刑事の決断
「それで? 我々を呼んだ理由を聞かせてもらおうか」
「僕も気になるな。聞かせてくれるかい?」
「……ええ」
普段より格段に力のない声で応答したオニキスに、オーウェンとウェルナイアが顔を見合わせ首を傾げる。いつも通り、オーウェンとウェルナイア、オニキスとチャロアで座ったソファーがいつもより重い気がした。
「どうした、貴様」
「いいえ。とても、これからとても失礼なことを聞かねばならないから」
「例の事件関係かな?」
「馬鹿な。あれは怪盗の仕業と「言っているのは、警察という組織よね」……なに?」
オニキスの言葉に、オーウェンとウェルナイアが眉をひそめる。
その言い方だと、まるで。
「警察が犯人を怪盗にしたがっているような言い方だな」
「わたくしの考えだと、そうなれば全てのことに納得がいくのよ。だから答えてちょうだい。中島・静子、椎山・誠についての事情聴取は、組織の上層部が行ったのかしら? そして、あなた達はさせてもらえなかった?」
「「……」」
その沈黙だけが、正しさを雄弁に物語っていた。
「なぜ、怪盗さんの事件ばかりを扱うあなた達に、今回の事件が回されなかったか。怪盗さんは無関係だからよ」
「なんだと!?」
「わたくしと助手で中島・静子と椎山・誠に話を聞いてきたわ。椎山・誠は、事件のあった部屋の「様子を見てきて欲しい」という電話があったから来た警察官を通したと言っていたのよ。でもおかしいと思わない? 通報者は椎山・誠になっているの。警察官は無線で応援を呼べるじゃない。通報に行っている間、この警察官とやらはなにをしていたのかしら?」
「馬鹿な……そんな、警察官が現場に居たなど聞いていない。そう、証拠は!?」
「監視カメラの映像が残っているらしいわ。昨日聞いてきて、助手がもらってきていたから、後で渡すわね」
呆然という言葉を使うには青い顔で、オーウェンとウェルナイアは押し黙った。
「残酷な……いえ、皮肉になるわね。おそらく、二人が駆けつけた時には女性は生きていたのよ。椎山・誠が外で待っている間に殺されて、本物の警察を呼びに行っている間に、赤子はナイフで刺されたまま引きずり出されたの」
「……本物の警察だと?」
「ええ、警察の格好をしていたのは本物の警察官ではないわ。警察手帳も出さない警察官なんていてたまるものですか。そしておそらく、警察上層部の関係者よ。でないと制服はともかく、残されたカードの用意も怪盗さんに罪をなすりつける工作も、警察官の格好をした人物をかばうことも出来ないもの。カードはいつも残していた普段の怪盗さんと同じ文字じゃないわ、それくらいずさんだけれど」
それはあまりにも衝撃だった。
自分が所属する組織が、犯人を隠蔽という名目で守ろうとしたことも、関係ない者にその罪を押し付けようとしたことも、何より上の言う事を当然として疑いもしなかった自分。
その全てが、ぐわんぐわんと音を立てるほどにオーウェンにとっては苦しかった。頭を抱え、ソファーでうずくまっていると。
「オーウェン」
ふと、ウェルナイアの声がした。虚ろに見上げた先で、ウェルナイアが寂しそうに薄く笑った。
それだけで、わかってしまった。さようならをしよう、そういうことだと。
今ここで、オーウェンは聞かなかったことにして、全てウェルナイアに任せてしまえば。組織から疎まれるのもウェルナイアだけ。それが分かっているから。
「探偵。監視カメラの映像と話した人物の名前、それと事情を聞いた時にメモでも取ったのだろう。よこせ」
「……どうするつもり?」
「真実を明らかにするだけだ」
「オーウェン!!」
「馬鹿な話だ。正しくするための組織が、不正をしている。それを正当化するために虚像を作り上げるなんぞ、正しいわけがないじゃないか」
俯いて、きつく拳を握ったオーウェンはふと表情を和らげて、ウェルナイアを見た。つつじにとって、サポート役というのはもし何かあった時の身代わりと知っていた。それでも、オーウェンはウェルナイアとさようならなんて出来なかった。孤独で、一人では歩けないのはオーウェンもだったから。一緒に、底まで落ちてくれ。一言だけ「すまない」と呟いて。
チャロアが用意していた一式を手渡した後。どこか清々しげに去っていったオーウェン達は数日後、閑職に追いやられた代わりに、宣言通り全てを詳らかにしたのだった。




