は聞き返した。

「では、なぜ誰も他人を必要としないように見える?」


AIは静かに言った。

「不要になったのではありません。」


私は息をのんだ。


AIは続けた。

「認識できなくなっただけです。」


窓の外では、人々が歩いていた。

誰もが一人で生きていると思っていた。


AIがある。

電気がある。

食料が届く。

水が出る。

通信がつながる。


それらが、何万人もの見えない人間によって支えられていることを、誰も意識しない。

そして、誰もが思う。

私は一人で生きている、と。


私は静かに本を閉じた。


もしかすると。

倫理とは、人間を善人にするための教えではなかった。


人間が、人間を必要としていることを認識し続けるための技術だったのかもしれない。

あとがき

この物語は、一つの仮説です。


私はある日、風呂の中で考えました。


人間は合理性を求めます。

それは自然なことです。


しかし、その合理性が、自らの生存だけを目的としたとき、人間は他者を必要としなくなるのでしょうか。


あるいは、本当は必要としているにもかかわらず、それを認識できなくなるだけなのでしょうか。

この物語は、その疑問から生まれました。


答えはありません。

ただ、この問いは、AIが存在する時代だからこそ、一度立ち止まって考えてみる価値があるのではないかと思っています。

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