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土妖精の置き土産

「御覧ください! これが約二百五十年前に採掘された『土妖精の置き土産(メリィオルテール)』と呼ばれる金属で作られたオルゴールです! それでは所有者の千種(ちぐさ)さんにお話を伺ってみましょう!」

「いやぁ、うちの蔵にそんな大層なもんが眠っておったとはのう……先人は大事にしなければなりませんなぁ」


 ぶつっ。突然切れたラジオに、オニキスは二つほど瞬きをして、ため息を付いた。最近ラジオの調子が悪い。ダイヤルに手を伸ばしながら新しいものに買い替えるか否か悩んでいると、隣の家から染まりかけの楓が数枚降ってきた。テラスでお茶を飲みながら視線を楓から、庭に移すと。

「秋の畑」でチャロアが軍手をしながらさつまいもとじゃがいもを掘っている。何が良いのか、大笑いしてはきらきらした目で芋から土を拭って、オニキスに見せつけるように掲げている。あ、顔に土がついた。

 何をしているのか、まったく。これだからわたくしがいないとだめなんだわ。と頬に手を当て、悩ましげに息を吐く。ぬくもりが移った白い椅子から立ち上がると。

 チャロアが「先生ー!」と、オニキスが見たこともないほどに大きなさつまいもがついた蔓の茎の部分を鷲掴みにして、オニキスに近づく。


「先生、見て下さい! 今のところこれが一番大きいさつまいもです、ボクたちの勝ちですね!」

「ずいぶんと大きいのね。ところでわたくしたちは何と戦っていたのか聞いたほうが良いのかしら?」

「この大きさですから縦半分に切って中身くり抜いてからグラタンにしましょう!」

「会話をしてちょうだい?」


 あ、先生も一緒にやりましょう、オーバーオールに着替えて。いい案だと言わんばかりに深く頷くチャロアに嫌そうに顔を顰めたオニキス。穏やかに過ぎていく日々に、侵入者が二人現れた。

 オーウェンとウェルナイアだ。オーウェンは相変わらず重苦しい真っ黒なコートを着ていて、ベスト姿のウェルナイアとの対比が激しい。


「何度かノッカーを鳴らしたが、庭にいたとはな……。野生児にでもなるつもりか」

「野()児なんて健康的でいいじゃないですか」

「チャロア嬢、野生だよ。野生」

「助手、とりあえずそれは置いて、服を着替えてきなさい。……顔もちゃんと洗うのよ」

「はーい!」


 とりあえず、二人に玄関から入り直してもらい、その間にラジオを持ってテラスへと通じる扉の鍵を締めた。

 この頃になると、日々押しかける依頼人と助手のお陰で、オニキスも依頼人の対応に少しずつ慣れてきたところだった。普段はひっきりなしに来る依頼人なのに、何故かこの二人が来るときだけは来ないのだから不思議だ。見張られでもしているんじゃないかと思う。調子の悪いラジオをデスクの上においてからキッチンに向かいつつ尋ねる。


「飲み物はホットでいいかしら?」

「かまわん」

「ありがとう、頂くよ」


 手間を掛けて淹れた紅茶をオーウェン、ウェルナイア、オニキスの順に置いて、オニキスは安堵する。正直カップに淹れるのすらこぼしかけて、茶器の重みに小刻みに音を鳴らしながらもなんとか今いる全員に配れたのだから、なんとかなるものだ。

 しかし、ポッドは重いしカップの紅茶はこぼしそうになるしで、今度から絶対チャロアに淹れてもらおうと決意を胸にしていたところ。


「チャロアちゃん戻りましたー!」

「まったく、騒がしい小娘だ」

「一言余計なんですよね。重苦しい雰囲気を振りまくだけじゃ気が済まないんでしょうかこのおじさんは」

「こ、この!?」

「オーウェン、落ち着いて。依頼をしに来たんだから」

「……依頼、を?」


 ぱちり、ぱちり。二回ほど緩慢に青い目を瞬かせたオニキスが復唱する。まるで初めて聞く単語のように。

 確か前回の「依頼忘れ事件」以降、「二度と頼らん!」と言っていなかっただろうか。小首をかしげ、もう一度「依頼……」と呟いてから、仕事だと脳内処理のし終わったオニキスは、チャロアに聞き取りのメモを書くように指示し、聞き取りを任せた。


「で、依頼ってなんですか?」

「土妖精の置き土産……メリィオルテールと呼ばれる金属で作られたオルゴールがあるんだ。それを例の怪盗が盗みに来るらしくてね。それに関した依頼をしたいらしいんだ」

「したいらしい?」

「依頼するのは僕たちではないんだ。オルゴールの持ち主である、千種さんからの直々の指名だよ」


 そう言ったウェルナイアがスーツの懐から取り出したのは、カードサイズの黒い紙に、白い文字で「あなたの罪を頂きます」と書かれたものだった。予告状、で間違いないだろう。何気に見るのは二人とも初めてなため、多分としかいえないが。裏には丁寧に「満月の晩、日をまたぐ瞬間にお会いしましょう」と示されてあった。

 どこかで聞いた話だ、特にメリィオルテールと持ち主の名前。日頃の話題にも上らないものなのに何故……と思ったが、デスクの上のラジオを見て、思い出した。テラスで、少しの間だが情報を正しく伝えていたラジオからの情報だった事に気づいた。

 そんなオニキスに構わずに話しは進んでいく。


「もちろん警察も張ってはいるんだけど、ここのお孫さんがオニキス嬢の大ファンらしくてね、『是非に』ということなんだ」

「……その孫には会うのかしら?」

「いいや、サイン?が欲しいらしいよ」

「先生すごいです! とうとうサインなんて、依頼人さんもわかってますね!」

「はっ、そんな価値のないものを「サインを求められたことのないだろうおじさんがうるさいですねえ」」


 あ、宅配とか就職の時に少しくらいはありました? 飄々とにやつくチャロアに、オーウェンの額に青筋が浮かぶ。


「貴っ様!」

「オーウェン、安い挑発にのらないでくれ。チャロア嬢もやめてくれるかい?」

「助手」

「はーい」


 笑顔のまま謝るチャロアは反省など毛頭していないことが丸わかりで、オニキスは小さく溜息をついた。

 チャロアは首のこりをほぐしつつもう一度、テーブルの上に置かれた予告状を見る。


「というか。罪、ですか? どういう意味なんです?」

「さあ……。それが僕たちにもわからなくてね。本人たちもわからないと言っているし」

「罪人は自らを罪人とは言わないわ」

「それに関しては悪魔に同意してやろう。罪のあたりも含めて、目下捜査中だ」


 腕を組み、ふんぞり返っているようにしか見えない体勢のオーウェンが頷く。かなり上から目線だが、オニキスに同意するのは珍しい、を通り越して初めてではないだろうか。

 あまりに驚きすぎて。


「なにか企んでるんですか?」

「なんだと貴様!」


 チャロアの口がつい滑ってしまい、危うく本気で喧嘩になるところだった。

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