坂下家との出会い
お父さんの名前は坂下雅人さん、お母さんは智子さん、そして娘の名前は彩乃ちゃんという。
……雅人さんの話を要約すると……
雅人さんは、かつて警備会社の社長を務めていた。
会社の経営は堅調で、社員や取引先からの信頼も厚かったが――最も信じていた部下に横領されてしまい、会社の資金繰りが一気に悪化する。
資金繰りは日に日に厳しくなり、支払いは綱渡り状態。
雅人さんは何とか立て直そうと必死に金策に走る。
しかし、すぐに融資を引き受けてくれる銀行などあるはずもない。
もともと横領事件がなければ経営は順調であったため、「今をしのげば再建できる」と安易な判断をしてしまう。
結果、消費者金融から高利の資金を借りてしまう。
しかし、こういう時に限って起こってほしくないトラブルが発生した。
大口の顧客とのトラブルだ。予定されていた入金が滞る。
たちまち資金はショートし、会社はあっけなく倒産へと追い込まれてしまう。
銀行からの負債は、自宅や会社名義のビルを手放して何とか返済した。
しかし、消費者金融からの借入金はそのまま残ってしまった。
高利で借りているため、夫婦で昼も夜も懸命に働いて返済しても、利息すらまともに減らせない状況になった。
それからの3年間……家族はボロボロアパートに身を寄せ、必死に返済を続けた。
だが、働いても、働いても、終わりの見えない借金に追われる日々は、2人の心を確実に蝕んでいった。
(このまま、もう少し頑張るべきか……それとも、人生に区切りをつけるべきか!)
疲れ果てた夫婦は、かつて自分の会社だったビルを遠くに望む橋の上で、そう自問し続けていたというのだ――。
何だか、前前世での俺の家族の状況に似ている!
坂下家にとっては、人生の分岐点で俺たちに出会ったということだな。
両親は「部下の横領」という話を聞いて、千葉のことを思い出してしまう。
放っておけないスイッチが入ったようだ。
「自分の会社の顧問弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。その顧問弁護士はとても優秀なので、良い案が出てくるかもしれません。相談料は私が出しますから、大丈夫です」
……父が弁護士への相談を勧めている。
坂下さんは一縷の望みに賭けたくなったようだ。
「ぜひ、よろしくお願いします」と頭を下げる。
智子さんも、彩乃ちゃんも一緒に頭を下げている。
この出会いに賭けてみたいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
「私たちの家に来ませんか? すぐ近くです。顧問弁護士を呼びますので、何か良い解決方法を考えてもらいましょう」
坂下家族とともに自宅へ向かう。
歩きながら、父が平山弁護士に電話をしている。
(見ず知らずの人に、こんなに入れ込んで大丈夫なのか……!)
秋葉原ビルの自宅に案内し、母が坂下家族にお菓子と紅茶を出している。
女の子にはジュースだ。
お菓子を食べてもらいながら、全員が平山弁護士を待っている。
知らない者同士で待つ時間は、やたらと長く感じるな……。
そもそも、見知らぬ者同士で、ここまですることも……普通ではないだろう!
「ところで彩乃ちゃんは、どんな遊びが好き?」
「本を読むのが好きだよ」
「絵本とかはないけど、僕の部屋にコンピュータの本があるよ。写真とか載っているから、見るだけでも面白いと思うよ。持ってこようか?」
「読みたいです!」
「じゃあ、適当に持ってくるね」
「匠、写真がいっぱい載っているのがいいわよ」
「父さんの本にも、建物の写真がいっぱい載っているのがあるけどな」
ずっと沈黙しているのは辛いからね。
大人たちはみんな、「本の話をしてくれて助かった……」という目で俺を見ている。
俺は本を取りに部屋へ向かったが、リビングでは坂下さんと父が「建築関係のお仕事をされているのですか?」といった会話を始めており、場の空気がほぐれて皆がほっとしている。
持ってきた雑誌を彩乃ちゃんに渡すと、コンピュータの紹介記事を難なく読んでいる。
あれ、この子……ひょっとすると、優子と同じタイプなのかもしれないな……?
他愛もない話を2家族で交わしながら、1時間ほどが経過する。
***
やっと平山弁護士が到着した。
彼は慣れた様子で資料を机に広げ、重要なポイントを確認しながら淡々とメモを取っていく。
一通り話を聞き終えると、眼鏡の位置を直し、落ち着いた声で説明を始めた。
「重要な点は確認させてもらいました。この後、坂下さんのご自宅に伺い、金銭消費貸借契約書を拝見します。厄介な契約になっていないか、しっかり確認しておきます」
雅人さんが小さくうなずく。
弁護士はペンを指先で揺らしながら、さらに言葉を続けた。
「次のステップは、消費者金融業者との交渉になります。これまでの3年間で既に返済された金額を提示しつつ、『このあたりの金額で妥協しませんか』と持ちかけることになるでしょう」
智子さんは不安げに手を握りしめ、じっと耳を傾けている。
平山弁護士はその視線を受け止め、軽く口元に笑みを浮かべた。
「あまりに高い金利設定は法律違反です。こちらとしては、相手の痛いところをチクチク突きながら、警察や検察、そして自分の人脈をフル活用して交渉します。……まあ、少し脅してやりますよ」
その言葉に場の空気がわずかに和らぎ、雅人さんも小さく苦笑を浮かべる。
弁護士は真顔に戻り、落ち着いた口調で結論を示した。
「最終的な落としどころとしては、何百万円かの一括返済で話をまとめることになるでしょうね」
――お〜、さすが優秀な弁護士さんだ。
今後も延々と高利の利息を払い続けるより、はるかにましな展開に思えた。
父はすぐに身を乗り出し、平山弁護士に向かって言った。
「平山、それで話をつけてくれないか」
平山弁護士は「毎度あり……報酬も忘れないでね」といった感じだ。
我が家は本当に、上得意先になっているな!
もうこの件は、この優秀な弁護士に任せておけばいい。
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