助手の消えた日
「『犯人が警察上層部の孫であったために事実を隠蔽!?』もう題名がすべてを物語っちゃってるんですよね」
「そうね、内容がわかりやすいわ。……望まれない子だからと、殺してもいい理由にはならないのに」
「……そうですね。ところで先生」
「なにかしら?」
「先生、ずっと怪盗さんのこと信じてましたねえ」
「だって」
あなたの美学に反するでしょう?
その言葉が落ちた一瞬、全ての音が消えたような錯覚に陥った。
チャロアはなんでもないようにゆっくり新聞を畳み、デスクに置くと椅子に堂々と座るオニキスに跪いた。
いつのまにか、光の粒子がチャロアの身体から漏れてつま先が薄っすらと透けていた。
お別れの時間なのだと、言われなくても分かった。だからこそ、縋りそうな自分を律するために唇を強く噛んだ。チャロアにはチャロアの、オニキスはオニキスの世界があるのだ。
そんなオニキスを、慈愛の目で見つめながらチャロアは口を開いた。
「先生、楽しかったですか?」
「……え」
「この半年と少し、楽しかったですか?」
柔らかな声で紡がれる、その言葉が意味するものを、オニキスは知っている。知っていた。
『同じ毎日の繰り返しって……楽しいですか?』
初めて会った時に、チャロアがオニキスに問いかけた質問。あの時、あの時自分が返した答え。
ぼたぼたと涙がこぼれて止まない。
そうか、怪盗はオニキスのために居たのだ。オニキスに「楽しい」を伝えるため。自分をコレと称したオニキスの存在価値を証明するために、ただただオニキスのためだけに怪盗は存在した。
「……かった」
「はい」
「楽しかったわ!」
チャロアにとって、どんな宝石よりも価値がある涙が滂沱と流れている。それを拭いもせずに、チャロアの名探偵は、普段大声なんて出さない彼女は。
叫ぶように「楽しかった」と言って泣いていた。それだけで、チャロアがここにいる、いた、きた意味はあったのだ。
「先生、ボクはあなたのためなら、何にだってなれた。怪盗も、助手も、普通の女の子にも」
「助手っ!」
「だから、ありがとうございます。ボクも楽しかった!」
だからせめて、精一杯の笑顔でお別れをしよう。
太陽みたいににっこりと笑いながら、その目尻から一粒の涙を流して。
この世から、オニキスの唯一の助手は居なくなったのだ。




