カリフォルニア観光でフレッシュ
2011年12月――
夜の食事を終えて、相馬家のリビングに3家族が集まってくる。
照明は柔らかくても、全員の表情にはまだ硬さが残っている。
田沼の逮捕で一応の区切りはついたはずだが、簡単に気持ちを切り替えられるものではない。
寝ている間に放火され、命を狙われた恐怖は、そうそう拭えるものではないのだ。誰もがあの夜の冷たさを思い出すと、胸の奥がざわつくようだった。
しばらく沈黙が続いたあと、父が重い声で村岡さんに問いかける。
「村岡さん、弟夫婦の行方について、警察から何か連絡はありましたか?」
村岡さんは少し顔をしかめ、息を吐いてから答えた。
「まだ行方不明のままのようです。それに……どうやら子供を施設に置き去りにして、二人だけで姿をくらましたらしい。その施設から、私たちに『その子を引き取ってはくれないか』と連絡が来たんです」
彼の声にはやり場のない苛立ちと困惑が混じっていた。
「……まさか……受けたのでは……?」
父が念を押すように訊ねる。
村岡さんは首を振り、言葉をきっぱりと言った。
「もちろん、引き取りなどしていません。あれは私たちを殺そうとした夫婦の子供ですよ。それに、二人は罪の償いもせず、私たちに謝ることもなくどこかに隠れている。施設の担当者には事情を説明して、きっぱり断りました」
「それでいいと思います。無理して引き取っても、お互いに不幸になります。それはそうと、自宅の修理はどうなっていますか?」
「K社から依頼された業者と連絡を取り、もう修理が始まっています。建て替えではないので、すぐに終わるでしょう。焦げた匂いが気になるかもしれませんが、正月は自宅でゆっくり過ごせると思います」
田沼が逮捕されても、3家族の雰囲気は暗い。これは気持ちの切り替えが必要だ。
「今回のことで、3家族とも嫌な気持ちになっていると思います。そこで、年末と正月はサンタクララで過ごすのはどうでしょう? 全員分の渡航費用は未来技術研究所で出します。いかがですか?」
「賛成! 大賛成だよ」
全員が賛成している。
「では全員で行きましょう。リフレッシュしましょう。坂下さん、アメリカでの警備をSS警備から5人ほどお願いできないでしょうか? 時期も時期だから、独身の人が良いかもしれませんね」
「……もちろん出張費と警備費用は払います。いろいろ頑張っていただいているので、ささやかなお礼だとお伝えください」
「若いやつらが大喜びすると思います!」
「アメリカで大型のレンタカーを借りて、皆でカリフォルニア観光をしましょうよ。観光地もいっぱいありますから」
「匠、それは良いな! 父さんは、カリフォルニア観光に大賛成だ。皆さんはどうですか?」
全員が賛成だ。
「では準備してください。全員の準備ができ次第、出発しましょう」
***
2011年12月下旬――
警備員5人も含めて、全員が成田空港に集合する。
心なしか、皆が明るい顔になってきている。
良かった! 10月以降、本当にろくなことがなかったからな。
美月さんも参加してくれている。
カリフォルニア観光を一緒に楽しんでほしい。
優子も彩乃ちゃんもすごく喜んでいる。
空港で飛行機の時間待ちをしながら、3家族で話をしながら時間を潰していると、目の前を鈴森会長が通り過ぎる。
「鈴森会長!」と、俺が声を掛けると、鈴森会長が微笑みながら、こちらにゆっくりと歩いて来る。
「今年はいろいろ迷惑をかけたね。そうだ、紹介しておこう。この2人は長男夫婦だ。私の跡を継いでほしかったのだが、拒否されてしまってね。今はT大の教授をやっている。妻もW大の教授だ」
「……そしてこの子が私の孫の鈴森陽一、12歳だ。仲良くしてやってほしい」
「父さん、この子たちが、K社躍進の原動力になっている方々ですね。T大の私の研究室にも、ぜひ遊びに来てほしいな。今やっている研究にアドバイスをもらえると、とても助かるよ。どうかな?」
「あなた、自分だけじゃないでしょ! 私の研究室にも遊びに来てくださいね。来年の楽しみができたわ」
「日本に戻ったら、連絡させていただきます」
「君たち3人が……」と言いながら、陽一君が俺たちをじっと見ている。
「僕は天才じゃないし、学校の成績も普通だけど、ものづくりについては誰にも負けない自信がある。今はロボットを作っているよ。機械設計と金属加工は大得意分野だよ。家には金属加工機械もあるしね」
すごく元気そうだし、性格も明るそうだ。
保とは正反対か。
鈴森会長もニコニコ顔だ。
陽一君を後継ぎとして期待しているのだろうな。
この子なら大丈夫だと思う。
「孫と君たちが一緒になって、将来何かを作り上げてくれるとうれしいな」
「会長、だったら手術ロボットを作るのはどうですか。僕たちは、直接人の役に立つ分野の技術開発を、積極的にやっていきたいと思っています。手術ロボット開発なら陽一君の得意分野も活かせると思います」
「予定は美月に連絡しておく。サンタクララに孫を連れて会いに行くよ」
「お待ちしています」
「父さん、ちょっと待ってよ……私の研究室はロボット工学の研究室だよ! 私も一緒に行くに決まっているじゃないですか」
「私も行くわよ! 仲間はずれはダメよ。私だって医療工学が専門ですからね」
鈴森家は、本当に技術一家なのだな……
「分かった。1月4日には日本に戻るから、1月3日にサンタクララの家を訪問していいかな?」
「父さん、母さん、1月3日には観光も終わっているよね」
「大丈夫だ。とにかく観光で全員リフレッシュしないとな」
サンノゼの空港に着いて、会長たちとは別れる。
俺たちは大型のレンタカーを2台借りて、カリフォルニアの観光に出発だ。
ホテルも良いところを予約しておいたからね。
運転はSS警備の人がしてくれるので、俺たちは完全にツーリスト気分だ。
嫌なことは、すべて忘れよう……
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