探偵と叫び
「呑気に寝ていたらしいな、役立たず共め!」
「うっわ、朝から大声出して自分に酔ってる気持ち悪いおじさんがいますねぇ」
「誰が自分に酔っているだ!!」
「本当のことじゃないですか」
姦しく嫌味の応酬をするチャロアとオーウェンに、歩きながらオニキスはため息をつく。
目の充血が取れた頃、服を着替えたところでチャロアに手伝ってもらいながら調べ物をしていると。ウェルナイアが呼びに来た。ちょうど区切りもいいしと呼びかけに応じると、一緒に居たオーウェンから開口一番に罵りを受けたチャロア達。だったが、それで終わらないのがチャロアで。オーウェンと嫌味のやり取りをウェルナイアの後をついていきながらしている。ウェルナイアが止まったことで、終わったが。
目的地に到着したようだった。ドアをノックして、返事がないのを確認してから慎重に開けた。
通されたのは小さな客間だった。その小ささに見合わず、品よく置かれた壺や絵画、暖炉の上にある燭台などは骨董品の中でも良いものだけが置かれているのがわかる。さながら、特別なお客様用の客間のようだ。どうしてここに通されたのかはわからないが。
三人がけのソファーが二つと、その間にローテーブル。一番奥、上座に一人がけのソファーがあることから、きっとこれから誰か来るのを待っているのだろう。オニキスとチャロア、オーウェンとウェルナイアの組み合わせで向かい合うように座る。
ノックされ、返事をするとメイドがアイスティーのセットをワゴンに乗せて現れた。最初、扉だけ開いたときは悪戯かとオニキスは思ったが、違ったらしい。
丁寧にアイスティーを淹れて去っていったメイド、そのアイスティーをソーサーを持ってちびちび飲んでいたオニキスが首を傾げる。さらりとツインテールにした銀髪が流れて窓からの光を拾い纏った。
なにか首を傾げる要素がこのアイスティーにあっただろうか、チャロアが口を開く前に。上座に置かれたソファーの持ち主がやってきた。
日本人の平均身長以上はある、ウェルナイアよりも背が高く彫りの深い顔にがっしりとした体つき。短い金髪で、灰色のスーツを着ていた。子どもが居るような年齢だが、流石にここには連れてこないだろう。
気さくなようで、立ち上がり礼を取ろうとしたオニキス以外を、「そのままで」とにこやかに制し。自分についてきたメイドに自分の分のアイスティーを頼み、奥のソファーにどすんと座った。思わず目を丸くしたチャロア達に気づき、照れ笑った。
「いつもの癖で、すみませんな。ソファーは勢いよく腰掛けるのが好きでして」
「わかります、ソファーの弾みとふかふか加減をはかるの、楽しいですよね!」
「おや、あなたも?」
変な方向に話が盛り上がって行きかけたところで、メイドが再びワゴンごと現れ、男性の紅茶とチャロアたちにアイスティーの確認をしていき、全員が断るとごく静かな音で退出していった。
淹れたてのアイスティーで喉を潤している男に、オーウェンが胸を張るように姿勢を正した。
「晴紫蘭殿、我々警察が時代錯誤な怪盗とやらから十字架と杭を守り抜きました! どうぞご安心を」
「それはそれは! ありがとうございます。しかし『叫び』とやらは一体何だったのでしょうか。私の祖父も父もあれらをそう呼んでおりましてな」
「さあ……。しかし、その『叫び』を「持っていったわよ、あの怪盗さん」……おい、貴様。どういうことだ」
機嫌よく依頼主に応じ警察の、ひいては自分の有能さを見せつけようとしたオーウェンは。からから中にはいった氷をかき混ぜながら、それを否定する言葉を放ったオニキスを睨みつけた。
チャロアは疑問に首を傾げ、ウェルナイアが困ったように笑っている中で。晴紫蘭だけが、幼い少女であるオニキスに緑色の目を細めて優しく尋ねた。
「お嬢さん、それはどういう意味だろうか」
「そのままよ。外観を置いて、本物の『叫び』を持っていったわ。もしかしたら、今日中にでも外国から手紙か電話が、くると思うわ」
「本物の『叫び』?」
「あの杭と十字架を真上から見るのよ。そうすると、・・・ーーー・・・となるわ。コレを昔の暗号図、モールス信号に当てはめてみるの。そうするとト・ト・ト・ツー・ツー・ツー・ト・ト・ト。「SOS」、「助けて」の救援信号となるわ」
からん。涼やかな音が、沈黙の中に落ちる。オニキスがソーサーごと持ち上げて、カップを揺らしてから口をつける。細く、白い喉が動くのを皆が黙って見ていた。オニキスが喉を潤し終えるのを待って、晴紫蘭が堰を切ったように問いかける。
「『助けて』……とは? あの十字架は空から降ってきたものと!」
「申し訳ないけれど、そこからねじ曲がっているのよ。おそらくだけど「百五十年前、金属塊と一緒に人が降ってきた。その人は金属の塊を使って十字架と杭を建てた」が正解だと思うわ。検証は任せるけれど、さっき軽く調べただけだけれど地方新聞に乗っていた『晴紫蘭 露衣』と言う名前、心当たりは……あるわよね?」
基本、この国は黒や茶髪が主な髪色の人種が住んでいる。外国の血が混ざれば金や銀の髪、青や緑の瞳を持って子どもは生まれてくる。最近は好んで金色に染める者も居るらしいが、晴紫蘭の金髪は生え際を見る限り根元からだ。なにより、その名字が。
オニキスを見ていた緑色の目が揺らいで、片手で両目を覆うと大きくため息を付くと、力が抜けたようにソファーに寄りかかった。
震えるほど小さい声で、晴紫蘭は聞かせるつもりがあるのかないのかわからないほどの声で、呟いた。




