神の意図
「それとな……入ってくれ!」
鈴森会長が大きな声で呼ぶと、会議室に宮原元会長と保が入ってくる。
「康之のバカが、本当に迷惑をかけました。お母さん方も、本当に申し訳ありませんでした。許してはもらえないと思いますが、宮原家を代表して何度でも頭を下げさせてください。この通りです……」
2人は、ずっと頭を下げたままだ。
俺は、優子や彩乃ちゃん、母さんたちの方を見る。
頷いているのを確認してから言った。
「顔を上げてください。誰も怪我はしませんでしたし、宮原さんのせいでも、保君のせいでもありません。母さんたちも、優子ちゃん、彩乃ちゃんも、それでいいよね?」
皆が頷いてくれている。
「ありがとう。鈴森会長も、この機会を与えてくれてありがとう。保……帰ろうか」
2人の後ろ姿は、元気がない。
K社の会議室で会ったときには……すごく元気だったのに……。
翌日、鈴森会長が言っていた秘書が、秋葉原ビルを訪ねてくる。
名前は鈴森美月さん。今年、大学を卒業したばかりだそうだ。
8階の未来技術研究所の事務所で、自前のノートパソコンを開き、研究所宛に届いたメールをどんどんチェックして、まとめてくれている。
電話の応対も、きちんとしてくれている。
助かるな〜。考えてみたら、電話番を母に頼むなんて、ありえないかもな。
鈴森会長も、さすがにこれでは……と思ったのかもしれない。
彼女がいるだけで、「ここは会社なんだな」と思えてくるから不思議だ。
まあ、今までが今までだからね。
父と裕太さんが、若くて綺麗な美月さんに見とれている。
若い女性だからって、鼻の下を伸ばしていたら、母さんたちに怒られるよ!
優子と彩乃ちゃんも、美月さんに見とれている。
素敵なお姉さん……自分もあんなふうになりたい……というところかな。
1ヶ月ほど日本で過ごし、俺たちは再びアメリカに戻ることにした。
***
2011年7月――
サンタクララの自宅の庭で、ベンチに座りながら、いままでのことをいろいろ考えている。
前世では、俺たちが襲撃される前に、「AIが職を奪う」というネット書き込みが急激に増えていた。
それに対して今回の事件では、「日本人なのに量子コンピューター技術をアメリカに売り渡す天才児」というネット書き込みが急増していた。
手口が、前世とまったく同じだ。
前世で俺たちを爆殺した犯人は、歴史による修正力ではなく、宮原康之だったことが確定している。
ということで……前前世と前世で、14歳で死んだのは、ただの偶然であり、「14歳の呪い」みたいな年齢に関するものではない、ということになる。
どう頑張っても14歳で死ぬ運命なら、さすがに神様も俺を転生させなかったと思う。
もし本当に14歳の呪いがあるのなら、神様も「やめておけ」と言ったに違いない。
今回、康之による襲撃事件を阻止できた要因はなんだろう。
なんといっても、坂下さんのSS警備の存在だ。
警察も協力してくれたが――実際に、ビルの屋上からロケットを撃ち込もうとした犯人を取り押さえたのは、SS警備の猛者たちだった。
もし一瞬でも遅れていれば、あのロケット弾は発射され、俺たちは今ここにいなかったかもしれない。
さらに言えば、坂下さんの娘・彩乃ちゃんがいなければ、康之が俺たちを殺害しようとしていることを知ることすらできなかった。
結局のところ、俺たちが助かったのは坂下家族のおかげだ。
けれど、その坂下家族を救ったのは俺たちでもある。
人を助けたことで、自分の命も救われた――そう考えると、不思議な縁を感じずにはいられない。
思い返せば前世の俺は、人との関わりをほとんど持たず、自分の興味に没頭して部屋にこもり、研究だけを続けていた。
俺の研究が、いつか間接的に人の役に立つことはあっても、すぐに目に見える形で人助けになってはいなかった。
おそらく世の中の大半の人も、人助けを意識して生きているわけではないだろう。
けれど――神様からギフトを授かり、本来なら死んでいたはずの俺が今こうして生かされている。
「お前も人助けぐらいしろよ」――そんな神の意図が込められているのかもしれない。
前世で康之に命を狙われたとき、誰一人として俺たちを助けてくれなかったのは……それすら神様の意志だったのだろうか。
そう思うと、背筋がひやりと冷たくなる。
今世では、少なくとも村岡家と坂下家を救っている。
康之による襲撃事件を阻止できたのも、坂下家の力あってのことだ。
神様からギフトを授かった俺に課せられたのは――「多くの人と関わり、多くの人を助けよ」という使命なのだろうか。
「自分で考えろ」と神様が仰っていたのは、このことなのかもしれないな。
これまで俺たちが取り組んできたのは、セキュリティシステムの開発、量子コンピューターの開発、そしてセキュリティ分野に特化したAIシステムの開発だ。
もちろん、AIの研究はセキュリティ以外の分野にも及んでいる。だが、それらはすべて非公開としてきた。
セキュリティシステムや量子コンピューターの開発も、いずれは巡り巡って人を救う技術になるだろう。
しかし――もし神の意志が本当に「多くの人を助けるべし」なのだとしたら。
それは、遠い未来ではなく、今この手で、目に見える形で人助けができる技術を開発せよ、という意味なのかもしれない。
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