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転生して未来を変えろ  作者: ゲンタ


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ロックさせちゃいました

「今頃、F社は大騒ぎかな?」

俺がそう言うと、彩乃ちゃんはいたずらっぽく笑って首を振った。


「まだよ。順番があるから……」


彼女は指を2本立て、楽しそうに説明を始める。

「仕込んだウイルスは2つの機能を持っているの。感染すると特定のコマンドを入力するだけで、コンピューターに簡単に侵入できるようになる。これが1つ目、“いつでもどうぞモード”ね」


目を輝かせ説明を続ける。

「それから、侵入した後で同じく特定のコマンドを送ると、任意の時間にコンピューターを完全にロックできる。これが2つ目、“ロックモード”よ。もちろん解除用のコマンドも用意してあるから、好きなときに解除もできるわ」


「昨夜、午前4時に侵入者のIPアドレスを追跡して、ハッカーのパソコンに入ってみたの。“いつでもどうぞモード” で直ぐに侵入できたわ。」

彼女は肩をすくめ、まるで簡単なゲームでもしたかのような口ぶりだ。


「もちろん、世界中のサーバーをいくつも経由してるから、侵入者を特定することは不可能よ」


(彩乃ちゃん……本当に楽しそうだな……!)


「メールの送受信ファイルを確認したら、そのハッカーはF社の社員だったわ。田沼社長と直接、いろいろやり取りしていたわよ」

彩乃ちゃんは画面を示しながら、次々と証拠を列挙していく。


「しかも彼、他の会社のサーバーをハッキングした報告までメールしてたのよ。ダウンロードしたファイルもメール本文も、全部コピーして保存しておいたわ」

「……さらにね、律儀にも田沼社長宛てに『うちのサーバーに侵入できませんでした』ってメールを送っていたの。そのメールもウイルスに感染しているから、田沼が出勤して開けば、彼のパソコンも感染するわ」


彼女は小さく笑い、指で空中にキーボードを打つまねをする。

「仮に田沼が開かなくても、そのハッカー社員が感染済みのUSBを会社のパソコンに差し込めば、全社員のパソコンが感染するわ。社長のパソコンが感染源になるなんて……笑えるでしょ?」

「……そして一度感染すれば、会社のサーバーだって“いつでもどうぞモード”で簡単に侵入できるようになるわ」


満足げに腕を組むと、彼女は声を弾ませて続けた。

「会社のネットワークにウイルスが入ったかどうかは、サーバーを軽くツンツンしてやれば分かるのよ。今日のお昼12時にやってみるつもりよ。もちろん、例によって世界中のサーバーを経由して、ね」


***


12:00――


彩乃ちゃんがF社のサーバーにアクセスしている。

画面に向かって口元を引き締め、キーボードを軽やかに叩く手に迷いはない。


「ネットワークには簡単に侵入できたわ。まずは社長のパソコンに入ってみるね。ん……社長は食事中かしら? 今はパソコンが使われていないみたい。隠しフォルダーは見当たらないわ。パソコンに差してあるUSBのデータは、全部コピーしておいたから安心して」


彼女は小さく含み笑いを漏らし、画面のログを指でなぞる仕草を見せる。


「次はサーバーの隠しフォルダーを探すわ。隠しフォルダーが二つ見つかった。これも全部コピーしておくね。よし、これで完了。サーバーも全社員のパソコンも、13:00に一斉にロックするようにセットしておいた。フフフ……」


彩乃は満足げに肩をすくめ、にやりと笑った。


***


13:00――


予定どおり、F社のサーバーと全社員のパソコンに一斉にロックがかかる。

オフィスのネットワークが一瞬にして沈黙し、社員たちの画面は再起動しようが何をしようが頑として動かなくなった。周囲から小さなざわめきと怒声が上がる。


彩乃が満足げに唇を引き結び、俺は手元のUSBをぎゅっと握る。


コピーしてきた隠しフォルダーのデータは、きちんと暗号化され、ファイル名を変えつつ世界中のいくつものサーバーを経由して最終的にこちらのマシンにダウンロードされている。


彩乃曰く、追跡は事実上不可能で、コピーの痕跡も残らないため、絶対にバレない──ということらしい。


それを信じるしかない。俺は深く息を吸ってから、USBを自分のパソコンに差し込んだ。


ディレクトリを開くと、Excelで作成された複数の集計データファイルと、これまで買収・掌握してきた企業の社長や親族、経営幹部らの“弱み”を列挙した文書ファイルが並んでいる。


顔が引きつる。ファイルをひとつずつ開いて確認すると、今回のような偽装された人身事故の記録や、脅迫に利用した証拠のメモが混入していた。


隠しファイルに入れておくということは、Excelの方は裏帳簿のようなものなのだろう。


俺には細部の真偽までは計れないが、目の前のデータを見れば、見る人間には何であるかすぐに分かるはずだ。指先がわずかに震える。画面の行と列に並ぶ文言が、不思議と生々しく胸に刺さる。


これを切り札として使わねばならない事態にだけは、どうか至りませんように――。

そう祈るように心の中でつぶやき、俺はファイルを慎重に閉じた。


調査部に、F社のハッカーから再度ハッキングを受けたこと、その際にウイルスを持ち帰らせたこと、そのウイルスにより、F社のサーバーと全社員のパソコンがロックしていることを伝える。


Excelデータや弱みデータのことは伝えなかった。

そのデータがなくても、サーバーと全社員のパソコンがダウンしているのだ、調査部がF社と交渉する材料としては十分だろう。


俺たちはノータッチとしておこう。


F社は、サーバーと社員のパソコンがロックしているので、完全営業停止状態だ。

何日も続けば、会社は大打撃を受けるだろう。


***


2011年11月中旬――


F社は、全く仕事にならない状態が、既に1週間以上も続いている。


ハッカー社員は、田沼に頭を下げ続けている。

「社長に指示されて、未来技術研究所のサーバーをハッキングした際に、ひょっとするとウイルスに感染したのかもしれません。私から社長に送信したメールにも、すでにウイルス感染していたのかもしれません。不手際で大変申し訳ありません」


ということは……会社のサーバーや社員のパソコンすべてを、ウイルスに感染させた犯人は俺ということになるのか?

何という間抜けなことをさせられたのだ!



ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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