優子がどうしたいか決めてくれ
「ところで、匠くんと優子は仲がいいな。恵、何か聞いているか!」
「7歳と6歳の子供に、変なこと言わないでくれる?」
「それもそうだよな。匠くんと話していると、何だか大人と話をしている気がしてな……つい勘違いしちゃったよ……」
――3回目の人生なので、累計すれば35歳。全然間違っていませんよ。
優子と仲が良いのは、前世で兄妹だったからだよ。
前前世や前世の話は、俺の両親も、優子の両親も、聞かないほうがいいと思う。
かなり辛い話になるからね。
村岡さんはビールで顔が赤い。父も真っ赤だ。
裕太さん、未来技術研究所に誘ったことは、どうか覚えておいてほしい。
あれから優子とはメールでやり取りをしながら、研究を進めている。
鈴森会長からは、自宅に最新鋭のパソコン、ノートパソコン、プリンターまで送っていただいた。
「自由に使って良い研究をしてください」との趣旨の手紙も添えられていた。
さすが鈴森会長。太っ腹です。ありがとうございます。
***
2006年5月――
母を社長にして、「未来技術研究所」という非公開株式会社を設立した。
研究所の事務所は、秋葉原ビルの住所で登記。父の会社と同じだ。
***
2006年7月――
前世より2年早いが、セキュリティシステム関連については、前世と同じ流れをトレースしていく。
K社とSシステム社の共同出資で、セキュリティシステムの開発と販売を行う会社が設立され、名前は「KSセキュリティ社」となる。
俺はこのKSセキュリティ社の大株主になると同時に、技術コンサルタント契約を結ぶことになる。
KSセキュリティ社では、一般ユーザー向けのセキュリティソフトを開発し、来年から販売を開始する予定だ。
売れ行きはゆっくりになると思うが、それでいいと思う。
想定外の問題点をつぶしながら、2年くらいかけてソフトを完成させるのが理想だ。
その次のステップは、企業向けのセキュリティシステムの構築と販売。
ここが本命だ。
ここまで来れば、KSセキュリティ社は大企業の仲間入りができるはず。
コンサルタント料は、月額400万円に設定している。
まだ売上のない時点なので、高いのか安いのか判断は難しいが、会社が成長すれば、将来的に報酬体系を見直すつもりだ。
増額やロイヤリティ方式にするかもしれない。
2007年に秋葉原のビルが完成するまでは、俺と優子はそれぞれの部屋で研究を進めていくことになる。
鈴森会長からもらった最新鋭のパソコンセットがあるし、TV会議システムで優子の部屋とは、高速回線を常時接続にしている。
距離は離れていても、コミュニケーションに問題はない。
KS社との連絡や打ち合わせも、ほとんどがTV会議で済んでいる。
今日は、優子と大事な話をしようと思っている。
3月から優子のお父さんの件でバタバタしていたが、一度きちんと話しておかないといけない。
このまま前世をトレースしていけば、前世と同じように、俺が14歳になる2013年に、優子が爆発に巻き込まれる可能性が高いのだ。
両親の交通事故という不幸な未来は回避できたわけだから、今後はTV会議でつながるくらいの距離感を保った方が、安全だと思う。
いろいろ考えながら、三度目の人生では、優子やその両親とは、どう関わるべきか悩んでいる。
優子に、今の俺の考えをすべて打ち明け、これからの関わり方を彼女自身に決めてもらおうと思った。
「今、考えていることを全部話すね。大事な話だ。ちゃんと聞いてほしい」
俺は優子をまっすぐ見つめて言った。
「……優子は転生で2度目の人生を送っているけど、実は俺は3度目なんだ。つまり、2回も転生している」
「3度目のやり直し人生……?」
優子の目が大きく見開かれ、息を呑む気配が伝わってきた。
「まず1回目の人生では、2009年に父の設備会社が倒産した。倒産時、父は消費者金融から高利で借りた多額の借金を抱えていた。そのとき、俺はまだ10歳だった」
優子は眉を寄せ、小さく頷きながら耳を傾けている。
「……両親は必死に返そうとしたが、どれだけ働いても利息すら返済できなかった。2014年、借金返済地獄に疲れ果てた両親は、ついに死を選んだ。俺も14歳で一緒に死んだんだ」
「そんな……匠に……そんな辛い過去が……」
優子は両手を膝の上で握りしめ、瞳を潤ませている。
「死んだあと、優子も行っただろ? 神様と面談する場所。そこが同じかは分からないけど……そこで俺は、父親が破産し、食べるものにも困り、学校ではいじめを受け、借金返済に疲れ果てて……っていう話を神様にしたんだ」
「……同じ。私もアメリカで死んだ後、神様と会ったわ」
優子が小さくうなずき、共感を示す。
「神様から『これからどうしたいか?』と聞かれて、俺は“過去の自分に転生して、家族の悲惨な人生を変えたい”と答えた。そして天才級の頭脳と前世の記憶をギフトとして授かり、過去の自分に1回目の転生をしたんだ」
俺は深く息を吐き、続けた。
「まずは破産を回避しなきゃいけないと思って、前世の記憶をもとに3歳から株取引を始めた。とにかくお金を増やそうとした。その結果、資産を築くことに成功したし、父さんを騙していた“千葉”って社員に損害賠償をさせることもできた」
優子は目を潤ませながらも、真剣な眼差しで俺の話を受け止めていた。
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