康之の逮捕とその後
坂下さんには、警察の動きが逐一知らされてくる。
平山弁護士からの情報だ。
康之の自宅と、殺し屋の事務所に警察が突入し、康之と殺し屋グループの幹部らしき男の身柄を押さえたそうだ。
さすが警察。
どうやったのか分からないが、殺し屋のアジトを探し出していたようだ。
それを聞いて、皆がほっとする。
康之も警察に連行され、殺し屋グループとともに警察署で取り調べを受けているようだ。
警察は、康之と殺し屋グループ幹部のスマートフォンの通話記録に加え、逮捕した襲撃部隊の自供などをちらつかせながら、2人に自白を迫る。
幹部らしき男の方は、どこ吹く風という態度だが、荒事に慣れていない康之は、震えながらすべて自白する。
警察での状況が、平山弁護士から逐次入ってくるのだが……どうやって情報を入手しているのだろう?
俺は鈴森会長に連絡する。
遅い時間だが仕方がない、緊急事態だ。
鈴森会長が電話に出る。
俺の声のトーンで、何か重大なことが起こったと察したようだ。
殺し屋に殺されそうになったことを説明した後で、宮原会長以外には絶対秘密として、康之の逮捕を伝える。
電話なので鈴森会長の姿は見えないが、驚いて愕然としている様子が察せられる。
さすがの会長も動揺しているのが感じられた。
「あ、ありがとう。感謝する」――その一言で、電話が切れた。
鈴森会長から宮原会長に、緊急連絡がいくだろう。
明日の朝にはマスコミも騒ぎ出すはずだ。
この連絡で、少しだけでも宮原会長に時間を作ってあげられるだろう。
宮原会長はこのあと、どうするのだろう!
保はどうなるのかな!
警察沙汰になった以上、俺がどうにかできることはない。
翌朝、宮原会長兼社長の辞任と、新社長就任のニュースが流れる。
関係者は「なぜ?」と思うだろう。
いずれ康之が逮捕されたという報道が出れば、すべてを察するだろう。
鈴森会長から連絡が入った。
「早く知らせてくれて助かったよ。A製薬には私の紹介で、ピンチヒッターの経営者が中継ぎを務めることになっている。何年か経って落ち着いたら、また一族の誰かが社長に選ばれるだろう」
会長は深いため息をつき、声を少し落とした。
「宮原会長からは、『息子が本当に申し訳ないことをして済まない。そして、連絡してくれて感謝している』……そう伝えてほしいと言われたよ」
苦々しげに顔をしかめながら、さらに続ける。
「……それにしても康之は、本当に出来の悪いやつだ。A製薬が危うく潰れるところだった。社員に責任はないのに、彼らとその家族が路頭に迷うようなことは絶対にあってはならない」
そして一呼吸置いてから付け加える。
「アメリカにいる保君のことだが、お母さんと一緒にいるから心配はいらないそうだ。……もっとも、あのAIの会社は畳むことになるだろうな」
今回の事件については、A製薬がマスコミを押さえ込んだのだろう。
報道は必要最低限にとどめられ、大騒ぎするメディアはほとんどなかった。
――俺たちにとってもそれは好都合だった。
この秋葉原ビルにマスコミが押しかけてくるような事態は、何としても避けたかったからね。
しかし――「ロケットランチャーを持った襲撃犯から秋葉原ビルを守り抜いた」という噂は瞬く間に広がり、SS警備の評価は業界で急上昇していた。
以来、SS警備への警護依頼は途切れることなく増え続けているという。
この経験は社員たちにとって大きな誇りとなり、きっと今後は入社希望者も増えていくだろう。
ともあれ、前世で遭遇した“過激派襲撃事件”に相当する出来事を、今回は見事に跳ね返したのだ。
これで――もう危険は去ったはず。
(相馬家が殺される、そんなイベントは……どうか二度と起こらないでほしい)
本当に、神様。もう十分です。……どうかお願いします。
***
2010年7月――
康之が作ったマサチューセッツの会社だが、鈴森会長の予想とは少し違った展開になった。
保がAIの研究を継続し、お母さんの弟が社長となって、会社は存続することになる。
保のお母さんが「潰すには惜しい」と判断し、弟を社長に就任させたようだ。
康之が逮捕されたことを知って、保の家ではお母さんが大荒れだ。
「これから、どうすればいいのよ! 康之の奴があんなことをしてしまい、会長も辞任してしまったわ。いずれ宮原の一族から社長が選ばれることになるけど、会長の直系の保がA製薬の社長になる目はもうないわね」
「こうなったら、このAIの会社を継続するしか、私には道がないのよ。だって、AIの開発はあなたがいればいいんでしょ! どうせ私たちは宮原一族からは追い出される予定だったしね。経営の方は弟に任せれば大丈夫。保、頼むわよ」
「ところで元会長がここに来るらしいけど、保は会う必要などないわ。どうせ私たちは、宮原一族とは関係がなくなるんだから。分かった?」
保のお母さんも、自分中心で考える人なのだ。
そして、保は相変わらず優柔不断だ。
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