保との再会
俺たちは、3ヶ月に1回の頻度で、会長にプレゼンを行う予定にしている。
7月は鈴森会長を訪問し、研究成果をプレゼンする月になっている。
いつものように、お迎えの車が自宅にやってくる。
俺は母と一緒に車に乗り込む。
優子も、裕太さんと一緒に車に乗ったはずだ。
会議室でのプレゼンでは、“セキュリティシステムとAIの融合に関する研究”について発表することになっている。
“AIシステムの開発”は“セキュリティ分野”に限定する方針なので、それ以外の分野についての“AIシステムの開発”については、社員の人たちがAIに関する理解を深められるような入門的な解説にとどめるつもりだ。
会長室でセキュリティシステム事業の担当役員と話をした後、俺たちは会議室へ移動する。
母と村岡さんは、会議室の後ろのほうに座っている。
前回と同様、プロジェクタースクリーンに一番近い場所が鈴森会長の席になっている。
予想通り、宮原会長がその隣に座っていた。
宮原会長の隣には、保がいた。
冒頭の挨拶を終えた後、セキュリティシステムとAIの融合に関する研究についてのプレゼンを始める。
一通りプレゼンが終わると、会場から拍手が起こる。
本来であればここで終わりだが、宮原会長が来ているので、もう一つプレゼンを追加する。
膨大な組合せの中から、“最適な組合せを見つける作業をアシストするAIシステム”についてのプレゼンだ。
K社の社員たちも、これがどんな業務やシステムに使えそうかを考えながら、興味深く聞いている。
説明が終わると、前回と同様に会場から拍手が起こる。
これでプレゼンはすべて終了だ。
会議室に集まった人たちも、適宜解散していく。
予想通り、宮原会長から声がかかる。
「今、見せてもらったアシストAIシステムは、新薬開発に応用できそうだ。ぜひ、A製薬と“技術コンサルタント契約”を結んでもらえないかな?」
「このAIは、私の横にいる村岡優子さんと一緒に開発したものです。そして、優子さんのお父さんは村岡裕太さんです。裕太さんは、会議室の後ろに座っておられます」
宮原会長が後ろを振り返り、会長と裕太さんの目が合う。
「君は、うちの研究員だった村岡君か。息子の件ではいろいろ迷惑をかけたな。会社を辞めたそうだな……いろいろ申し訳ない。きっと、いろいろ言う奴がいたのだろうな」
「……ところで……このアシストAIシステムはいいな。娘さんが開発に関わっているのなら、君もこの開発に協力してもらえないだろうか?」
「宮原会長、僕は村岡さんに“未来技術研究所”に入っていただけないかと、お誘いしているところなのです」
「それはいいな。“A製薬と未来技術研究所の橋渡し役”を、薬品開発経験のある村岡君がやってくれるなら、最高じゃないか。ぜひお願いしたいが、どうだろうか?
村岡君への迷惑料も含めて、コンサルタント料を上乗せしておくよ」
宮原会長が裕太さんのほうへ歩み寄り、両手を握って頭を下げる。
「会長、頭を上げてください。いろいろご迷惑をおかけしたのは私のほうです。会長さえよろしければ、未来技術研究所の社員として、開発の橋渡し役をやらせていただきます」
「A製薬の研究所の担当者は、池田君にお願いしよう。池田君は知っているな?」
「池田は、私の同期で友人です。ぜひ、よろしくお願いします」
「匠くん、未来技術研究所の場所はどこだね?」
「秋葉原です。少し古いビルですが、そのビルを来年、建て替える予定です」
「おお〜、そうかそうか! さっそく池田君を行かせることにするよ」
宮原会長に未来技術研究所の名刺を渡す。
エース池田の登場だな。少しずつ違ってはいるけど、前世を概ねトレースしている。
「ところで、この子は私の孫で、保と言う。鈴森会長から君たちのことを聞いてね。ぜひ君たちに会わせたくて、K社に来たのだよ。保、友達になれそうかな?」
「はい……」
(相変わらず声が……小さいな……!)
前世と同じで、人とのコミュニケーションは苦手なのだろうな。
「会長、僕たち子供の3人で、話をしてもいいですか?」
「保、3人で話をしてみてはどうだ」
宮原会長から少し離れた場所に移動して、保と話をすることにした。
「保君、このプログラムのコードを見てみる?」
「はい」
(……あれ? ……前世と違って、保君の反応が悪いな……?)
「ひょっとして、保も……」と思い、“転生”というキーワードを小さい声で投げかけてみる。
保がビクッとしている。
「君たちも……なの?」
保が、おどおどしながら小さい声でつぶやく。
「そうだよ。懐かしいね。だけど保、この人生では俺たちとは行動を共にしないほうがいいと思う。あんなことがあったからね」
「匠くん、優子ちゃん……ごめんなさい。もうあんな怖い思いはしたくないんだ。そうさせてもらうね」
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