康之、お前とは話が通じない
2014年2月――
康之が仮出所し、そのまま実家へ向かう。
インターフォンで自分が康之であることを告げると、門扉が静かに開いた。
(やっと帰ってきた……この前は失敗したが、今度こそ成功してやる!)
玄関を入ると、父親であるA製薬元会長の茂と、息子の保が立っていた。
保のやつ、相変わらず黙っているな……「お帰りなさい」ぐらい言えよ。
「お父さん、大変ご迷惑をおかけしました」
父親からは、家の中には絶対に入れるつもりはないという意思が伝わってくる。
「康之、どうしてあんなことをしたのだ?」
「アメリカでのAI事業を何としても成功させ、その実績で再びA製薬の社長に戻していただきたい一心でやりました。もう少しうまくやっていれば、警察に捕まることはなかったと思います。失敗して申し訳ありませんでした」
「お父さんは、悪いことをしたと思っていないの?」
保が感情を表に出すのは初めてだな。
しかし、相変わらず声が小さく、おどおどしている。
やはり役立たずだ。
「保、おまえは黙っていろ! おまえのせいで匠たちを始末しないといけなくなったのだぞ。おまえのせいで……おまえのせいで……」
康之の声は興奮とともに次第に大きくなっていく。
その途端、保は萎縮して茂の後ろに隠れた。
「お父さん、お金を貸していただけませんか? 自分の会社を作り、それを必ず大きくしてみせます」
「おまえの気持ちはよく分かった。当面の生活費として500万円をやる。ただし、おまえは二度とここには来ないでくれ。宮原家とおまえとは、もう何の関係もないと思ってくれ!」
「なぜですか? 商売相手を食い物にしてでもビジネスに勝て、と教えてくれたのはお父さんですよ。私はその通りにやっただけじゃないですか。何が悪いのですか? 失敗したから悪いのですか?」
「“商売相手を食い物にしてでも”というのは、気迫や意気込みの話であって、人を殺すという意味ではないぞ。そんなこともわからないのか?」
「今さら何を言っているのですか? 私はそうやって生きてきました。A製薬にとって邪魔になる人間は、あの連中に頼んで始末してきました。そのおかげで、私の代でA製薬は少しだけですが大きくなったじゃないですか?」
「もういい。おまえとは話が噛み合わない。少し待っていろ、金庫からお金を取ってくる」
「お父さん、500万円ではまったく足りません! 会社を作らなければならないのですよ」
「500万円あれば、小さな会社から始めることができる。小さな会社から始めて、いろいろなことを学ぶといい。おまえはそこで待っていろ。家の中には入るな」
茂が家の中に入っていくと、康之も中に入ろうとする。
「保、中に入れるな」
――何という子どもを育ててしまったのだろう。
とにかく金庫から500万円を出して、奴に渡そう。もうこいつはダメだ。
茂が金庫を開けてお金を取り出していると、玄関から大きな音が聞こえてきた。
玄関に走って戻ると、突き飛ばされた保が廊下に倒れている。
「何をしている! 自分の子どもじゃないか!」
「家の中に入ろうとするのを邪魔するからですよ。こんな役立たずの子ども……人とまともに話もできないような子どもでなければ、アメリカでのビジネスはうまくいったのです。こんなグズは私の子どもではありません!」
康之は家の中に入り、茂を突き飛ばして金庫のある部屋へ向かう。
扉が開いたままの金庫が目に入る。
中には大量の現金、有価証券、金地金が入っていた。
「お父さん、これを全部持って行きますよ」
「康之、それをやったらおまえを警察に突き出さざるを得なくなるぞ」
「なぜですか? この家のお金は、いずれ私のものになるのです。問題なんかないでしょう」
「おまえには渡さない。お金はすべて保に相続させる」
その瞬間、康之は茂のもとに駆け寄り、倒れている茂を蹴りつける。
何度も、何度も蹴りつける。
次に、横に倒れている保も蹴りつける。
二人ともぐったりしている。保はピクリとも動かない。
金庫に戻り、他の部屋で見つけた鞄を持ってきて、その中に現金を詰め込んでいく。
その鞄を持って家を飛び出した。
茂は警察に連絡するかどうか迷ったが、このまま康之を野放しにしておけば、必ず他の人に迷惑をかけると思い、警察に電話した。
駆けつけた警察官に、横たわったまま事情を説明し終えると、そのまま動けなくなってしまった。
警察は救急車を呼んだが、運ばれた病院で二人とも意識不明のままだ。
康之は全国に指名手配されるが、いまだ逃亡中である。
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