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転生して未来を変えろ  作者: ゲンタ


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康之の焦燥

保はマサチューセッツ州の住宅に、両親と一緒に暮らしている。

だが、彼はひたすら自分の世界に閉じこもっていた。

それは逃避であると同時に、かろうじて自分の精神を守るための最後の防御でもあった。


家の中では常に、ピリピリとした緊張感が漂っている。

リビングにいても、廊下を歩いていても、両親の苛立った意識が突き刺さるように感じられる。


あの穏やかで温かかったサンタクララの家の空気とは、まるで別世界だ。


父は額に皺を寄せ、声を荒げる。

「おまえは頭が良いはずだろ! なぜMITの研究者たちとまともにコミュニケーションが取れない! なぜいつも下を向いているんだ! おまえがディスカッションをリードしなければ、AI開発は一歩も進まないのだぞ。分かっているのか!」


母は腕を組み、鋭い目で睨みつける。

「あなたはサンタクララで何をしていたのよ。幼児でもないのに、いつまでオドオドしているつもり? そんな態度で、よくS大の教育プログラムに参加できたものだわ」


冷たい吐息を漏らし、さらに言葉を突き刺す。

「……『匠とかいう子供と一緒に暮らさせろ』と会長が強引に言うから黙っていたけど、あなたはちっとも成長していないじゃない。私をがっかりさせないでよ!」


保は椅子の端に縮こまり、手を膝の上で固く握りしめた。

両親の視線から逃れるように、ただ小さな声で「はい」と返すしかなかった。


心の奥では、必死に願っていた。

――戻れるのなら、匠たちのところにすぐにでも戻りたい。

あの場所で過ごした日々こそが、自分にとって唯一の居場所だったのだから。


しかし、両親に自分の意思を伝えることができない。

怒られるとパニックになって、何も考えられなくなる。

ひたすら両親に「はい」と返事をし続ける。


保にとって、AIシステムの開発などどうでもよかったし、興味もなかった。

やっと見つけた仲間、気楽に話せる仲間と、ずっと一緒にいたかった。


康之は、マサチューセッツ州に作った会社を何としても成功させたかった。

会社を成功させて、世間の注目を集め、何としてもA製薬社長の座に返り咲きたかったのだ。


康之の妻は、A製薬社長の妻でないことに耐えられなかった。

そもそも、A製薬社長という肩書を持った夫にしか興味はなかった。

何としても社長に返り咲いてほしかった。


2人とも、見事なまでに自分のことしか考えない人間だった。

息子を自分たちの意のままになる道具だとしか思っていない。


いつもオドオドして、人とまともに話せない保の存在が、2人にはどうにも歯がゆくて仕方なかった。


「この子さえちゃんとやってくれれば、成功は目の前なのに」――そんな苛立ちばかりが胸を支配する。

こんな役に立たない子供が自分の息子だとは……クソ、クソ……ついていない!


ふと、康之の脳裏に社員の愚痴がよみがえる。

(そういえば……「K社からAIに関する特許について、いろいろ煩いことを言われています」と誰かが言っていたな……)


康之は保を睨みつけ、声を荒げた。

「K社から特許がどうとか言われているが、おまえにも考えついたAIのアイデアもあるのだろう?」


保は膝の上で拳を握り、俯いたまま動かない。

その様子に、康之は舌打ちを飲み込み、苛立ちを押し殺す。


「怒らないから正直に言ってくれないか? 大事なことなんだ」

声を落とし、なだめるように言う。


しばし沈黙の後、保が小さな声で答えた。

「……自分で考えたアイデアは何もないよ。僕は、匠くんたちが研究しているのを、ただ隣で見ていただけなんだ……」


その言葉を聞いた瞬間、康之の顔から血の気が引いた。

焦りが胸を駆け巡り、冷や汗が背中を伝う。


(どうすればいい……! これでは会社を作った意味がないではないか!)

心の中で叫びながら、康之は必死に出口を探そうとする。


「なぜそんな大事なことを今まで黙っていたんだ!」

声が荒れ、怒声となって保にぶつけられる。


だが保はうつむいたまま、唇を固く結び、体を硬直させていた。


このままでは世間の笑いものになる。

A製薬に返り咲くなど、夢物語に終わってしまうではないか。

焦燥が胸を締め付け、康之の拳が膝の上で震えた。


「匠たちがやっていた研究内容は……頭に入っているのか?」

問い詰める声は低く、しかし執念が滲んでいる。


「……全部、覚えています」

保はか細い声で答えた。


康之の目がギラリと光る。

(そうか……匠たちさえいなくなればいい……!)


その瞬間、胸の奥で邪悪な考えが膨れ上がっていく。

匠たちを消し去ってしまえば、保がすべて考え出したことにできる。


それで世界の注目を集めることができれば、AIの会社など用済みだ。

高値で売り払って、A製薬に返り咲けばいい――。


康之の心に、「匠たちは邪魔だ」という黒い感情が、音を立てて膨張していった。


***


2013年6月――


マサチューセッツ州の康之は、深い悩みの渦に沈んでいた。

保は相変わらずMITの研究者たちとまともにコミュニケーションを取ろうとしない。


(匠たちのアイデアでも、自分のもののように言えばいいのだ! 気にすることはない。やつらの存在が障害なら、俺がなんとかしてやる……!)


苛立ちが胸を焼く。

とにかくMITの研究者たちに、自分の頭に詰め込んだアイデアを吐き出せばいいのだ。


だが、AIシステムの開発は一向に進展しない。

ついにはMITの研究者たちが、会社に顔を出さなくなってしまった。


成果が出ないままでは、運転資金が底を突くのは時間の問題。

自ら用意した資金も、今年のクリスマスには完全に枯渇する見通しだ。


(何のためにアメリカに会社を作ったんだ……!)

金だけを失い、笑いものになり、無能の烙印を押される未来が、じわじわと迫ってくる。


残された時間は、もはやわずか。

康之の焦燥は、日に日に強まり、心を締め上げていった。



ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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