俺たちを殺したのは誰だ?
「もちろん、自分たちが殺されたのが“歴史の修正力”によるものではない可能性も考えてみた」
俺は顎に手を当て、少し間を置いて言葉を続ける。
「その場合、誰かの意思で殺されたことになる。もし雇われた殺し屋にやられたのだとしたら、“過激派集団の噂”というのは、殺そうとした側に疑いが向けられないよう、意図的に流された偽情報ということになる」
優子は眉を寄せ、険しい表情を浮かべた。
「殺そうと意図した人間は……いったい誰だと思う?」
「康之の指示で、前世における私の両親が亡くなったのだとすれば、康之は平気で人を殺せる人間だということになるわ」
彼女は唇を固く結び、静かに吐き捨てるように言った。
「何らかの理由で康之が前世の私たちを邪魔だと思ったとするなら、殺そうと考えても不思議じゃないわね」
「俺もそう思う。康之が作った前世のAI会社がうまくいかないのを、俺たちのせいだと勝手に思い込み、誰かを雇って殺させた可能性がある」
「匠の推理は当たっていると思う」
優子は目を伏せ、少し震える声で言った。
「私たちが殺された原因は、“歴史の修正力”による可能性が5%、康之の身勝手な判断による犯行の可能性が95%ぐらいじゃないかしら?」
「でも証拠がないことだし、ここは少し冷静になろう」
俺は掌を上げて宥めるように言い、深呼吸を一つ置いた。
「少なくとも、“康之に殺される可能性がある”と分かっているだけでも、前世よりは一歩前進だと思う」
優子は腕を組み黙り込む。
俺はそんな彼女を横目に見ながら、話題を少し先へ進めた。
「ところで、微妙に変化はしているけど……3回目の俺の人生が、前世の流れをなぞるように進んでいるのだとすれば、やがて宮原会長と保が登場してくるはずだ。だが俺は、この人生では保と一緒に行動するつもりはない」
俺は背筋を伸ばし、力を込めて言った。
「康之が俺たちを殺した原因が、自分のAI会社がうまくいかなかったことにあるのだとすれば……保がAIに関わらなければ、そのAIの会社そのものが存在しないことになる。保も苦労しないで済む」
優子が小さく息を呑む。
俺はその反応を確認しながら、声を落として続けた。
「それに、“歴史の修正力”でもなく、康之でもない、想定できない何かが俺たちを殺そうとした場合に……保を巻き込んでしまうのは、避けないといけないと思う」
「実業界のパートナーは、前世と同じくK社の鈴森会長にしようと思う。何かあったときに頼れる人だし、優子のお父さんも助けてもらったしね。前世では、自分のおじいちゃんみたいな気がしていたよ」
「それは私も同じ! ああいう人は大事にしないとね。ところで、宮原会長はどうするの?」
「前世の流れがトレースされるのであれば、鈴森会長が俺たちのことを宮原会長に伝えるはずだ。であれば、次回のプレゼンに保を連れて、宮原会長が来る可能性が高い」
「宮原会長は鈴森会長とも親しいようだし、孫には甘いけど、ちゃんとした人だから、接点は持っておこうと思う」
「話が長くなったけど、今まで話してきたように進めたいと思っている。優子はどう思う?」
「賛成。危ない道であろうと、どこまでもついていくし、協力するわよ、兄さん!」
「ありがとう。それと、前世では研究しかしていなかったけど、これからは自分たちを守ることも、いろいろ考えていこうと思う。研究のほうは、セキュリティソフトのプログラム開発を優子が、セキュリティソフトに組み込むためのAI開発は僕がやろうと思う」
「重い話はここまでだよ。さあ、楽しい研究を始めようか」
「実は、父が6月でA製薬を辞めたの……」
「そうか。先日、家に来たとき、“職場には居づらい”という話をしていたね……」
「宮原会長による社長解任と同時に、不正行為を知っていながら臨床試験のデータ改ざんを指示していた取締役も解任され、関わっていた管理職もほとんど退職させられたみたいなの」
「これで会社も正常に戻り、落ち着くかと思っていたところ。『村岡さんがやったことは正しい。間違ってもいない。けれど、やりすぎじゃないか! 宮原会長にまで頭を下げさせるなんて……!』という噂が、社内で囁かれ始めたそうなの」
「匠のお父さんが言っていたみたいに、生き残った社長派の社員が、そうした噂を流しているみたい! 卑劣で姑息なやり方だわ。父はそのプレッシャーに耐えられなくなって、会社を辞めてしまったの」
「今月から転職活動をしているけど、“社長の首を取った男”という噂が製薬業界を駆け巡っていて、採用してくれる企業はまったく見つからないそうよ」
「ということは、“未来技術研究所”でお父さんの仕事を作ればいいってことだよね」
「どうやって?」
「前世で、エース池田とやった、あれだよ……あれ……!」
「ああ、そうか」
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