保、しっかりしろよ!
「せっかく大学生気分を味わうつもりでいたのに、これで良いのだろうか」とも思うのだが、こうなってしまったからには仕方がない。もう元には戻らないだろう。
未練はあるが、仕方ないから楽しい研究に集中しよう。
それにしても俺たちは、研究に集中しているだけでいいのだろうか?
このままの人生で良いのかな?
最近、少し疑問に思っている。
そういえば前世では、この時期に父の会社が倒産して大変だったな。
前世とは、まったく正反対な人生になってはいるけどね。
神様からギフトを頂いておいて、興味を持った研究だけに天才頭脳を使っているけど、これで良いのかな?
もっと違うことに使えよ……とか、神様から怒られないかな。
***
2009年9月――
保のやつは、まったく成長してない。
俺たち以外と話をする時は、いまだに声が小さいし、下を向いたままだ。
他の誰かと元気良く会話をするところを見たことがない。
母にも「はい」と「ありがとう」くらいしか言わないからな。
意志が弱いのも変わらないし、将来A製薬の社長になったりしたら、社員の言いなりだろう。
ところで……ついに、保が誘拐されそうになったのだ。
ボーッとした、スキだらけの子供に見えるからな。
スーパーでの買い物が終わって駐車場の車に向かう時だ。
突然、誘拐犯らしき人たちが走ってきて、ボーッとしている保を抱きかかえて、自分たちの車に引き込もうとしているのだ。
それでも保はおとなしい。
誘拐されそうになっているのに、大人しくするなよ。
悲鳴をあげるとか、抵抗しろよ。
おとなしく連れて行かれてどうする!
「おい! 保! 抵抗しろ! 噛みつけ!」
ガードマンたちが猛ダッシュで、誘拐犯との格闘を開始。
誘拐犯を投げ飛ばしたぞ……頑張れ、ガードマンさん。
何とか保を取り返してくれた。
(保! “ありがとう”はどうした。何も言わず、下を向いてどうする……!)
事なきを得たが、ひょっとしたら銃撃戦になるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。
アメリカ映画ではよく見るシーンだからね。
アメリカは、良いところもいっぱいあるけど、犯罪が身近な国だから、緊張感と強い意思を持って過ごさないといけないのだよ。
保は、アメリカで暮らすのは無理じゃないかな。
今思えば、教育プログラムとかに参加しないで、日本に帰ってもらった方が良かったのではないかと思う。
日本に帰っても、“A製薬会長や社長のコネ”を使って、どこかの大学には入れると思う。国立大は無理だけど……。
ところで、ガードマンさんは拳銃とか所持していないようなのだが、いざとなったら銃撃戦に対応できるのかな?
この国では、拳銃と防弾チョッキは、ガードマンの必須装備だと思う。
まさかとは思うけど、銃撃戦にでもなったら、「もう無理です」とか言って逃げ出したりしないよな。
彼らで本当に大丈夫なのだろうか。日本方式のガードは通用しないと思う。
***
保が今日の出来事を、宮原会長に連絡したみたいだ。
何でもかんでも……すぐに……連絡するなよ。
いつものことか……
優子も、俺と同じことを考えていたのだろう、ため息をついている。
会長も、保が心配なのだろうな。
「今日はどうだった?」とか聞かないではいられないのだろう。
リーマン・ショックの時も、そうだったのかもしれない。
翌週には、保君専属のガードマンが2人も日本からやって来た。
宮原会長がすぐに手配したようだ。
そういうところ……それを止めないとダメだと思うよ。
俺たちに保を預けっぱなしにするのも、そろそろ止めた方がいいよ。
日本の宮原の本家で、静かに、のんびり暮らすのがいいと思います。
***
2011年4月――
東日本で大きな地震が発生する。
自分に何かできることがあるのかな……貯金はあるから寄付はしたけど。
貯金といえば、株式投資でお金は増えているけど、増えたお金を世の中のために使ったりしてないな。
そもそも、どう使えば良いのかも分からない。
俺たちはもっと付き合う範囲を広げたり、友人を増やしたりしていかないといけないのではないだろうか?
大きな心配事は鈴森会長に相談に乗ってもらっているけど、もっと身近な小さなことを気軽に相談できる友人がほしい。
S大のキャンパスとか、近所のコミュニティに、そんな人がいるといいな。
AI開発が一段落したら、そういうことも考えていかないといけないかもしれない。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




