USBメモリーと田沼の逮捕
一段落した後も、悔しい、怖い、悲しいが入り混じり、村岡家族が悔し泣きが止まらない。
「そうだ、坂下さんの自宅も放火されないように、部下を向かわせて下さい」
坂下さんが、あり得ることだと慌てて連絡を取っている。
「村岡さんたちは、しばらくは自宅で寝る気がしないでしょうから、気持ちが落ち着くまで、この家に一緒に住んで下さい」
俺の両親が村岡家族を労る。
「しばらくそうさせて下さい。F社の問題がはっきりするまで、さすがに怖くて自宅では眠れそうにありません」
「こんな時にと思われるかもしれませんが、村岡家の自宅修理代は未来技術研究所で出しますので、安心して下さい」
***
翌朝――
村岡家の放火の話を聞き、美月さんの顔が青ざめている。
「会長と調査部に話をしてきます」
美月さんがK社の東京支店に向かいますと出て行った。
***
15:00ごろ――
美月さんとともに鈴森会長が秋葉原ビルにやって来る。
「調査部がF社と話をつけていたにも関わらず、こんなことになり誠に済まない。玄関が焼け、放水で家の中も無茶苦茶になってしまったとのことだが、修理代はすべてK社で出させてもらう。本当に申し訳なかった」
会長と美月さんが、村岡家に頭を下げている。
「お世話になった会長に頭を下げさせるわけにはいきません。悪いのは田沼です!」
一通りの謝罪とやり取りが落ち着き、会長が会社に戻ろうと立ち上がったその時、俺は少し間を置いて声をかけた。
「会長、二人きりで大事な話をさせていただけますか? 相談に乗っていただけると助かります」
会長は黙ってうなずき、俺たちは研究室へ移動する。
ドアを閉めると、俺は封筒に入れたUSBメモリーを取り出し、会長に差し出した。
「田沼は危険すぎます。どうしようか悩みましたが、これを会長にお渡しします。このUSBメモリーは、どこからか送られてきたものです。誰が送ったのかは私にも分かりません。ただ、会長ならこれを有効に使えるのではないかと思いまして」
会長は封筒を受け取り、静かに顔を上げる。
「中身を見てもいいかな?」と言い、俺のノートパソコンにUSBを差し込む。画面にファイルが並ぶのを見ながら、会長の眉間にしわが寄る。
会長はデータを一つずつ確認し、唸るように言った。
「これは粉飾決算前の生データだ。田沼の会社は大赤字ではないか。それに、これは買収対象となった企業の経営者を脅すための調査記録のファイルだな。もしこれが公になるようなことがあれば、田沼は終わるだろう」
会長は一瞬画面から目を離し、深く息を吐いて続ける。
「経団連の友人たちも、田沼のやり口には黙っていないはずだ。この際、奴には身を引いてもらおう」
そして俺の顔をじっと見据え、言葉を慎重に選ぶように相槌を打った。
「匠くん、このUSBメモリーを送ってきた人物には、こういう動きは一回限りにしておくよう、必ず伝えなさい。あとは大人に任せなさい」
俺は深く頭を下げ、固い声で答えた。
「必ず伝えておきます。よろしくお願いします」
封筒を持って、鈴森会長が帰っていった。
***
会長がUSBメモリーを持ち帰って数日が経過した。
ニュース番組からアナウンサーの声が聞こえる。
またTV画面の下部には、事件の内容が表示されている。
『F社社長田沼氏の逮捕、粉飾決算の他に、犯罪に関与した可能性あり』という内容だ。
TV画面中央部には、田沼の顔写真とF社のビルの映像が表示されている。
「急成長を遂げたF社ですが、社長の経営方針に大きな問題があったようです。被害者への聴取も始まった模様……」とアナウンサーが伝えている。
粉飾決算だけでなく、企業買収の目的で、非合法なやり方で経営者を脅かしていたことにも捜査が始まっているみたいだ。
弟夫婦に放火をさせた、田沼の裏社会部隊にも警察の手が及べばいいのだが。
鈴森会長からのメールには……
F社の社長が交代することや、社内調査委員会により、不正と知りながら社長に協力していた幹部社員も、次々と逮捕されていると書いてある。
とにかく、さすがにこれで一件落着だろう。
田沼の逮捕を知り、裏社会のボスが急いで部下たちに指示をしている……
「事務所を急いで別のところに移すぞ。しばらくは潜伏だ。田沼はもうおしまいだ。財界の重鎮たちが本気になったみたいだからな。奴らが本気になったら、俺たちなんか、ひとたまりもないぞ」
「未来技術研究所には、もう手を出すな。それにしても、あのガキどもは何者なのだ? 財界の重鎮たちが本気で守ろうとするなんて! いずれにしても、金にならない上に危険な相手なんか、もう絶対に手を出すな。分かったな」
「ところで、あのバカな放火夫婦はどうしている?」
「隠れ家を教えてやりました」
「ああ〜、あの山奥のタコ部屋だな。それでいい。口外無用と脅しておいたな?」
「もちろんです。たっぷりと教育しておきました」
「田沼からの謝礼が期待できなくなった分は、奴らに働いてもらおうじゃないか。タコ部屋からもらっている前金をここに出せ。ほとぼりが冷めたら、田沼の家族からも謝礼分を脅し取ってやれ。容赦するな!」
「分かりました。お任せ下さい」
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