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依頼とは

「『晴紫蘭 露衣』は……私の曽祖父は、外ツ国の人でした。親戚もなく、どうやってたどり着いたのかもわからない。ですが、ですがどうして……」

「百五十年前に海の向こうの国で飛行訓練が行われたそうよ。その時、一基だけ行方不明になったらしいわ。それがここに墜落したのだとしたら。自国に帰りたいと、家族に会いたいという願いがモールス信号だとしたら」


 部屋が静まり返る。

 外ツ国の曽祖父を持っていたという晴紫蘭は、元々白い肌が青くなり、紙のように白くなり一気に何歳も老けたように見えた。

 一体どれだけの間、思い続けたのか。ついぞ来なかった救援を待ち続けたのか。死ぬ間際まで、こちらでの家族と居る時でさえ、晴紫蘭の曽祖父は。どんな思いで。その気持ちに、いくら心を馳せても足りないのだろう。本人以外は、想像でしかないから。


「昔は……この髪と名字を呪いました。まるで外ツ国の者のようだとからかわれて。それが嫌で、よく曽祖父に八つ当たりしたものです。なのに曽祖父はいつも……困ったように笑って。いえ、違うのでしょうね。あれはきっと」


 うなだれて紡ぐ、その途切れた言葉の先が答えだった。


 誰も、アイスティーを飲み終わってすることがなくなったオニキスも、なんとなく空気を読んで口を開かない中。

 静かにドアをノックする音が聞こえた。それに晴紫蘭が返事をすると、メイドが一人「失礼いたします」と声をかけてから静かに入室してきた。白髪交じりの黒髪に、茶色の瞳に若干老けたように感じる主人を映して驚いた表情をしたが、さすがプロ。すぐに隠し、外ツ国から電話が来たことを告げる。

 はっと我に返ったように顔を上げ、メイドを見て、オニキスを見て、またメイドに視線を固定する。

 酸素を求める金魚、溺れた人間が必死に酸素を求めるみたいに口を開くと。


「あ、相手方は!」

「バレンシランと名乗られる方です。ロイ・フレド・バレンシラン様の血縁者であると伺っております」

「すぐに向かおう!」


 晴紫蘭は座っていたソファーの前のローテーブルさえ蹴り上げる勢いで跳ね起き「失礼!」と一言だけ挨拶をすると、メイドを置き去りにして行ってしまった。その後姿に唖然としていたメイドだったが、オーウェンたちに一礼すると慌てて晴紫蘭の背を追った。

 扉は開けっ放しで、残った面々は呆然とするばかりだった。茶請けに出されたクッキーを小さな口で頬張っているオニキスは除くが。


「おい、悪魔。貴様いつからわかっていた? なぜ言わなかった?」

「来た時に十字架と杭を見たときには。なぜ言わなかったと言われても……あの『叫び』を見ることが依頼に必要とは聞いていたけれど、肝心の依頼内容を聞いていないもの」

「「……」」

「あ、そう言われればそうですね。結局何の依頼だったんですか?」


 静寂が広間を支配した一瞬、その後。


「……ぐ……ぐぬううううううう!!」

「ごめん、オーウェン。僕が伝えれば……ごめん!」

「えー、もしかして忘れちゃったんですかぁ?」

「助手」

「はーい」


 勝手に依頼したものだと思いこんでいた刑事の、心底からの憤怒と羞恥の呻きが低く響く。顔を真赤にして、全体的に顔をひくつかせながら歯をぎりぎりと音立てている。

 あまりの形相に、ウェルナイアがなんとか宥めようと近づくが、その顔で睨まれて後ずさった。

 さらに、爆発中の爆弾の中に油を一斗缶で振りまくような言動をしたチャロアを、オニキスが諌める。

 電話をしている主人の代わりに、見送りに来てくれたメイドの軽い悲鳴で、オーウェンは我に返り、事態は収まった。


 見送りのために来てくれたメイドに、チャロア達は礼を言い、早々に屋敷を出て車に乗り込んだ。荷物はいつの間にかウェルナイアが積んでいてくれたらしい。できる男は違う。

 来た時とは反対方向を向く車の中で、騒がしくも言い合いをしながら。十字架と杭、『叫び』と呼ばれていたそれらを背後に遠ざかっていく。元の町に帰るために。

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