警備会社をゲットした
「すみません、何百万円ものお金を今すぐには用意できません……」
坂下さんが申し訳なさそうに、小さな声で言う。
「銀行金利であなたにお金を貸しますよ。平山弁護士に金銭消費貸借契約書を作ってもらいますけどね。私は消費者金融じゃないので、安心してください」
父が坂下さんに説明している。
坂下一家、喜んでいるな……死ぬか生きるかの瀬戸際だったと思うからね。
両親も“横領”という言葉に、自分たちの過去を重ねてしまったようで、まるで自分たちが救われたような顔をして満足そうにしている。
「話がつくまでは、消費者金融の人間とは接触しないほうがいいです。話は2、3日でまとめますから、安心してください」
平山弁護士がそう言ったので、坂下一家は今日からうちに泊まってもらうことになった。
坂下さんは、平山弁護士と一緒に金銭消費貸借契約書の確認と、家族の当面の着替えなどを取りにアパートへ向かう。
用事が済めば、こちらに戻ってくる予定だ。
平山弁護士の車で行って帰るだけなので、2時間もかからないだろう。
***
15時ごろ――
雅人さんが戻ってくる。
父と母は、晩ごはんを坂下家と一緒に食べながら、苦労話をするつもりのようだ。
“苦労しました”という共通項があるからね、きっと盛り上がると思う。
初対面の人を家に泊めるのは少し心配だけど、父と母がその気になっているから仕方がない。
坂下家族が良い人であることを祈る……。
俺はいつも心配しているな。
同じ人生を3回も経験している苦労人だから、仕方ないと思う。
母は、坂下母娘と一緒に夕食の買い出しに出かけるようだ。
(あれ? 父さんたち、もう飲み始めてるの……?)
1時間後、母さんたちが戻ってくる。ずいぶんいろいろ買い込んできたな。
完全に飲む気満々だ。
坂下さんたちも安心したのか、皆の表情が明るくなっている。
料理を囲みながら、会話が弾む。
若い頃の話になり、坂下さんが総合格闘技の選手をやっていたことが判明する。
意外な経歴だな……
今の坂下さんは本当に痩せていて、とても総合格闘技の選手だったようには見えない。
3年間の借金返済生活が、どれだけ過酷だったかが分かる。
今日はいっぱい食べて飲んでほしい。無限借金返済地獄は、もう終わったんだから。
坂下さんは、現役時代から若い選手たちの面倒見がよく、人望も厚かったようだ。
彼が警備会社を起業した際には、引退した選手たちが次々と入社してくれたという。
「腕っぷしの強い社員が多く在籍する警備会社として、VIPや芸能人などからの警護依頼が多かったんです。あの横領事件さえなければ、絶対に大きな会社に育っていたはずだったんですよ……」
……坂下さんは何度も何度も悔しそうに語る。
その話を聞きながら『家族を守ってくれる人が現れてくれたじゃないか……』と、俺は内心ガッツポーズ。
前世とは違う展開だ。それも良い方向に向かっている!
何としても、坂下さんには警備会社を再建してもらわないと。
「坂下さん! もう一度、警備会社を始めませんか?」
子供らしい無邪気な雰囲気で聞いてみる。
「もちろん、もう一度チャレンジしたいですよ!」
雅人さんの目が力強く輝いた。
「会社が倒産し、社員たちはバラバラに再就職してしまいました。でも少しでも早く、自分の会社に呼び戻したいんです」
言葉の後、拳を膝の上で固く握りしめる。
「……でもそのためには、まず資金を貯めないことには、どうしようもありません。正直、もどかしい限りです」
俺は姿勢を正し、静かに切り出した。
「母さんが社長を務めていますが、実質的には私が経営している“未来技術研究所”という会社があります」
「私と友人の優子ちゃんでAIやセキュリティソフトの開発を進めていて、“KSセキュリティ社”とは月400万円、“A製薬”とは月300万円のコンサル契約を結んでいるんです」
(――子供?……会社?……月に700万円……?)
坂下家族は顔を見合わせ、目を丸くして俺を見ていた。
姿は子供、けれど語っている内容は完全に大人のそれだ。
確かに奇妙に映るのも無理はない。
でも仕方ない。なにせ人生は三度目……累計すると36歳なのだから。
「“未来技術研究所”が出資しますので、坂下さん、新しい警備会社を立ち上げませんか? 実は僕たちを守っていただきたいんです」
俺はまっすぐ雅人さんを見つめた。
「“KSセキュリティ社”の“K”は、あの鈴森会長の“K社”のKです。そして“S”は“ Sシステム ”という東証一部上場企業の頭文字です」
坂下夫妻がさらに驚いた表情を浮かべる。
俺はわざと声を落とし、少し真剣な調子に変えた。
「……子供がこういうビジネスをやっていれば、いずれ悪意ある大人たちに目をつけられるでしょう。つまり、誘拐のリスクがあるということです」
「いずれ“未来技術研究所”の開発拠点はシリコンバレーに置こうと考えていますし、アメリカに行けば誘拐の危険はさらに高まりますから」
(――開発拠点?……シリコンバレー?……誘拐?……何を言っているんだ……?)
坂下家族の誰もが、ぽかんとした顔で固まっていた。
前世で味わった現実だからこそ、つい当然のようにアメリカ行きの話を口にしてしまったのだ。
「坂下さんには、アメリカの警備会社で、武器の使い方や爆弾処理、テロ対策の技術を学んできていただきたいと思っています。期間は短いですが、半年で何とかすべて学んできてください」
(――アメリカの警備会社? 武器の使い方や爆弾処理……?)
「以前の社員の中で優秀だった方を1人か2人連れて行っても構いません。費用はすべて、未来技術研究所が負担します」
(話が飛びすぎて……意味が……理解が追いつかない……)
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




