12パーセントの約束
まえがき
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、出来事はすべて創作であり、実在するものとは関係ありません。
ただし、物語の背景にある投資や資金調達の考え方については、現実社会で起こり得る事象を参考に構成しています。
退職金は二千万円。
銀行に預けても利息はほとんど増えない。年金だけでは心細い。
そんな時、真面目な青年が自宅を訪ねてきた。
「AIデータセンター事業です。年利12%。世界的な需要で、今後も伸び続けます。」
青年はスーツの襟を正し、何度も資料をめくった。嘘をついている顔には見えなかった。
「もう土地も確保しています。」
完成予想図には、青白い光を放つ巨大な建物が描かれていた。
私は老後資金の半分を預けた。
半年後、配当は予定どおり振り込まれた。
一年後、工事は始まらない。
「変電所の接続待ちです。」
さらに半年。
「建築資材が不足しています。」
また半年。
「行政手続きが長引いております。」
青年は電話のたびに深く頭を下げた。
彼もまた信じていたのだ。
ある日、私は現地へ向かった。
雑草だけが風に揺れ、杭すら一本打たれていない更地だった。
「建設予定地」
と書かれた看板だけが、色あせて立っていた。
帰り際、青年から電話があった。
声は震えていた。
「私も……退職金を全部入れています。」
その瞬間、私は初めて知った。
騙していたのは青年ではない。
青年もまた、「必ず完成する」という話を信じた一人だったのだ。
あとがき
本作品を書いたきっかけは、一つの素朴な疑問でした。
AIデータセンターは将来性があると言われています。
しかし、もし本当に極めて高い利益が期待できる事業であるなら、資金力のある企業や金融機関が低い資金調達コストを生かして進めることが多く、一般投資家から年利12%のような高い利回りを提示して資金を集める必要は少ないのではないか、と考えました。
もちろん、これは一つの推論にすぎません。
高利回りで資金を募集する理由には、さまざまな事情が考えられます。例えば、開発初期で銀行融資を受けにくい案件であること、事業者の信用力が十分でないこと、劣後ローンやメザニンファイナンスのようにもともと高い利回りが前提の資金調達であること、あるいは海外案件特有の政治リスクや為替リスクが反映されていることなどです。
したがって、「年利12%だからバブルが崩壊した」と断定できるわけではありません。
しかし、高い利回りが提示される背景には、市場が以前より大きなリスクを織り込んでいる可能性もあります。近年はAI向けデータセンターへの期待が高まる一方で、電力不足、GPUの供給制約、建設コストの上昇、金利上昇、テナント確保の難しさなど、多くの課題も指摘されています。
この作品は、特定の企業や事業を批判するものではありません。
「高い利回りには、それに見合うリスクがある。」
その当たり前の事実を、物語という形で考えてみたいと思い、この作品を書きました。




