裕太さん未来技術研究所に入社
「その方がいい。保は前世の記憶があるから、AIには詳しくなっていると思うけど、AIには関わらない方がいいと思う。過激派に殺されるかもしれないからね」
「……それと、転生のことは誰にも言わない方がいいからね。神様からも言われているでしょ! これは絶対に、絶対に守った方がいいからね!」
「分かっているよ。それは絶対に守る。前世ではお世話になりました。ありがとう。じゃあ、さようなら」
保君が宮原会長のところに戻っていく。
「お祖父様、僕はAIのことはやりたくないな。彼らはいい子だけど、他の友達がいいかなと思います」
「そうか。保が興味を持ちそうなことをやっている他の友達を探そうな……」
「ありがとうございます」
(あの子たちとなら仲良くやれると思ったのだが……残念だ……)
『保、元気でね……』と、俺と優子は心の中で見送る。
その後は、いつものように会長室でお菓子を食べ、お土産をもらって車で自宅に送ってもらう。
***
翌日――
村岡一家がやってきた。
リビングに通してお茶を出すと、村岡さんは湯飲みに口をつけ、一口飲んでから姿勢を正した。
「未来技術研究所でお世話になります……」
深々と頭を下げる。
「そんなことはやめてください。こちらこそ、村岡さんに参加していただけて心強いです」
俺は笑みを返しながら言った。
「ところで、優子ちゃんとはTV会議システムを使って研究を進めていますが、村岡さんはどのような形で仕事をされますか?」
「池田さんが打ち合わせに来られるときは、秋葉原で顔を合わせていただく方がいいと思います。ただ、それ以外は自宅からTV会議システムを使っていただいて構いません」
裕太さんは顎に手をやり、少し考え込む。
「これまで毎日ネクタイを締め、会社に通ってきましたから……自宅で仕事というのは、どうも慣れないですね。秋葉原のビルに通勤することにします。あそこには和也さんもおられるのですよね。おじさん2人組で仲良くやりますよ」
「分かりました」
俺はうなずき、真剣な口調に切り替える。
「では仕事の話になりますが、まずは池田さんと連絡を取っていただき、どのようなAIシステムを開発すべきかをまとめていくべきだと思います」
裕太さんはさっそく仕事の進め方を考え始めたようだ。
「それと……宮原会長から、技術コンサルタント料を月に300万円でどうかと打診されています。正直なところ、300万円という額が適切なのかどうか、私にはよく分からなくて……」
「そう言われてもな……」
裕太さんは苦笑しながら首をかしげた。
「私はサラリーマンだったから、コンサルタント契約なんてやったこともない。300万円が高いのか安いのか、判断がつかないんだ」
「K社との契約は月400万円です」
俺は付け加えるように言い、軽く肩をすくめた。
「とはいえ、それが妥当なのかどうか、私も分かりません。この機会に、村岡さんの方でコンサルタント契約の相場を調べていただけると助かります」
村岡さんは真剣な顔でうなずく。
「そうだね。私の方で調べてみるよ」
***
2006年9月――
新薬開発のアシストAIシステムに求められる要件がある程度整理され、9月にはプロトタイプが出来上がる。
次はこのプロトタイプに対して、AIシステムに求められる最終的な要件の絞り込みを行う。
着々と進んでいるという感じだ。
村岡さんの意見がすごく役に立っている。優秀な人なのだと思う。
村岡さんのおかげで、開発の方向性が明確になっているし、アシストAIシステムのコンセプトもしっかりとまとまっている。
前世では、エース池田がすごくやりにくそうにしていたけど、今回は村岡さんとのキャッチボールなのでスムーズそうだ。
村岡さんも、エース池田とのコラボが楽しそうだしね。
やはり仕事は、楽しんでやらないとね。
そうか……仕事だよな……仕事。
前世では、仕事とか意識せずに、趣味というか遊びの延長で研究をしていたと思う。
社会に出たことがない子供3人でやっていたからね。
遊びでお金が入るのならそれでいいし、株で稼いだお金もあるから、仕事としてお金を稼ぐとか……そんなこと、どうでもいいという感覚でやっていたな。
社会のためとか、人のためとかも、まったく考えてなかった。
“アシストAIシステムの開発”にしても、前世では、新薬開発に興味が湧かないという理由で、保に放り投げてしまっていたな。
前世と違い、一緒に仕事をする大人がいると、同じことをやっていても、視点を変えて見ることができる。
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